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偽善者と終焉の島 後篇 八月目

偽善者と『極塔之主』 その05

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天極の塔 最上層


「ま、勝負は俺の勝ちなワケだが――」

『……ハ?』
《……え?》

「――本気の偽装を掛けてあるから、そっちの負けになることは無いと思うぞ」


 転移して向かった先には、ダークエルフの少女が居た……年齢はアレらしいがな。
 褐色の肌に白い髪、鸚緑色の瞳を持つ少女は、俺の現れた先を示して唖然としていた。

 それと同時に、ここではないどこかからも声が聞こえてきた。
 少女の声よりは大人びた声で、こちらもまた驚きの声を上げている。


『お前は……さっきのノイズ野郎か!』

「ご明察。あのゲートは存在格で制限を掛けてるらしいからな、偽装するのに少々工夫を入れる必要があったってワケだ」

《しかしそれでも、ここに来れた理由にはなりません。このダンジョンでは、ダンジョンモンスターを送り込む以外の魔法陣が使えない筈です!》

「あぁ~……それは霧で無効化してた。よく思い出してみろ、魔法陣が霧が出てた時は機能停止してただろ? あの霧の効果で大半のことはできなくなる。それで俺はここに来れたし、アイツらを呼び寄せられたってワケ」


 俺が放ったのは、かつて彷徨の森で入手した"抑力の霧"である。
 解析班が色々な改造を加えた為か、放出される前の力をそのまま発動不可能にする……どこかの固有魔術愚者の世界みたいな効果を持ってしまった。

 確かに、大人びた声の言うことが本当ならば、その機能は事前に発動してたのだろう。
 ……だけど、その機能が一度リセットされればどうなるのだろうか?
 例えばそう――強化された霧に、魔力を大量に籠めれば発動済み・中の能力を無効化できる……いてついた波動的な能力を手に入れていたり。


「えっと、そう、自己紹介を忘れてたな! 俺はメルス、お前達がいるこの世界――All Free Online のプレイヤーの一人にして、何か色々とやらかして召喚された扱いになった転移者だ」

『……何か色々とやらかしたって一体何をしたんだよ。All Free Online? 聞いたこと無いタイトルだ――』

「その話はアイリスと既に済ませてある。お前のことも多分だが情報は入手済みだ」

『アイリス! お前、アイリスを知ってるのか!?』


 アイリスの名前を挙げた途端、少女はこちらに詰め寄り、腰をガクガク揺らしてくる。

 ……首まで届かないのか。
 仕方ないので意味も無くショタ化をして、一応首が届くようにしてあげる。
 少女も最初はギョッと驚いたが、俺が自分の服を指差すと、その行動の意味を理解してくれたようで、不満げだが服は揺らしてくれている。


「お前、結構分かってる奴だな……アイリスは一度死んで、転生していた。細かいことは本人が言わないからよく知らん。だが、一応安全な所で今は生きてるぞ」

『そ、そっかぁ。良かった。アイツ、生きてたのか~』

「(…………なぁ、大人びた声さんよ)」

《貴方、一体どうやって! ……というより何ですか大人びた声さんとは。ワタシはコアと申します》

「(シンプルな名前だな。昔の小説に書いてありそうな名前だと思うぞ。……って、違う違う。一応聞いておくんだが、コイツってアイリスのこと……)」

《えぇ、好きですよ。壁を超えるぐらいに》


 壁とは、ある種の法律のことである。
 つまり、それを超えるということは……。


「(キマシの塔の建設が必要か? あ、でも、男なんだよな?)」

《おや? アイリス様から訊きましたか? 彼女も知らない筈なのですが》

『…………』

「(レアな『眼』を持っていてな、体は女だが魂が男のものだってのが良く分かるんだよ。……まぁ、色が段々と変わっちゃってるのも理解できちゃうがな)」

《そこまで分かっていらっしゃるとは、その『眼』とやらが気になりますね》

『……い』

「(悪いが特別製でな。少なくとも、今のコアさんには無理だろう。……せめて、人の体があれば、習得も簡単だったんだが)」

《生命以外の存在に、仮初の肉体でも与えられるのですか?》

『……おい』

「(まぁ、そんなものだ。会ったことも無い神様がくれた加護にな、ほぼ何でも創れる気がしてくるって効果があったんだよ。それで人形を創ってみたら……できたって訳だ。コアさんも良ければ使ってみるかい? ま、先にそこの少女の許可を取るけどな。……アレ、男の方が良いかな?)」

《いえいえ、お気になさらず。マスターも言葉上では嫌がりますが、きっと――》

『おいっ! いい加減に話を聞けよ! コアも何か言ってやってくれ!』


 念話で会話を行っていた為、少女にはそれが分からない。
 その為自分が無視され続けていたと感じ、こうも怒っているのだろう。


《はて、マスターは一体何を仰られていたのでしょうか? 昔惚れた女性の話ですか?》

『ば、馬鹿! バラすんじゃねぇよ!』

《今のその体で、マスターは一体何をする気なので? 塔ですか、塔でも築きますか?》

『う、うぅ……』


 コアさんの辛辣(?)な言葉を受け、少女は涙目へとシフトしていく。
 いや、二人共楽しそうな気がするからさ、確実に辛辣とも説明ができないんだよ。


「……とりあえず、話を戻して良いか?」


 二人があっ、と言ったのを確認した後、俺は彼女たちとの話を真面目なものへと戻す。


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