452 / 2,519
偽善者と終焉の島 後篇 八月目
偽善者なしの『極塔之主』 その01
しおりを挟むとあるVRMMOにおいて、ある日、こんなやり取りがあったとされる。
『なぁ、一番難易度の高いダンジョンって、一体何処の誰が造ったダンジョンなんだ?』
『まぁ、個人で造ったか集団で造ったかで微妙に変わったりするんだが……多分、一番は『KANATA』の造る"天極の塔"だな。もう結構なプレイヤーやNPCが挑んだけど、未だに攻略されてないダンジョンだからな』
『へぇ~、俺は姫の"機動城塞"の捜索に忙しいからな。そういうのは全然知らなかったんだよ。ぶっちゃけこの話も、今急に訊きたくなったから訊いただけで、そこに行く予定は全然無いな』
『……あぁ、『アイリス』の造った動くダンジョンか。確か色んな場所を転々としてるから、全然見つからない幻のポケ◯ン扱いにされてるんだっけか』
『そうだよそうなんだよ! 『ハウルさん家の動くお城』とか『移動要塞デストロイスパイダー』とかもあるにはあるけど、そんな移動系のダンジョンの中で最も高難易度かつ優しさに溢れたあのシステム! やっぱり姫って感じだな~って思うんだよ』
『……結構前からやってるが、あんまり分からないんだよな、その気持ち。
まぁ、それは置いておくにしても、あの塔はちょっとレベルって言うか次元って言うか……とにかく、何か他のダンジョンとは違うナニカがあるんだよ』
『へぇ~、そうなんだ~』
『お前から訊いてきたんだろうが!』
かつてそのVRMMO――『Dungeon Master Online』において、その塔はある日突然消息が不明となった。
誰一人として攻略ができないでいたその塔は、ゲーム内において建てられて丁度百年を過ぎたその日――地面が抉り取られるような形で消え去っていたのだ。
攻略しようと日々励んでいたプレイヤーたちは、最初の内は捜索したが、製作者側に問題が起きたのだと自己完結をし、探すのを止めた。
そして、"天極の塔"は一種の都市伝説という形で人々の頭の片隅に忘れ去られた。
そして現在、『DMO』において無敗を誇れたダンジョンは二つしか存在していない――が、どちらもそうして、ある周期を境に消息を不明としたのであった。
SIDE ???
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そこは、塔の最上階に用意された、ごくありふれた家具が揃った部屋である。
窓は閉まりカーテンが掛けられ、外を見ることはできない。
「あぁ~だりぃ~。おいコア、ここに来てから一体どれだけ経ってるんだ?」
ソファの上で寝転がっていたその少女は、あくびをしながらそう言って、誰もいない空間にそう語り掛ける。
褐色色の肌と白い髪、普人よりも少し長い耳を持った彼女は、優れた容姿を歪ませて、心底退屈であることを表現していた。
するとそれを感じたのか、どこからか声が聞こえる――
《このダンジョン内で用いられている時間と照らし合わせますと……百年が経過していると思われます》
「そりゃあ暇に感じるワケだ! ったく、急に異世界に飛ばされてからあの手この手で生き残ろうと必死に頑張ってたって言うのに、まさかの強制転移で封印だぞ? こっちの世界の神様ってのは、どうにも堪え性が無いと言うか何と言うかねぇ」
《そうですね。この世界において、絶対に攻略されないダンジョンというものが不要だったのでは? と思います》
「ったく、何の記念だか知らねぇ機能なんか使わなきゃ良かったぜ」
《ですから忠告したのです。不用意に使わずに、一度お確かめになられては? と》
「あぁっもう! 過ぎたことを言ってたって仕方が無ぇじゃねぇか! 大体、あの時コアだって特に怪しい部分は無いって言ってただろうが! 俺だけが悪いみたいに言うんじゃねぇよ!」
《ワタシはただ、あの機能が正しく使えるかどうかを答えただけであって――――》
二人のこのやり取りは百年間ずっと続けられている……が、二人の言葉からは親愛の情が感じ取られ、これがただの暇潰しであることは明白である。
――しかし、いつも通りであったのはここまでであった。
ウー ウー ウー ウー
《――ッ! マスター、これは!》
「……あぁ、百年間使われちゃいないとはいえ、ちゃんと覚えているぞ。侵入者か……確かここって誰も入って来られない場所じゃ無かったっけか?」
《恐らく、少し前に感知された来訪者かと思われます。只今、一階層目の映像を用意しますのでしばらくお待ちを》
突然警告音が鳴り響き、彼女達の会話は打ち止められる。
しかし両者共、その音を待ち侘びていたかのように思われた。
《――お待たせしました、映像が出ます》
「……ん? こりゃ女か? コア、確か前に言ってた来訪者って――」
《はい、確か男であったと。……その反応も既に行方が分かりませんし、もしかしたら別の者が新たにここに来たのかも知れません》
「俺にとっちゃあそっちの方が好都合だな。
この体が男に会ってどういう反応をするのか……正直、恐怖物だしな」
そうやって会話をしていると、映像に映っていた女が、見えていない筈の映像の始点に向かって発声していく。
それは、彼女たちの百年の停滞を打ち壊していく喜劇――その最初の出来事である。
『あっあ……ゴホンッ。このダンジョンのマスターに告げる! これから一時間後に、このダンジョンにダンジョンバトルを申し込みます! 拒否する場合はそのまま攻略するので、是非受け入れて貰えるとありがたい。
……では、また一時間後に』
ポカーンと呆けたような表情を二人がしている間に、彼女は満足そうな顔を浮かべ、この場から立ち去っていった。
TO BE CONTINUED
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる