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偽善者と終焉の島 後篇 八月目

偽善者と放映試合 その06

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『あ、アンさん……アレは一体、何なんですか!? 凄すぎじゃないですか!!』

『えぇ、アレこそグラ様とセイ様の合体技の一つ"双極"です。聖属性と邪属性の相反する力を銃口に籠め、それを解放することでそれぞれを一発ずつ放つ以上の消滅エネルギーを生み出すのです。これもまた、<虚空魔法>をメルス様一人で使う為の条件でもあります』

『普通、聖と邪は同じところにないからね』


 (邪属性付与)で少しだけなら確かに可能なのだが、(邪氣)は持っていないので最大量が少ないのだ。
 俺が邪神になれば、多分その問題も解決するが……俺は絶対に邪神にはなれない。
 その理由があるんだ。


『――さて、今の一撃を防げた者は……あまりいませんね。放映時間的にも、長時間過ぎる試合は避けたかったので丁度良いです』

『……その言い方は、ちょっとどうかな? 
えっと、さっきの攻撃は本当は避けるのが正解だったけど……<広範魔法>と<極大魔法>の影響で大きくなってたから、避けることは不可能だったんだよ』

「(――"反射結界")」


 まぁ、それの消費が半端無いから、今は休息が必要なんだけどな。
 [神代魔法]はどんな用途であれ、常人のMPが枯渇する程に消費量が多いのだ。
 だから今は、再び彼女達と戦闘を行うだけの力を戻さないと。


「(グラ、セイ、お疲れ様)」

《ふぅ~、やっぱりアレは疲れるね》
《上手くできたでしょうか?》

「(当然だ。二人のお蔭であと四人になったんだからな。二人はまた待機に移行してくれ)」

《はーい》
《了解しました》


 そう、もうこの場に残っているのはリュシル、ミシェル、シュリュ、フィレルだけだ。
 やけに最後の母音が『ウ』な奴等が残ったワケだな。

 リュシルを除く三人は、持ち前の勘と実力で攻撃への対処を行った。
 聖や邪の力で盾を創り出したり、神氣を使用したり、龍と吸血鬼の力を使ったりして。

 リュシルの場合は……アレだ、マシューが攻撃を肩代わりしたからだ。
 いつもはリュシルをからかってはいるが、その忠誠心はリョクに匹敵するかなりのものである。
 自身の持つ様々な能力を駆使して、彼女を守り抜いたのだ。

 いや~、美しきかな主従愛(?)だよな。


「さて、チャージも終わったが、結局誰も攻撃をしてこなかったな」

『反射されると困りますしね』

「まぁ、そうなることを期待してたからな」

『それに、こっちも回復しないと駄目だったから、メルスのそれを待つのは、こっちとしても好都合だった』

『神氣は消費が激しいからな』

『あの娘も見てますし、下手な戦いを見せるワケにはいきません』


 結界を解除すると、四人は俺を囲むように集まってくる。
 こっちに来てから色々とやったので、強力な武器も装備している。
 鬼に金棒とはこのこった(うちの鬼が持ってるのは大剣だけどな)。

 リュシルは杖、ミシェルは槍、シュリュは偃月刀、フィレルは手甲鉤――どれもこれもが魔具であり、俺が(暇潰しに)造り上げた作品である。


「……う~ん、しょうがないか。最後は全員纏めて使うとしようか。スー、グー、リー、ギー、ドゥル、俺の力になってくれ」

《《《》》》


 その瞬間、再び俺の体から光が飛び出して所々で形を変えていく。

 指には指輪、妖しくも美しいその輝きは、世の女性達を釘付けにする程だ。
 右手には本、中に記されるのは知ってはならない禁忌の知識。この本を読むことのできた者は、例外なく発狂してしまうだろう。
 左手には水晶、光の当たる角度によって綺麗な虹色の光を反射させている。
 右腕には腕輪、青い宝玉の嵌められたそれは、近未来的なデザインであった。
 そして――


「(……スーさん、どうして貴女は浴衣になっているのでしょうか)」

《カッコイイから》
《似合っているよ、マスター》


 ――身に纏う服は、かつては寝間着としても使われていたという浴衣に変わっていた。
 ……うん、理屈は何となく分かるよ。睡眠関係で快適な形に調整してくれたんだよな。

 ――だけど、デザインがな~。

 水色と白に見える透明な色を合わせてデザインされた浴衣は、完全に着る人を選ぶような代物である。


「(無理だろ、俺には絶対似合わないだろこのデザインは。一部透けちゃってるし、アマルとかウルスとかだったらまだ分からないよ。アイツらイケメンだし、スタイル抜群だし、出して恥ずかしい部分なんて無いからさ。だけど俺は無理だろう。スタイルは普通で、顔も不細工……何よりモブだからな。こんな素晴らしいデザインは、俺みたいな奴よりイケメンの方が似合ってるだろう……)」

《ほら、落ち着いて。リー、早くメルスを褒めて。率直な感想を告げて》

《そ、それならギーが伝えればいいんじゃないの!》

《駄目、早くリーが伝えて》

《う、うぅ……メ、メルス、その、似合ってます……よ》

「(う、嘘だ! 俺みたいなカースト底辺の野郎が、スーデザインの浴衣を着こなせる訳が無いじゃないか!)」


 戦闘中だということも忘れ、俺は自身の浴衣のことで悩む(幸い見たところ、彼女達の方も何故か硬直してるしな)。
 既に肉体は元の姿に戻っているので、ショタ補正が付いているワケでもない。
 そんなただのクソ野郎である俺なんかに、可愛らしいスーが肉体を作り変えて用意してくれた服が着こなせる筈が無いだろうが!

 自己卑下がかなり進んでいったところで……ある質問がスーから問い掛けられた。


《メルス、私の服……嫌?》

「(そ、そうじゃないんだよスー。ただ、俺には分不相応というか、選ばれた者だけが着れる服と言うか……)」

《メルスだけの服、誰も気にしない》

「(そ、そういうことじゃ無くて――)」

《それに、メルスに着てほしい。お願い》


 グハッ! ここまで言われると、さすがに否定し辛いな。
 あれだ、娘が買ってきた少し色が派手なネクタイを締めることになったお父さんの気分が、今ならなんとなく分かる気がする。


「(……ハァ、せめて似合うだけの品格が欲しいな)」

《女を知れば、それも付くかもね》


 ……いや、無理だろう。


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