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偽善者と終焉の島 後篇 八月目

偽善者と放映試合 その03

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(――"転移眼""虚空結界・多重/広範")


 (転移眼)で飛んだ先にいる眷属と俺を、(結界魔法)と<虚空魔法>を合成した凶強な結界で包み、脱出・救出不可な状態にする。


「それじゃあ、早速やろうか」

『確かに、私以外にこの結界を直ぐに壊せる人はまだいないものね』

「そうそう、縛りルールであったとはいえ、『ひのきのぼう』で魔王を倒せる奴なんて、ティルぐらいしかいないからな」


 ――アレは凄かった。
 聖剣として使えるようにはしてあったが、まさかそれで魔王相手に優位に立つとは……ステータス的には魔王の方が上だったんだがな……(誰が倒されたかは、本人のプライドもある為言わないぞ)。

 今のティルは、ちゃんとした剣――自身の持っていた獣聖剣を装備している。
 その状態であるからこそ、彼女は次元だろうと虚空だろうと何でもスパスパと斬ってしまうのだ。


「――まぁそれはともかく、一撃では無いとはいえ、他のみんなも壊せるには壊せるんだからな。早め早めの決着を望んでいるんだが……」

『やらせると思う?』

「デスヨネ~……と言いたいところだが、今回は押し通らせてもらうぞ。武具っ娘たちの力を使うんだからな」

『ふ~ん……』


 なにか言いたそうだが時間が無い。
 ――一気に行かせてもらうか。


「二人共、使わせてもらうぞ! (――(変身魔法)(獄炎付与)(怨呪付与))」

《う、うん!》《おっけー》


 握り締めた包丁に怪しく妖しい力が纏わり付いていく。
 それは黒い焔のようにも見えるが、激しく揺れ動く姿が酷い恨みを抱いた亡者達のようにも見える。
 ……まぁ、どちらも正解なんだろうかな?

 (獄炎付与)はモテない者たちの【嫉妬】の業火を体現し、決して消えることの無い炎で対象を燃やすことができる。
 (怨呪付与)はモテない者たちの怨恨を体現し、切り付けた対象に様々な状態異常を与えることができる。
 そしていつもご愛用の(変身魔法)だが、今では俺の能力値さえ足りれば、変身した対象の身体能力まで模倣できるようになった(もう完全にサポーター君ではないか)。

 俺が変身したのは――


『……なんで、子供なのよ』

「う~ん……なんとなくかな? ほら、今ならもれなく狼耳も付けるからさ」


 ――狼獣人の子供の姿であった。
 いや、敏捷性が高そうな種族と言えば獣人だろ?
 で、子供の方が野を駆け山を駆けって感じで速そうだろ?
 狼って速そうだろ? ……と、言うワケでこうなりました!


『い、いらないわよ。そ、そんな偽物。ど、どうしてもって言うなら触ってあげなくも無いことも無いけど……』

「ふ~ん、そっか。要らないっていうなら、必要ないか『あっ』……ハァ。終わったらもう一度なるから、その時にな」

『あ、ありがとう……』


 俺の尻尾と耳を見て、彼女自身のそれらも反応してたのだが……今触るワケにはいかないのだ!
 心を鬼にして解除しようとしたのだが……あまりに反応が可愛かったので、仕方無くそのままにしておいた。


「おっと、段々罅が入ってきてるな。ティルさんや、そろそろ行かせてもらいますよ」

『えぇ、全力で来なさい。こっちも全力で迎え撃つから』

「あぁ、了解だ(――"形状変化:鮪包丁")」


 ティルが剣に聖氣を籠め始めたので、俺も準備を行っていく。
 和出刃包丁のような形状であった"ヤンデレ包丁"を、鮪の解体に用いられる巨大な包丁へと変化させる。
 そして魔力を流し、纏わり付く二つの力を更に強力にしていく。

 そして相対し、チャンスを狙う。
 ピキッ、という罅が拡大する音が聞こえたその時、俺とティルは動いた。


『「シッ――!」』


 聖剣と魔包丁がぶつかり、周囲に衝撃を響かせていく。
 剣士として極みに達しようとする彼女の一撃一撃はとても重く、筋力だけでは勝つことができないことが良く分かる。


『{他力本願}は使わないのねっ!』

「う~ん……使っても良いけど、使える中で一番強いのがティルの経験だからな~。本人の真似事をしても、本人以上の結果がでないことは解ってるさ。だから、別のものを使うよ(――【剣心一体】)」

《任せといて、時間は稼いでおくから!》

「(剣術単体じゃ絶対に勝てないからな)」

《シーと一緒に粘っておくね》
《そ、そんなに長くは持たないからね》

「(……って、完全に別の作業に移るワケじゃないんだし、そこまで心配するなよ。ちょっと技の溜めをする間を稼いでもらうだけだ。意識の大半は結局ティルと闘うんだし……共同作業で頼むぞ)」

《……わ、分かった!》
《は~い》


 うん、別に大きな違いは無いんだけどな。
 ただ黙って黙々と裏でスキル発動と合成を大量に行わないといけないから、ティルに何かやっているのがバレるだけなんだよ。


『……怪しいわね。少しだけ対応速度が遅れてるわよ』

「…………」

『何か企んでることだけは分かるわ。なら、今の間に殺らせてもらう!』


 そう言うとティルは言葉通り、殺気を放ちながら今まで以上の剣速で攻撃を繰り出す。


《メ、メルス君! ま、まだっ!?》
《これはこれは……ちょっと強くなっただけで、もう回復が追い付いてないや》

「(ちょっと待て、後少し……よしっ、できたぞ! ――"斬々舞")」

『くっ、これはっ!』


 そうして放った一撃。
 ――最初は"スラッシュ"であった。
 なんてことはない、初歩中の初歩の武技。
 だが、そうやって武技が何重にも重なってコンボとして打ち込まれたら、どうなるだろうか。


「ま、一人じゃできないし、ティルにも体のスペック的にこれはさすがに無理だ。人外にでもなれば、話は別だがな。体が勝手に動くのがちょっと問題だが、順番ぐらいは後からでも変えられるし……まぁ、後出しの利だ」

『……いつか、絶対同じことをやってやるわよ。その時は認めなさいよ』

「はいよ、でも今回はここまでだなっと!」


 光速で連続で流れるように武技を繋いでいき、剣聖であるティルを追い詰めていく。
 どうせなら、剣鬼のようにカッコ良くやりたいという願望もあるが……一本の剣と称せるような生涯を歩んでいないもんな。

 意識して"聖劉剣"を放ち、ティルの体を斬り裂く。
 ……この修練場、死ぬと自室に戻される機能が付いたんだよ。眷属限定の効果だが。


「よし、これで結界の心配は無くなった……おぉ、そろそろ壊れるや。やっぱり結界を創るのにMPケチったのが悪かったかな?」


 そう呟いている間も、罅はかなり大きなものになっていく。


「シー、ヤン、ご苦労様」

《や、役に立てたなら嬉しいよ》《今度お礼でもしてね》

「了解だ」


 そう言ってから、"ヤンデレ包丁"を元の場所に大きさを戻してから仕舞う。
 ……さて、次は誰を使おうか。


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