444 / 2,519
偽善者と終焉の島 後篇 八月目
偽善者と放映試合 その03
しおりを挟む(――"転移眼""虚空結界・多重/広範")
(転移眼)で飛んだ先にいる眷属と俺を、(結界魔法)と<虚空魔法>を合成した凶強な結界で包み、脱出・救出不可な状態にする。
「それじゃあ、早速やろうか」
『確かに、私以外にこの結界を直ぐに壊せる人はまだいないものね』
「そうそう、縛りルールであったとはいえ、『ひのきのぼう』で魔王を倒せる奴なんて、ティルぐらいしかいないからな」
――アレは凄かった。
聖剣として使えるようにはしてあったが、まさかそれで魔王相手に優位に立つとは……ステータス的には魔王の方が上だったんだがな……(誰が倒されたかは、本人のプライドもある為言わないぞ)。
今のティルは、ちゃんとした剣――自身の持っていた獣聖剣を装備している。
その状態であるからこそ、彼女は次元だろうと虚空だろうと何でもスパスパと斬ってしまうのだ。
「――まぁそれはともかく、一撃では無いとはいえ、他のみんなも壊せるには壊せるんだからな。早め早めの決着を望んでいるんだが……」
『やらせると思う?』
「デスヨネ~……と言いたいところだが、今回は押し通らせてもらうぞ。武具っ娘たちの力を使うんだからな」
『ふ~ん……』
なにか言いたそうだが時間が無い。
――一気に行かせてもらうか。
「二人共、使わせてもらうぞ! (――(変身魔法)(獄炎付与)(怨呪付与))」
《う、うん!》《おっけー》
握り締めた包丁に怪しく妖しい力が纏わり付いていく。
それは黒い焔のようにも見えるが、激しく揺れ動く姿が酷い恨みを抱いた亡者達のようにも見える。
……まぁ、どちらも正解なんだろうかな?
(獄炎付与)はモテない者たちの【嫉妬】の業火を体現し、決して消えることの無い炎で対象を燃やすことができる。
(怨呪付与)はモテない者たちの怨恨を体現し、切り付けた対象に様々な状態異常を与えることができる。
そしていつもご愛用の(変身魔法)だが、今では俺の能力値さえ足りれば、変身した対象の身体能力まで模倣できるようになった(もう完全にサポーター君ではないか)。
俺が変身したのは――
『……なんで、子供なのよ』
「う~ん……なんとなくかな? ほら、今ならもれなく狼耳も付けるからさ」
――狼獣人の子供の姿であった。
いや、敏捷性が高そうな種族と言えば獣人だろ?
で、子供の方が野を駆け山を駆けって感じで速そうだろ?
狼って速そうだろ? ……と、言うワケでこうなりました!
『い、いらないわよ。そ、そんな偽物。ど、どうしてもって言うなら触ってあげなくも無いことも無いけど……』
「ふ~ん、そっか。要らないっていうなら、必要ないか『あっ』……ハァ。終わったらもう一度なるから、その時にな」
『あ、ありがとう……』
俺の尻尾と耳を見て、彼女自身のそれらも反応してたのだが……今触るワケにはいかないのだ!
心を鬼にして解除しようとしたのだが……あまりに反応が可愛かったので、仕方無くそのままにしておいた。
「おっと、段々罅が入ってきてるな。ティルさんや、そろそろ行かせてもらいますよ」
『えぇ、全力で来なさい。こっちも全力で迎え撃つから』
「あぁ、了解だ(――"形状変化:鮪包丁")」
ティルが剣に聖氣を籠め始めたので、俺も準備を行っていく。
和出刃包丁のような形状であった"ヤンデレ包丁"を、鮪の解体に用いられる巨大な包丁へと変化させる。
そして魔力を流し、纏わり付く二つの力を更に強力にしていく。
そして相対し、チャンスを狙う。
ピキッ、という罅が拡大する音が聞こえたその時、俺とティルは動いた。
『「シッ――!」』
聖剣と魔包丁がぶつかり、周囲に衝撃を響かせていく。
剣士として極みに達しようとする彼女の一撃一撃はとても重く、筋力だけでは勝つことができないことが良く分かる。
『{他力本願}は使わないのねっ!』
「う~ん……使っても良いけど、使える中で一番強いのがティルの経験だからな~。本人の真似事をしても、本人以上の結果がでないことは解ってるさ。だから、別のものを使うよ(――【剣心一体】)」
《任せといて、時間は稼いでおくから!》
「(剣術単体じゃ絶対に勝てないからな)」
《シーと一緒に粘っておくね》
《そ、そんなに長くは持たないからね》
「(……って、完全に別の作業に移るワケじゃないんだし、そこまで心配するなよ。ちょっと技の溜めをする間を稼いでもらうだけだ。意識の大半は結局ティルと闘うんだし……共同作業で頼むぞ)」
《……わ、分かった!》
《は~い》
うん、別に大きな違いは無いんだけどな。
ただ黙って黙々と裏でスキル発動と合成を大量に行わないといけないから、ティルに何かやっているのがバレるだけなんだよ。
『……怪しいわね。少しだけ対応速度が遅れてるわよ』
「…………」
『何か企んでることだけは分かるわ。なら、今の間に殺らせてもらう!』
そう言うとティルは言葉通り、殺気を放ちながら今まで以上の剣速で攻撃を繰り出す。
《メ、メルス君! ま、まだっ!?》
《これはこれは……ちょっと強くなっただけで、もう回復が追い付いてないや》
「(ちょっと待て、後少し……よしっ、できたぞ! ――"斬々舞")」
『くっ、これはっ!』
そうして放った一撃。
――最初は"スラッシュ"であった。
なんてことはない、初歩中の初歩の武技。
だが、そうやって武技が何重にも重なってコンボとして打ち込まれたら、どうなるだろうか。
「ま、一人じゃできないし、ティルにも体のスペック的にこれはさすがに無理だ。人外にでもなれば、話は別だがな。体が勝手に動くのがちょっと問題だが、順番ぐらいは後からでも変えられるし……まぁ、後出しの利だ」
『……いつか、絶対同じことをやってやるわよ。その時は認めなさいよ』
「はいよ、でも今回はここまでだなっと!」
光速で連続で流れるように武技を繋いでいき、剣聖であるティルを追い詰めていく。
どうせなら、剣鬼のようにカッコ良くやりたいという願望もあるが……一本の剣と称せるような生涯を歩んでいないもんな。
意識して"聖劉剣"を放ち、ティルの体を斬り裂く。
……この修練場、死ぬと自室に戻される機能が付いたんだよ。眷属限定の効果だが。
「よし、これで結界の心配は無くなった……おぉ、そろそろ壊れるや。やっぱり結界を創るのにMPケチったのが悪かったかな?」
そう呟いている間も、罅はかなり大きなものになっていく。
「シー、ヤン、ご苦労様」
《や、役に立てたなら嬉しいよ》《今度お礼でもしてね》
「了解だ」
そう言ってから、"ヤンデレ包丁"を元の場所に大きさを戻してから仕舞う。
……さて、次は誰を使おうか。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる