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偽善者と終焉の島 後篇 八月目
偽善者と『吸血龍姫』 その04
しおりを挟む『な、何なんだい……それは』
「魔法だよ、ま・ほ・う。というか、今まで一回も魔法以外で攻撃してないだろう。それぐらい察して欲しいよ」
『ふーん、その珠一つ一つに別々の属性を感じるね。だけど――多過ぎないかい?』
そう、彼女の言う通りだ。
現在、俺の周囲を飛び交っている宝珠の数は、五十を超えている。
元々は【森羅万象】が持つ固有の魔法で、ここまでの数は想定されていなかった筈なのだが。
何故こうなったかと言うと――
「これはな、俺の持つ魔法属性の一部なんだよ。俺が極めた魔法属性を宝珠型に具現化させてできた、俺のその魔法の経験全てだと思えばいいか? ……まぁ、被ってるのが多かったし、少し減らしたんだけどな」
『減らした……この数でかい?』
「そこら辺は眷属が関わっているから、あんまり気にしないでくれ」
『……苦労してるんだね』
――全くだよ。
俺にその気が無いのにアレをあの手この手で求めて来たり、人の部屋にこっそりと忍び込んで来たり……あれ?
そういうのが、俺の重荷になってるんじゃないか?
《君の為のことさ、みんなが自分から進んでやろうとしていることに、そうやってケチを付けちゃいけないよ》
「(……いや、話を別にするなよ)」
お前らの艶姿はな、俺の精神値をゴリゴリ削っていくんだよ!
揃いも揃って美少女や美女だっていうのにさ、どうして桜桃を苛めるのかなー!?
「――っと、今は先にフィレルだったな。とりあえず……冷やすか(――"ブリザード")」
近くに浮かんでいた冷気を放った宝珠を手繰り寄せ、強烈な冷風を届ける。
『こん、なの……無駄だよ!』
ドレスの白い部分が熱波を放ち、広範囲に発生させた冷風を無効化していく。
ドレスにそんな効果があるんだな。
意外と生体武具かも知れないな(ドラゴンは鱗を服にもできるって、シュリュに聞いたから分かるが)。
「なら、これならどうだ? (――"ポイズンランス"×100)」
宝珠を宙に放り、今度は毒々しい宝珠を手に持ち、その色と同色の槍を無数に放つ。
『馬鹿正直に燃やすと思われてるなら、アタイも舐められたもんだね!』
それを見た彼女はドレスの発光を解除し、毒の槍を足捌きだけで避けていく。
……彼女の予想は当たっており、一定以上の温度になると気体になり、様々な症状を起こす毒が槍になっていたのだ。
――ま、躱す意味は無いけどな。
俺が指パッチンを鳴らすと飛んで行った槍が昇華し、毒ガスを散布していく。
『クッ、結局撒かれるってワケかい。だが、そう上手くはいかないよ! ――ハッ!!』
彼女の覇気(?)が辺り一帯の空気を吹き飛ばし、毒もそれと共に散らかってしまう。
あ、龍の咆哮か?
どちらにせよ、この方法も駄目か。
「うーん。やっぱり単体での攻撃じゃいかにも上手くいかないもんだな~。殺す訳にもいかないし、あんまり強過ぎるとな~。まぁ、全部試してみれば良いか」
ブツブツと呟きながら、手当たり次第に宝珠を掴んで魔法を発動させていく。
火・水・風・土・雷・無・重力・時・空間・木・海・精霊・竜・血・虫……全てを試してみたのだが――何一つ、彼女に傷を付ける属性は存在しなかった。
『どうしたんだい? もう手品のタネは尽きたのかい?』
「いやー、まだまだ~。……やっぱり複数の宝珠を掛け合わせるのがベストなんだよな。でも、太陽が大丈夫な吸血鬼でドラゴンなロマン種族に効く属性って言うと、数が少な過ぎる気がするんだよな~」
宝珠をパズルのように組み合わせながら、彼女への対策を思考内で考えていく。
宝珠の属性を組み合わせた際のパターンは全部頭に記憶してあるのだが、彼女の見た感じの能力値で耐えられそうな合成属性をシュミレートしなければいけない為、少々時間が掛かる。
『ヤバそうな気がするね……なら、アタイも攻めさせてもらうよ!』
「あー、それは不味いな~」
『それなら、もっと、不味そうな、動きを、しなよ!』
随時アップデートしている(反射眼)で、彼女が振るう爪による攻撃を躱していく。
反撃に出てもいいのだが、魔法縛りでやってみるのも一興だし……今は属性を決めることに神経をすり減らそうか。
『それ、ならっ!』
爪による攻撃を止め、どこからか武器を出現させる。
棍のような形状をした棒だが、鱗がびっしりと貼り付けられており、その鱗自体が綺麗な色を放って輝いていた。
「おいおい、魔法職にそれをするのはちょっと苛めなんじゃないのか? ……って、そういえば今の俺って無職なんだっけ。危ない、危ないからさ! こっちは素手だよ、平和にいこうじゃないか平和に。って、それ三節根じゃねぇか! 伸びてる、俺の危険領域まで棍が伸びちゃってるよ!」
『煩いねぇ。嫌ならさっさと当たってくれないかい? ……それに、そんな喋る余裕を見せつけられて、アタイがアンタに容赦すると思うかい?』
「もう良いじゃん、証明したじゃん。容赦できないってことは俺が主になれるってことだろ? もう戦闘する必要ないよな? 基本的に戦いを望んでいる訳じゃ無いからさ、安全第一の平和主義なんだよ俺は」
『いいや、そんなんじゃ駄目だ。それじゃあ……アレには届かない(ボソッ)』
また面倒そうな展開だな。
どうせまた神のアレか;も~、ここの奴等はどうして楽しんで生きていられないんだ!
偽善者的に、絶対働かなくちゃ駄目だろ!
「――なら、一気に決めるぞ。一応でも強者の主であることを……その身で味わえ」
宝珠を全て束ね、その場に一つの宝珠が誕生する。
その宝珠が存在する場所はまるで何も存在しないかのように、宝珠の先を見ることができた。
だが、不思議なことにその先は歪曲しており、その地帯が強烈な力によってゆがめられていることを意味している。
俺はそれに力を籠めて、彼女へと――
「死ぬなよ――"虚無"」
最強で最凶の魔法を解き放つ。
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