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偽善者と終焉の島 後篇 八月目

偽善者と強者探し 後篇

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夢現空間 自室


 俺は強者の内、地下にいる奴に会うことを最初にすることにした。

 だが、相手はロマン種族だ。
 俺が(異端種化)でなるなんちゃっての擬きとは違う、完璧な状態での調和がされた――本者ホンモノといったところだろう。


「(おーい、シュリュー。吸血鬼と龍の力を兼ね揃えた存在について知らないか~?)」


 その強者は龍氣の持ち主とのことだ。基本龍氣は、龍にしか持つことができない。
 ……と、いうワケでシュリュならソイツについて何か知っていると思ったのだが。


《吸血鬼? ……すまないが、朕には覚えが無い。朕の居た大陸には、竜の系譜に連なる者しか住んでおらん故》

「(えっと~、つまり他種族とのハーフが生まれる可能性が無いってことか?)」

《その通りだ。朕の大陸は他の大陸との関係が無かった為、別の種族に関する情報もあまり持っていない。朕が死んだ後、別の大陸を見つけたと言っていた気もするが……》

「(そっか、情報提供感謝する)」

《だから、朕は何も知らないぞ》

「(知らないってことを知れたからそれで良しだ。それに、二度目のことを思い出させてしまったしな)」

《……気にするな。朕はもうメルスによって三度目の生を歩んでいるのだ。
 過去のことは過去のこと、今をメルス達と共に生きるだけだ》


 シュリュからは、強者に関する情報を知れなかった。
 ……まぁ普通、別の大陸のことって海を渡らないと知れないもんな。
 とある骸骨は別大陸まで移動してたけど。
 アイツ、魂のことしか頭に入れてないんだよな~。

 シュリュとの念話を切った後に、俺は別の眷属へと念話を掛ける。


《――はい、どうしました?》

「(リュシル~、吸血鬼と龍の力を持った存在に心当たり無い~?)」

《……あぁ、『吸血龍姫』ですか》

「(そうか、やっぱり知らない……って、知ってるのか?!)」

《え、えぇ。陽光龍と先祖返りの始祖吸血鬼の娘――太陽に愛された完全無欠の吸血姫のことですよね?》


 ロマン種族でチート種族……しかも称号付き! どこまでも男心を擽り過ぎる素晴らしい存在だった!

 でも、女だったのか。
 女限定の種族でTS必須って展開になるのなら……さすがに色々と悩むな。


「(……って、ソイツ以外に吸血鬼と龍の力を持った奴はいないのか?)」

《少なくとも、ここに封じられるような人は知りません。『吸血龍姫』はその二人から継いだ強大過ぎる力故に、どこか別の場所に封印されたと知られていましたが……まさかこの島とは……メルスさんの眷属の方々を見れば、そういった伝説上の人もこの島にいるとは予想していましたが。しかし、あの『吸血龍姫』の他にもあと三人? まだメルスさんが会っていないから不確定だけど、もし本者だったならばあの伝説の真実が分かるの? なら他にも封印されている存在につい……フギャッ!》

「(お、お~い、大丈夫か~?)」


 いつものように思考の海に沈んで行こうとするリュシルが、突然奇声を発した(まぁ、念話の中でだが)。


《創造者(クリエイター)、またしても開発者(ディベロッパー)が暴走してしまい申し訳ありません。頂いた張り扇ハリセンで叩いたので直ぐに戻ります》

《……痛ぃょ~。マシュー! 痛いじゃないですか!》

《えぇ、痛いですよ。そんな残念な開発者を叩く私の心も、開発者のいつまでも続く話を聞かされた創造者の心も……》


 いや、慣れたから問題無いがな。
 毎度毎度こんな感じで、このコンビはやっている。
 このやり取りって、結構心が癒されるんだよな~。


《……ぁぅぅ。だ、だってあの『吸血龍姫』ですよ! 数々の伝承を残したあの!》

《あのあの言われても分かりませんよ。そういうことは、私に詳細な情報をプログラムしてから言ってください》

《マシューだって、凄いと思いませんか? 物語の中だけの話だと思っていた人物に、本当に会えるのですよ! それがどれだけ素晴らしいことか――分かりますよね!?》

《そうですね……あまりにも知識を集めた結果神に封印された学者や、どんな奴でも顔が良ければ自分の手籠めにしてしまう男でしたらここに居ますけど。そういった方々もきっと、物語に記されるぐらいには問題が多い人物だと思いますよ》

《うっ、うぐっ!》
「(……なぁ、何で俺も巻き込んだんだ?)」

《いえ、私が良く知り得るのはその御二方だけですので。それに……どちらも私を構成する大切な要素でもありますし》

「(《マシュー……》)」

《へ、変なことを考えないでくださいよ! わ、私はただありのままの事実を告げただけでは無いですか!》

「(《うん、そう(だな)(ですね)》)」


 普段は毒舌のマシューではあるが、このような可愛い部分ところもある為、俺とリュシルはこうして和んでいるのだ。


《……クッ、そんなことより創造者。開発者が興奮していた『吸血龍姫』が地下にいるのは、開発者の盗聴を同時に聞きましたので理解していますが――》

《マシュー?!》

《その地下とやらには、どうやって行くのでしょうか? 創造者のスキルや魔法、魔道具などを使えば不可能では無いと思いますが、地下と言っても本当に地下の空間に居るというワケでは無いのでしょう?》

「(まぁ、そうだろうな。ただ地面の中に押し込んだからといって、普通だったら地面を押し遣って出てくるよな。強者の中でも上位ともなれば、ただの魔法陣や鎖による封印も効かないだろうし……シュリュみたいに別の世界に居るんだろうな)」

《ではメルスさん、どうするんですか?》


 ……そんなこと、決まってるだろう。


「(探し出すさ。例えどんなことをしてでも、そこに誰かがいるのなら――偽善者は、そこへ向かわないとな)」

《マシュー、今までの会話に偽善者って関係ありましたっけ?》
《いえ、恐らく皆無……というより、全く無かったかと》


 もうちょっと余韻に浸らせてくれよ!


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