421 / 2,519
偽善者と終焉の島 後篇 八月目
偽善者と強者探し 後篇
しおりを挟む夢現空間 自室
俺は強者の内、地下にいる奴に会うことを最初にすることにした。
だが、相手はロマン種族だ。
俺が(異端種化)でなるなんちゃっての擬きとは違う、完璧な状態での調和がされた――本者といったところだろう。
「(おーい、シュリュー。吸血鬼と龍の力を兼ね揃えた存在について知らないか~?)」
その強者は龍氣の持ち主とのことだ。基本龍氣は、龍にしか持つことができない。
……と、いうワケでシュリュならソイツについて何か知っていると思ったのだが。
《吸血鬼? ……すまないが、朕には覚えが無い。朕の居た大陸には、竜の系譜に連なる者しか住んでおらん故》
「(えっと~、つまり他種族とのハーフが生まれる可能性が無いってことか?)」
《その通りだ。朕の大陸は他の大陸との関係が無かった為、別の種族に関する情報もあまり持っていない。朕が死んだ後、別の大陸を見つけたと言っていた気もするが……》
「(そっか、情報提供感謝する)」
《だから、朕は何も知らないぞ》
「(知らないってことを知れたからそれで良しだ。それに、二度目のことを思い出させてしまったしな)」
《……気にするな。朕はもうメルスによって三度目の生を歩んでいるのだ。
過去のことは過去のこと、今をメルス達と共に生きるだけだ》
シュリュからは、強者に関する情報を知れなかった。
……まぁ普通、別の大陸のことって海を渡らないと知れないもんな。
とある骸骨は別大陸まで移動してたけど。
アイツ、魂のことしか頭に入れてないんだよな~。
シュリュとの念話を切った後に、俺は別の眷属へと念話を掛ける。
《――はい、どうしました?》
「(リュシル~、吸血鬼と龍の力を持った存在に心当たり無い~?)」
《……あぁ、『吸血龍姫』ですか》
「(そうか、やっぱり知らない……って、知ってるのか?!)」
《え、えぇ。陽光龍と先祖返りの始祖吸血鬼の娘――太陽に愛された完全無欠の吸血姫のことですよね?》
ロマン種族でチート種族……しかも称号付き! どこまでも男心を擽り過ぎる素晴らしい存在だった!
でも、女だったのか。
女限定の種族でTS必須って展開になるのなら……さすがに色々と悩むな。
「(……って、ソイツ以外に吸血鬼と龍の力を持った奴はいないのか?)」
《少なくとも、ここに封じられるような人は知りません。『吸血龍姫』はその二人から継いだ強大過ぎる力故に、どこか別の場所に封印されたと知られていましたが……まさかこの島とは……メルスさんの眷属の方々を見れば、そういった伝説上の人もこの島にいるとは予想していましたが。しかし、あの『吸血龍姫』の他にもあと三人? まだメルスさんが会っていないから不確定だけど、もし本者だったならばあの伝説の真実が分かるの? なら他にも封印されている存在につい……フギャッ!》
「(お、お~い、大丈夫か~?)」
いつものように思考の海に沈んで行こうとするリュシルが、突然奇声を発した(まぁ、念話の中でだが)。
《創造者(クリエイター)、またしても開発者(ディベロッパー)が暴走してしまい申し訳ありません。頂いた張り扇で叩いたので直ぐに戻ります》
《……痛ぃょ~。マシュー! 痛いじゃないですか!》
《えぇ、痛いですよ。そんな残念な開発者を叩く私の心も、開発者のいつまでも続く話を聞かされた創造者の心も……》
いや、慣れたから問題無いがな。
毎度毎度こんな感じで、このコンビはやっている。
このやり取りって、結構心が癒されるんだよな~。
《……ぁぅぅ。だ、だってあの『吸血龍姫』ですよ! 数々の伝承を残したあの!》
《あのあの言われても分かりませんよ。そういうことは、私に詳細な情報をプログラムしてから言ってください》
《マシューだって、凄いと思いませんか? 物語の中だけの話だと思っていた人物に、本当に会えるのですよ! それがどれだけ素晴らしいことか――分かりますよね!?》
《そうですね……あまりにも知識を集めた結果神に封印された学者や、どんな奴でも顔が良ければ自分の手籠めにしてしまう男でしたらここに居ますけど。そういった方々もきっと、物語に記されるぐらいには問題が多い人物だと思いますよ》
《うっ、うぐっ!》
「(……なぁ、何で俺も巻き込んだんだ?)」
《いえ、私が良く知り得るのはその御二方だけですので。それに……どちらも私を構成する大切な要素でもありますし》
「(《マシュー……》)」
《へ、変なことを考えないでくださいよ! わ、私はただありのままの事実を告げただけでは無いですか!》
「(《うん、そう(だな)(ですね)》)」
普段は毒舌のマシューではあるが、このような可愛い部分もある為、俺とリュシルはこうして和んでいるのだ。
《……クッ、そんなことより創造者。開発者が興奮していた『吸血龍姫』が地下にいるのは、開発者の盗聴を同時に聞きましたので理解していますが――》
《マシュー?!》
《その地下とやらには、どうやって行くのでしょうか? 創造者のスキルや魔法、魔道具などを使えば不可能では無いと思いますが、地下と言っても本当に地下の空間に居るというワケでは無いのでしょう?》
「(まぁ、そうだろうな。ただ地面の中に押し込んだからといって、普通だったら地面を押し遣って出てくるよな。強者の中でも上位ともなれば、ただの魔法陣や鎖による封印も効かないだろうし……シュリュみたいに別の世界に居るんだろうな)」
《ではメルスさん、どうするんですか?》
……そんなこと、決まってるだろう。
「(探し出すさ。例えどんなことをしてでも、そこに誰かがいるのなら――偽善者は、そこへ向かわないとな)」
《マシュー、今までの会話に偽善者って関係ありましたっけ?》
《いえ、恐らく皆無……というより、全く無かったかと》
もうちょっと余韻に浸らせてくれよ!
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる