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偽善者と終焉の島 後篇 八月目

偽善者と休憩

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夢現空間 自室


 天使レミルの膝枕によって、俺のやる気は再び充填された。
 ……が、そのやる気を使って行動をする気に中々なれない。
 なので、もう一日休日として、のんびりしようと思っている。


「まずは気分転換だな」


 部屋に置いてある家具を一度"収納空間"へと片付け、部屋の中を空っぽにする。
 魔法で固定してあるだけだから、直ぐに片付けられて便利だよ。

(――"地形変化・河川敷")

 【箱庭作り】を発動し、どこにでもありそうな河川敷を作り上げる。

 上を見れば青い空に白い雲、そして体を少しずつ炙っていく太陽。
 下を見れば緑色の傾斜、鼻を鳴らすと植物の匂いがする。
 正面を見れば緩やかに流れていく川、耳を澄ませば今にもせせらぎの流れが聞こえてきそうだ。

 ……うん、普通の河川敷だな。
 間違っても、美少女が俺の近くにいるなんてことは無い。

 俺はそこで何をするでも無く、ただひたすらにボーっとしていた。
 太陽の光を全身で浴び、風が運んでくる自然の香りを嗅ぎ、聞えてくる清流の音に耳をそばたてる。

 ……地球でそれをやってる奴を見たら、無職だと思ってしまいそうだがな。

 ――今まで、焦り過ぎたのかもな。
 この島に来てから強者を解放し続けているが、一般ピーポーが行うにしては速度が少々異常だったかも知れないと思う。

 どこかの主人公のように、一冊や一章毎にヒロインを救えるような奴にはなれない筈であった。

 恐らくそういった選ばれた存在と同等の速度で偽善活動が行えているのは、眷属と{感情}のお蔭であろう。

 それらの存在が欠けた俺など、今でも"始まりの草原"でちまちまと小金を稼ぐようなモブのような者だ。
 主人公達が盛り上がっているのを横から眺めることすら許されず、日々を生きる為だけに齷齪していく……まさに、モブ・オブ・モブだったと思われる。

 主人公なら作者や出版社の都合で毎度毎度事件に巻き込まれそうだが、俺はそうでは無いしな。
 こうやってゆっくりするのも……偶には良いよな?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 そうやってまったりしていたんだが……いつの間にか俺は寝てしまっていたようだ。
 空に昇っていた太陽はいつの間にか地平線に沈みかけており、真っ赤な夕焼けが俺の視界内で輝いている。


「あぁ、綺麗だな~」


 そう口に出してしまう程に、その光景が俺に与えた印象は強かった。
 ……頭はあまり良くないから上手な説明はできないが、川に夕日が反射したり、草の色が赤くなる光景って良いと思わないか?

 できるなら、もっと見ていたいn(ガチャガチャ……)んだが、無理そうだな。

 ドンドンドン!

『メルス様、この部屋はもう完全に包囲されています! 大人しく部屋から出て来てください!』


 部屋の外からそう聞こえてくる。
 ……うん、今日は独りの時間を満喫する為に――部屋の鍵は万全、念話はOFF、気配や魔力は完全に遮断等々――様々な仕掛けを施していた。
 その為眷属は俺の状況を察知することもできず、戸惑っていたことだろう。

 だが、『もしも』ということもあるので、アンの盗聴だけはそのままにして繋げて置いた(さすがに、種族スキルで直接結びついている感覚共有を偽装するのは面倒なので……といった理由では無い)。

 つまりだ……。

『――メルス様の状況を一人一人に説明しなければならないこちらの身にもなってください! もう、大変なんですよ!!』

 アンが色んな意味で苦労していた、ということだ。
 しかし、それは悪いことをしたな……でもさ、俺は訊いた筈なんだがな?

 そう、こんな感じでだ――。


◆   □   ◆   □   ◆


「(アン、今日もゆっくりさせてくれ)」

《……それは宜しいのですが、どうしてそのようなことをわざわざ?》

「(いや、昨日より本格的に――独りになろうと思ってな。お前以外との連絡網を全て断とうと思ってるんだ)」

《(……ハッ! それはつまり、わたしだけがメルス様の状況を知れるということ!)お任せくださいメルス様!》

「(……? まぁ、よろしく頼むぞ)」


◆   □   ◆   □   ◆


 ――ということがあったのだ。
 全く、こうなることを考えておかない俺もアンも駄目だな。
 報連相……はしようにもできなかった、自分で封じてたわ。

 うん、アンも俺の休日を守ろうと頑張ってくれていたのかな?
 頑張った結果、そのストレスに耐えられなくて――今に至ると。

 さて、連絡を取らないとな。
 全員との念話を接続して~と――。


「(……あ、あ、みんな、勝手に休日を過ごしてゴメン)」

()!!


 あ、頭が! 一気に念話で叫ぶな!
 咄嗟に思考の処理速度を高め、同時に流れ込んでくる言葉の一つ一つを理解していく。


「(本当に悪かったな。だけど、そうやって盗聴に頼ってばかりだとそうなるってことも一応考えといてくれよ。スキル封印だって存在はしてるし、GMが御座おはします白い空間だって……色々な仕掛けがあるのか俺の記憶から読み取れないみたいだしな)」


 さすが、お偉い様が創っただけはある。
 実際にその空間に行った者のみしか、その空間での出来事を観ることができないという設定が施されている――そう聞いた時は、純粋にその環境を凄いと思った。

 それがあれば、桜桃には必須の儀式を行うことも可能だ。
 今は{感情}の所為か、何故だかティッシュペーパーが必要になるという事態にはなっていないが、いつかその効果が切れた時、俺はマイサン息子から迸るパトスを狙われてるかも知れない。

 ……神格が上がれば環境の用意もできるとのことだったので、是非上げたいものだよ。


「(――まぁ、暇潰し程度に留めておいてくれよ。……何、ご飯? ちゃんとストックを食堂に置いて置いた筈だが……グラ! 食べ過ぎはいかんとあれ程言っただろうに!)」


 俺がここまでして呼ばれた理由……どうやらご飯だったようだ。
 一ヶ月分はストックしておいたんだが……【暴食】の権化には関係無いようです。

 この後俺は食堂に転移し、反省の意も籠めて大盤振る舞いの料理を眷属達に用意した。


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