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偽善者なしの偽善者戦 七月目

偽善者なしの偽善者戦 その10

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「(私は父と母が共に日系だったから、日本で生まれ育った。だけど、見た目はこんな感じだから……いつも学校で何か言われた。それからかな? ちゃんと話せなくなったのは)」


 美しい相貌を晒したまま、彼女はメルスに語っていく。
 ポカーンとした表情で顔を固定したままの彼は、何故彼女がそれを自分に告げるのかが理解できない。

「(現実での息抜きで始めたAFOも、最初に容姿を変えるのを忘れてた所為で、いつもこの顔を隠すような恰好をしていた。最初に貰えたスキル【魔導甲冑】に身を包んだ、強い私になる為に)」

「…………」

「(人だって、家族以外誰も信じていなかったから、絶対に姿を見せなかった。【魔導甲冑】が使えない時も、仮面やマントで顔を隠し続けた)」

「いや、なら俺にも見せるなよ。俺には、実はお前の兄弟でした~なんて設定は無いんだからな」

 こんなタイミングでもメルスは彼女へツッコミを入れる。
 眷属は家族だと言う奴のセリフでは無い。
 しかし、それを無視して彼女はメルスに語り続けた。

「(初めてあの狐の獣人さんに会った時、あの人は私に言ってくれた。『主様なら、君の悩みの全てを解決することができるよ』って)」

 何やってくれてるのー! とメルスは深層意識で思った。
 さすがに念話でグーに苦情を告げることは無かったが、後で懲らしめようと決意するメルスである。

「(今回のイベントで、私は戦えていた。最後は何もできなかったけど……それでも、強くなれた気がした)」

「もしも~し、話が逸れてませんか~?顔を隠したかっただけなのに、どうして力が欲しいってことになってるの~?」

「(力があれば、私をどうこうする人なんていなくなる。力があれば、何者にも抵抗することができる。力があれば、私に一々近づく人はいなくなる)」

「……それ、寂しくない? 俺だったら嫌だぞ、そんなの」

「(どうして? そうしたら、誰も自分を傷つけないんだよ?)」

「俺は構ってちゃんだからな。自分の自由は約束されていてほしいが、俺を無視して行動されるのは嫌なんだよ。そんな強大な力なんてものはな、友達を作ってから手に入れるものだ……って、友達いないじゃん」

「(やっぱり、子供みたい)」

 だけど、その言葉が妙に心に残る。
 絶対の天涯孤独……確かにそれは酷く悲しいもののように思えてきたのだ。

 全プレイヤーの中で最もそれに近い筈であるメルスは、彼女にそれが寂しいと答えた。
 ……実際、メルスが武具っ娘を創り上げた理由の一つには、寂しさや悲しさを埋めるといった理由も存在したのだから。

「ま、急にキザなセリフを言うなら……お前はそんな風にはならないよ」

「(どういうこと?)」

「例えどれだけ強くなったとしても、俺はお前が眷属である限り、絶対に見放さないし構い続ける……眷属は、俺の家族だからな。俺みたいなボッチにはさせないよ」

「(……本当にキザなセリフ、最後のが無ければカッコイイよ)」

「何故にソッポを向く。……おい、まさか、笑ってるのか? 俺の今のセリフを哂ってるのか!? 不細工がクソつまらないセリフを言うからって理由で、嗤ってるのか!?」

 メルスは消えかかった頭を抱え、悶々と悩み始める。
 その結果、彼女が実際に思っていることには気付けなかった。

「……ハァ、まぁいいや。眷属が減らないって事実さえあれば、とりあえず満足だ」

「(そういえば、最後のアレは何だったの? 貴方はそれをどうやって倒したの?)」

「もう消えそうなんだがな……。ちょいと時間を延ばすか――ホイッと」

 メルスが何かをすると、彼女の体が突然水の中にいる時のような、体が自由に動かない感覚に包まれる。

「(時空魔法)"時空加速"だ。慣れて無い奴は言葉を発するのも大変になるから、念話に切り替えておいた方が良いぞ……って、最初から念話だったか。
 説明を始めるぞ。今回の偽者――予め言っていた通りだが、アレは俺のコピーであり、そのままの未来においての一つの俺の姿だ」

「(そのままの未来?)」

 彼女はその空間内でもしっかりと動く頭を使い、メルスとの念話による会話を続ける。

「まぁ細かいことは省くが、今の状態になることなく、ただ普通にAFOをやってたら、俺はあんな感じになっていたんだろう……運営の掌で踊らされてな。
 ――それでだ。今回のイベントは、俺への恐怖やら嫌悪を高めて、全プレイヤーが一丸となり攻撃するように仕向ける為のものだったんだよ」

「(どうして、そんなことを一プレイヤーに仕掛けようとするの? 運営は)」

「えぇーっと、そこら辺はまぁ、神様だから的な? そんな感じだと思うぞ。」

「(神様? AFOにいる神様ってどんな存在なの?)」

「う~ん……詳しくは分からないが、色々とできる存在だな」

 メルスは敢えて詳細な説明をしなかった。
 全てはまだ知らなかった上、知った彼女がどういった行動をするかが、メルスには完全に把握できなかった為である。

「(そう……なら、次の質問を――)」

「悪いが、時間を延ばしても無理そうだ。
 ……結界の方が壊れそうだ。早く、もう一度偽装を掛けてくれ」

「(……分かりました)」

 ピキッ ピキピキッ

 そうして、彼女が再び<天魔騎士>を発動すると同時に、結界にだんだんと罅が入っていき、結界が綻び始める。

「そうそう、今の俺は結界という一つの隔離空間だからこそここに居られただけで、結界から出ると運営にバレる可能性がある。だから俺はもう居なくなる。<天魔騎士>はそのまま定着するだろうから、アイツらを誤魔化す為の料金だとでも思って何とかしてくれ」

「(え、ちょっと待っ……)」

「それじゃあペルソナ、今度は掲示板で話し合いでもしようぜ~、あ、でも俺、あんまり掲示板使わなi……」

 グゥワシャーン!

 会話の途中で、メルスは完全な光となって消えてしまった。
 それと同時に結界も壊れ、他の少女達が流れ込んでくる。

「ペルちゃん、師匠は?」

「(もう行っちゃったよ)」

「アイツ、何か言ってた?」

「(また掲示板で話し合いでもって言ってたけど、あんまり掲示板は使わないって)」

「どっちなのよ……全く」

「他に、お兄ちゃんはなんて言ってたの?」

「(特には……あ、今の自分の本体は封印されているって言ってました)」

「確かに、レンさんがそう言ってたわね」

「では、どうしてご主人様はここへ?」

「(確か……【晶魔法】で創った器に、入ったとのことです)」

「……何でもありだね、師匠は」

 こうして、ペルソナが大活躍したイベントは、無事(?)幕を下ろした。

 ……裏で暗躍した者達に気付くこと無く。

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