上 下
403 / 2,519
偽善者と終焉の島 中篇 七月目

偽善者なしの『覇導劉帝』 その07

しおりを挟む


 どれだけの時が経たのかは分からない。
 朕の意識は再び表層に現れ始め、周囲の状況が理解できるようになる。
 最初に頭の中へ入ってきたのは、煩い騒音であった――。


『おいおい、世の中の大半の人々は『あ』や『う』だけじゃ会話できないんだぞ。狂っているんだか何だか知らないが、いい加減お前さんの知性とやらを見せてくれよ。ま、お前さんが仮に知性を持っていたとしても、戦闘狂の知性なんて、あって無いようなものなんだろうけどな!』


 ――何を言っているのかは理解できない。
 耳には入って来るが、その言葉が何を表すかが認識できない。
 それからも、その声の主は狂った朕へと騒音を喚き続けた。

 ……拒絶し続けた認識が怒りを、狂気が殺気を覚えた時、朕の意識は再び明白なものへと切り替わる――喧しい畜生を、この世界から排除する為に。


「黙れと言っておろうがぁ! 朕を誰と心得るか、元とはいえ劉帝であるぞ! ――頭が高いわ!!」


 しかし、その者は強かった……『覇導士』である朕よりも。 
 爪を振るおうと転移を行い、息吹ブレスを吐けばその者が持つ矛によって穿たれる。
 何をしようともその者は傷付かず、全てがその者の掌であるかのように思えた。
 唯一一撃加えられたと思った攻撃も、朕に止めを刺す為の下準備の為に受けられたものであり、攻撃自体は通用せず、その者は全く無傷の状態で立っていた。

 朕はその者を見て思う。

 ――この者が共にいてくれれば、朕は独りでは無かっただろうに。

 かつての朕に足りなかったもの……それは同じ立場で話し合える者なのだろう。

 『覇導士』である朕に、並び立てる存在など存在しなかった。
 故に、それを求めるのは諦めていた。

 だが、それももう叶わない。
 朕はその者によって、二度目の死を迎えるのだから。

 体を縛られ力を吸われ……朕にできることは何も無い。
 口で何を言ったとしても、朕の敗北は目に見えていた。

 せめてもの抗いとして色々と言ったが、その者はそれらを無視し――朕を口説く。


『一度死んで英霊になっても、お前さんは元劉帝としての枷があったんだろうな。なら、俺に殺されて二度目の死を迎えたら、お前は真の意味で自由の筈だ。いつか出会えたらならその時は……俺の眷属として、女として、一緒にイチャイチャしようぜ』


 ――言っていることは無茶苦茶であった。
 だが、不思議と嫌悪感は感じない……寧ろ体が内から温められ心地良い。

 ……そういえば、朕を倒す者などこの者が初めてであった。
 ならば、褒美が必要であろうか。

 そう自身の行動に理屈付けて、朕はその者へと応える。


「……ふ、フハハハハハ! 面白い、面白いぞ其方は! 名を何と申す」

『メルスだ』


 その者――メルスは朕に名を告げる。
 様々な色に変化する龍の鱗を、翼を持つ龍人……だと初めて見た時は思ったが、それは表面のみであり、実際には龍人の皮を被ったナニカであった。

 ――龍でも不可能な回復力
 ――辰でも不可能な技術力
 ――劉でも不可能な破壊力

 かつて最も朕を追い込んだ存在――『超越者』よりも力を持っていた。
 そんな者が、龍人という一種族の枠に収まる筈が無い。

 メルスからは神の氣も感じ取れた。
 神の氣がある時点で、存在の格は跳ね上がる――古より生きる者達が朕にそう言ったことがある。
 当時の朕は神氣を操れなかった為理解していなかったが、英霊となり、神氣を操れるようになった今では良く解る。

 ……と、話が逸れてしまったな。
 だからこそ、朕はメルスを『畜生』と呼んでいた。
 理解しがたい紛い物の力を振るい、正体を掴ませない存在……そう呼ぶ以外に他無かった(最も、発言に苛立ったのも理由の一つではあるが……)。


「メルス、約束しよう。朕がまた其方と出会えたのならば、その時に朕が朕であったならば、朕は其方のものとなろう!」


 メルスは朕に、その身を以って証明した。
 『覇導士』の定めた天命は、必ずしも正しくないということを。
 『覇導士』は、朕に決して負ける筈の無いと告げていた。
 しかし、実際に朕は敗北した。……そういうことだ。

 もう天命に従う必要は無い……が、最後に確かめてみたかったのだ。
 メルスが、朕の望む未来を創り上げられるのかを。

 そして、もしできたならば――それは、約束を履行する時ということだろう。


『そりゃあ嬉しいこった。――んじゃあ、また後でな・・・・・

「うむ、また来世で」


 メルスはそう言って朕に矛を突き刺し、二度目の死を朕は迎える。
 意識は薄れていき、段々と思考が回らなくなっていく。

 ――かつてはそれを喜んだ。

 死を以って、天命より解放されると思ったから。
 だが、今はそれを少し寂しく感じている。
 折角会えたメルスと、すぐに離れればならない。

 今まで他者にそんなことを考えたことの無い朕にとって、それは新鮮な感情であった。

 ……ほんか、くてきに、いしきが、うす、くなっ、てきた。
 からだ、がおもくて、とんでられない。
 だけ、どめるすが、ささえ、てくれた。
 ……あぁ、やっぱ、り、あたた、かいな。 また、あたため、て、ほし、いな……。


TO BE CONTINUED


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

王宮を追放された俺のテレパシーが世界を変える?いや、そんなことより酒でも飲んでダラダラしたいんですけど。

タヌオー
ファンタジー
俺はテレパシーの専門家、通信魔術師。王宮で地味な裏方として冷遇されてきた俺は、ある日突然クビになった。俺にできるのは通信魔術だけ。攻撃魔術も格闘も何もできない。途方に暮れていた俺が出会ったのは、頭のネジがぶっ飛んだ魔導具職人の女。その時は知らなかったんだ。まさか俺の通信魔術が世界を変えるレベルのチート能力だったなんて。でも俺は超絶ブラックな労働環境ですっかり運動不足だし、生来の出不精かつ臆病者なので、冒険とか戦闘とか戦争とか、絶対に嫌なんだ。俺は何度もそう言ってるのに、新しく集まった仲間たちはいつも俺を危険なほうへ危険なほうへと連れて行こうとする。頼む。誰か助けてくれ。帰って酒飲んでのんびり寝たいんだ俺は。嫌だ嫌だって言ってんのに仲間たちにズルズル引っ張り回されて世界を変えていくこの俺の腰の引けた勇姿、とくとご覧あれ!

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

処理中です...