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偽善者と終焉の島 中篇 七月目
偽善者なしの『覇導劉帝』 その06
しおりを挟むSIDE シュリュ
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朕は尽くしてきた筈であった……何故に、朕は必要とされなくなったのであろう。
朕には生まれながらの天命があったのであろう――武を以って覇を成せと。
朕の生まれた地には、辰人族と龍人族のみが存在していなかった。
何らかの原因で争い始め、幾百年の時を経ても、それが沈静化することはなかった。
だが、朕には争う理由が分からなかった。
父上は龍人の中でも最優と呼ばれた武人、母上は辰人に崇められる古の辰。
戦乱の中で結ばれた二人を見て育った朕は……和解する策があるのではないか……そう思えた。
父上と母上より武を学び成長した朕は、辰人族と龍人族の元を巡り、両者についての見解を深めた……そして、争いの原因はとても簡単なものだと知る。
両者が有していた技術を学んだ……その結果、力を合わせれば国を築き上げ、栄えさせることができると知った。
両者に和解を求めた……だが、正攻法では何もできないと理解させられる。
失敗が続き、朕は独り暴れ続けた。
何度やっても何をやっても失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗……。
誰もいない荒野でその鬱憤を晴らし続け、地形を変え続け――朕は願った。
(力が……力が欲しい! 誰であろうと捻じ伏せて組み伏せる――圧倒的な武力が!)
辰人族と龍人族が争う理由……それは、最強がどちらかを決める為であった。
子供のような屁理屈を重ねた結果、それは種族間の殺し合いにまで発展した。
ならば、朕も力を求めよう!
両者が朕を認め、争いなどというくだらない児戯を、止めさせる為に!
《適性者による制覇願望を確認
――『覇導士』を入手しました》
頭の中に響いたその言葉が、一瞬の内に朕の中で認識されていく。
覇とは武力を以って全てを支配すること。
今の朕が行うべき事柄を補助する力が、そこには存在した。
「……クックック、ハーッハッハッハッ!」
適性者……朕は選ばれた存在だったのだ! 父上と母上の元に生まれたのも天命!
両者の元を巡ったのも天命!
こうして力を希うこともまた――全てが天命であったのだ!!
なんと、……なんと虚しいのだ、天命とやらは!
朕の生き先には殺戮と闘争しか無く、普通であることを許してはくれない。
これが天命であるのか!
これが朕の存在理由であるのか!
これが朕の全てであるのか!!
今思えば、この時の朕は壊れていたのであろう。
誰も朕を止められなかった。
誰も朕の狂気に気付くことはなかった。
それ故に朕は、天命のままに龍と辰に覇を成したのだ。
『劉帝様万歳ッ! ドラガオン帝国に栄光あれッ!』
辰人族と龍人族を纏め上げ、朕は一つの帝国を創立した。
ドラガオン帝国――ドラゴンが住まう国を意味していた。
朕はシュリュの名を伏せ、自身を劉帝と名乗り、国の為に尽力した。
再び争いを起こさない為に、次代の王は代毎に交代させた。
国を栄えさせる為、両者が秘匿してきた技術を開示させ、民へと伝えていった。
急な変化に民が戸惑わないようにする為、民の元へ下り、直接の交流を行った。
『覇導士』は民を導いていき、国は繁栄していった。
朕に叛意を示そうとする者も武力で捻じ伏せ、朕は天寿を全うして死ぬことができた(朕の目に適うものはいなかった為、誰かと目交うことは無かったが……)。
やっと天命より解放される!
死にかけというのに、朕はそれすらも歓んで迎えていた。
――だが、天命は朕を逃がさなかった。
何かに呼ばれるように目を開くと、そこは見覚えのある空間であった。
朕が『覇導士』へと至った地――無人の荒野に建てた王陵、そこで朕は英霊として生まれ変わった。
劉帝は引き継がれ、代が変わる毎に朕の元へと参上し、慶事の句を述べていく。
天命から逃れることのできなかった朕は、虚ろな意識のままにそれらへの対応を行っていった。
そしてある日、新たな劉帝が朕の元へと現れた……周りに法衣を纏った者達を引き連れて……。
『初代劉帝様、第29代劉帝――グレイプ・グラン=ドラガオン、劉帝就任をご報告に参りました』
「……苦しゅうない、良きに計らえ」
『ハッ! ……では初代様、早速ではありますが、一つ頼みたいことがございます』
「……申してみろ」
『いえ、それを伝える必要はございません。
――何故ならアンタは今すぐ消えるんだからな!』
「……何を言って――ッ!?」
『……フンッ、どうやら上手くいったみたいだな。おい、早くやれ』
『分かってますよ……全てはシェリア様の為です。異国の英霊よ、貴女にはこれより終わることの無い狂気に身を包まれ、永劫の時をひたすら無為に過ごしてもらいます。
全ては異端の身にてそこまでの力を身につけてしまった……己が運命を恨みなさい』
意識が少しずつ薄れていき、何かを破壊したくなる衝動が頭の中を支配していく。
『あ……、……様』
『……さん、儀式……めますよ』
「………………GURRRR」
その時の朕が最後に覚えているのは、自身の口から発せられた唸り声だった。
TO BE CONTINUED
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