401 / 2,519
偽善者と終焉の島 中篇 七月目
偽善者と『覇導劉帝』 その05
しおりを挟む闘いは今まで以上に過激なものへと変化していく。
それほどまでに、知性を有した戦闘狂が強かったからである。
『――"炎劉覇爪"!』
("龍氣"+"鬼氣"+(操糸術)="鬼龍斬糸")
("聖氣"+"神氣"+(矛術)="天之瓊矛")
途轍もない程に嫌な予感のする炎を帯びた攻撃を、自身の保有するイメージの中でもかなり上位に存在する技を以ってして弾こうとする。
……が、押し負けて世界の果てまで逝ってキューしそうになる。
(――"転移眼")
((牙突術)+"牙点竜犀"+(竜殺し)="牙竜刺")
(転移眼)で勢いをそのままに、飛ぶ方向をシュリュの方へと変えて攻撃を行う。
『甘いわ! ――"嵐劉覇爪"!』
そんな突撃も、荒れ狂う風の力を纏った爪に一瞬で弾かれてしまう。
……クッ、やはり正攻法では勝てないな。
『やはりどれだけ足掻いても畜生は畜生。人ごときが劉帝に勝てると思うなど――甚だしいわ!』
「うるせぇな~。そうやって驕っているなんて――お前は実に【傲慢】だ」
『傲慢で結構。朕は武で覇を唱えた劉帝であるぞ! それ即ち、その傲慢に釣り合うだけの力を持つ証なり。故に、朕は其方を畜生として扱おう』
「何言ってんだ? お前は。それは強い奴が言うことのできるセリフだろ? 今から俺に敗北するお前に、それを言う資格はねぇ」
そうやって、自分の力を過信することこそが【傲慢】であるというのに……。
『言うではないか、畜生風情が。本当に死にたいようだな……一瞬で殺すぞ』
「そういうことは、実行できるようになってから言ってくれよ。今までに、一回でも俺に傷を与えられたのか? できなかった奴が俺を殺すことができるのか? ……無理だろ」
『ほぅ、朕の覇気に耐えるか。だがその言葉で関心も消えたわ。望み通り、全力で潰してやろう』
今までも感じていた威圧が、何十倍にも膨れ上がり、俺の体を舐め回すように包み込んでいく。
その覇気に竦み上がりそうになるが、【異常反転】が即座に発動し、逆に俺の意識を興奮させていく……と思う。
全部ステータスを視て分かったことだ。
実際には俺の感情は全くと言って良い程に揺れ動いておらず、ただシュリュをどうやって倒そうかということを考えている。
「来いよ。言葉で言っている間は、何もかもが机上の空論だぞ。あ、りゅう帝はただ発言するだけで充分なのか、ゴメンゴメン。座っているだけで良い奴に、一々ケチを付けちゃ駄目だったよねっ――!? ("攻撃無効")」
ミシッ ベキベギュ!
「うぐっ……ガァッ!(――【物体再成】)」
全てを言い切る前に、シュリュは音速の速さで俺に迫って来る。
眼で捉えられてはいても、(未来眼)で推測される未来に――普通に対処して生き残る未来は存在していなかった(転移しても、その先で結局殺されていた)。
なので、一日に一度限り発動できる(攻撃無効)を発動させ、絶対不可避の死の運命から免れる……が、攻撃を無効化できても衝撃からは逃れられない。
上からの重圧を感じた直後には、俺は地面に叩き付けられていた。
それでも体を事前にセーブしておいた状態に戻して復活させ、戦闘可能な状態へする。
本来なら【因果応報】でカウンターを決めたいところだが……実際にシュリュによって受けたダメージは0である為、発動させたところで全く意味が無い(マシューを止めようとした時に、(攻撃無効)を発動させなかったのにはちゃんとワケがあったのだ……べ、別に忘れていたワケじゃ、無いんだからね)。
『……スキルか。命拾いをしたな。だが、次は無いと思え「は? まだ次があると思っているのか?」 ……クッ、これは!?』
追い打ちを掛けようとしたシュリュは、突然動かなくなった体に戸惑っている。
俺を格下として見ていたシュリュは気付いていなかった。
俺がわざわざ低空飛行を行い、この空間を駆け回っていた理由を。
「影ってのは体と共に存在し、いつまでも離れることの無い……切っても切れない縁の持ち主だ」
『な、何を言っている畜生……』
「最後まで話を聞けよ。――つまり、体を動かせば影も動く相対の関係だ。なら、影を動かせば体が動くんじゃないか? 本来ならできない馬鹿な考えも、魔素が存在するこの世界ならば可能になる」
『……其方は影を縛っていると』
「その通りだ」
イメージ的にはアレだ――時喰みの□を強化したようなものだ。
かつて考えてみた『さいきょうのわざ』の一つ――【影魔法】と(掌握)を用いた万物への干渉である。
予め発動させる場所を【影魔法】を発動させながら巡り、俺の支配領域に入れた後、その影に触れた状態で(掌握)を発動させる。
そうすることで、支配領域内に影があるもの全てに干渉ができるのだ。
……今更考えると、スリラーなバークの持ち主っぽいな。
影を取り込めるなら、最初のイメージもそれで良かったんだがな。
『……フンッ、仕掛けさえ分かってしまえばどうとでもなる』
「そう思うか? ならどうにかしてみろよ」
『言われなくとも――ッ!?』
「おいおい、早く脱出してくれよ。こっちはそこまで語彙力が無いんだ。お前さんをいつまでもからかうことができないからさ」
『其方、朕の力を……』
ご明察。
"奪命掌"、"奪魔掌"、(衰弱魔法)に(禁忌魔法)……悪影響のある能力をじゃんじゃん使っている。
……その際にステータスの完全版が見れたのだが、『りゅう帝』は『劉帝』だった……辰でも龍でも無かったな。
「さぁ、早く脱出してみろよ!」
『クッ、殺せ! 朕も劉帝……畜生の情けなど受け入れぬわ!』
「(くっ殺だと!?) ……そ、そうか。なら遠慮なく殺させて貰おう」
俺は主人公じゃ無い。
全てを救うのは無理だ。
特に、くっ殺を言った相手を助けられるのは主人公だけだろう。
俺がやったって解放した瞬間に、逆に殺されるだけだ。
回避する方法ももう無いし、死んでもらうのが一番だと思うよ。
――ま、偽善者としての活動もするけど。
「それじゃあ、次に会う時は劉帝なんて矜持は捨てて、一人の女の子として俺と真剣に向き合ってくれよ」
『……ふざけているのか』
「一度死んで英霊になっても、お前さんは元劉帝としての枷があったんだろうな。なら、俺に殺されて二度目の死を迎えたら、お前は真の意味で自由の筈だ。いつか出会えたらならその時は……俺の眷属として、女として、一緒にイチャイチャしようぜ」
そう言うと、シュリュは少しだけ俺の目をジッと見てから……笑い出した。
『……ふ、フハハハハハ! 面白い、面白いぞ其方は! 名は何と申す』
「……メルスだ」
『メルス、約束しよう。朕がまた其方と出会えたのならば、その時に朕が朕であったならば、朕は其方のものとなろう!』
「そりゃあ嬉しいこった。――んじゃあ、また後でな」
『うむ、また来世で』
("天之瓊矛""――――――")
二つの技を発動させ、シュリュの体を一突きする。
そうすると、シュリュの体から力が抜け、急速に地面へと墜ちて来る。
割と本気で言ったその言葉を、シュリュは受け入れてくれた。
ならば、俺は……。
「また、後でな(――"天網")」
シュリュの体をそっと着地させながら、俺はそう呟いた。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる