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偽善者と終焉の島 中篇 七月目
偽善者と『覇導劉帝』 その02
しおりを挟む「(――あ、雲耀ってのは、稲妻ぐらい速いって意味だからな。正直一瞬って考えれば充分だと思うし、流派によって例え方が異なる場合を想定してなかったから、雲耀と称するのは駄目だったかな?)」
《間一髪でしたね》
"光化"を使用していた為、通常時より素早く動くことができた。
思考を加速させ、自身の持てる全てを使い柱の外側へと逃げることに成功した……のだが――。
《まさか扉が無くなるとは……我が王、これも予想の範疇でしょうか》
「(んなワケあるか。一応元のエリアの座標も覚えているから、<次元魔法>で扉を創ることは可能だと思う。……アレがそれを、許してくれるなら、な)」
俺達を俯瞰する位置で、そのドラゴンは羽撃いていた。
漆黒の鱗にその身を包み、黄色に光る瞳で見つめてくる。
その威圧感は、弱者の魂がギュッと握りしめられていると、錯覚できるものであろう。
……ま、俺は眷属達の過保護によってその威圧感をシャットアウトしてるので、その影響は全くと言って良い程に無いんだがな。
「(ドゥル、龍殺しといえば普通剣だけど……何か良い武器は無いか?)」
《騎士様は殺していませんもの。はて、一体どうしましょうか……》
「(それどころか、救ってたしな。俺も殺すよりはそっちの方が良いけど……殺そうとしても死なない気がするし、殺す気で行かないと俺が死にそうだ)」
人を威圧感だけで殺せそうなドラゴンに、どうやったら優しく接しなれるんだろうか。
俺は全てを救える善人じゃない――自由気ままに行動を起こす偽善者だ。
今まで大半の者は救ってきたが、今回は最初から救う気にはなれないみたいだな。
どうしてここまで狂っているかは分からないが、今の俺には手を抜いて対処できるだけの力が無い。
……本当に、非力だよな。
《では、こちらをどうぞ》
「(これは……矛盾してる武器だったよな)」
《我が王自身で造られた物でしょう。生かす為の殺し合いですし、これが最適かと思い、用意させていただきました》
ドゥルが差し出したのは、特殊な形状をした矛だ。
長さは約3m、穂先は丸みを帯びた鈍角の形状……まぁ、極一部を除いて平凡な矛だな。
「(なるほど、確かに一理あるな。ドゥル、今回の相手はシャレにならないぐらい強い……だから、手伝ってくれ」)
《私が、それを断るとでも? 我が王の願いならば、例え身を捧げることも構いません》
「(……勘弁してくれ。折角増えた家族が減ってしまうじゃないか。俺が望むのは、あのドラゴンの解析だ。他の眷属にも声を掛けて、何故あそこまで狂っているかを調べてくれ)」
《仰せのままに、我が王》
ドゥルとの念話を切り、上空を仰ぐ。
そこではドラゴンが縦横無尽に飛び回り、視界内のあらゆる所に現れる(説明を忘れていたが、この世界はただ白いだけの空間だ)。
(――"全能強化・不明""限界突破""竜殺し""龍血覚醒")
前回同様借り物の力を発動させ、足りないものを補っていく。
("神眼""神手"……開放
"神体""神血""神脚"……限定解放)
相手は強大、そして話し合いはできない。
ミシェルやアリィのように、強者自身と闘わないという選択は取れないし、チャロのように、拳で語り理解し合うこともできない。
(――"他力本願・戦闘再現""合氣闘法")
それでも、例えどんな結末になろうとも、俺はドラゴンと闘おうと思う。
何かを守る為には力が必要だ。
力の形には様々なものがあると思うが、一番手っ取り早いのが戦闘力だと思う。
特に、ステータスが全てを決めるこの世界ではな。
力は全てを捻じ伏せる
力は全てを押し通す
力は全てを変えていく
力の無い弱者は、何もできないままに強者へと従っていく。
かつての俺も、少しは抗おうと思ったんだが……非力で平凡な少年には難しい問題だったよ。
行った行動は裏目裏目に出て、真実という名の悪夢へと辿り着いてしまった。
それこそが運命――そう簡単に言っても構わない。
俺がどれだけ必死にもがいても、何もできなかった。
まるで、堅固な壁で防がれているように。
それこそが、運命の力ってヤツだったのかもな?
でも、この世界なら――借り物だろうが力が俺に備わり、振るうことができるAFOの中でなら、可能なのでは無いだろうか?
運命なんて、あるかどうかも分からないものを無視して、救いたいものを救うことが。
「中途半端な相手で悪いが、偽善者さんが遊びに来たぞ。なぁなぁ、一緒に遊ぼうぜ!」
GUGYAAAAAAAA!!
俺が力を解放していくと、それを察知したのかドラゴンがこちらへと向かって来る。
("滅魔結界"+"聖氣"+"神氣"="滅邪結界")
ドラゴンは新たに張った結界にぶつかり、一時的に動きを止める……のだが、段々と罅が入っていき、すぐに壊れる。
(――"転移眼")
予め決めておいた場所に転移し、ドラゴンの突撃を回避する。
近付いて来たから分かったが、ドラゴンの大きさは約10m程であった。
それよりも大きいと感じていたのは、俺がビビっていたからか、威圧感が凄かったからか……まぁ、今は関係無いか。
矛を両手で構え、ドラゴンの挙動を窺う。
持てる力を以って、時間を稼いでみせる!
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