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偽善者と終焉の島 中篇 七月目
偽善者と『異端魔機』 その06
しおりを挟む夢現空間 修練場
「ティル……なんで使えてるの?」
俺の目の前では、先日編み出した『固有武技』をティルが放つ光景が見られた。
……固有なのに。
『そりゃあ、貴方の眷属だからよ』
「……ゴメン、全然分からない」
『メルスの経験は私達全員に共有されるんだから、武技を編み出した経験だって――当然私達にも共有されるわよ』
「……そ、そんな馬鹿な(orz)。なら、ぼくのかんがえたさいきょうこうげきは……実現できないっていうのかっ!!」
そんなっ!
じゃあ、俺の"虚迅の型"は一体どうすれば良いんだよ!
『別にできるじゃない。貴方が求める武技を創りさえすれば』
「俺、だけの、オンリー、ワンが、欲しかったんだよーー!」
誰でも一度は憧れるだろ?
自分だけが持っている力ってヤツをさ!
『……ハァ、無理よ無理。貴方の眷属はオンリーワンなんて許さないわよ』
「えぇ~!? 超カッコイイのに~。それに、ティンスだって俺にまだまだ武技隠してるのに……」
『私の『リュキア流剣術』の神髄は、まだまだ貴方には無理なだけよ。それに、メルスみたいに偏った人には、流派系の武技は不向きとのことよ』
「……えっと、そうなのか? 俺としては、全流派の武技をコピーして、ぼくのかんがえたさいきょうぶじゅつを創ろうと思ってたんだが……」
『……まぁ、不向きなだけで、一応は可能かしら。一応説明しておくと、この世界では流派は一つしか継承できないのよ。複数の流派に関わろうとすると、前に継承した流派の武技が使用不可能――というか、消却されるのよ。不思議よね。
だけど、メルスみたいに流派に関わらず武技だけ取っていくなら、それも可能かしら』
「面倒だな、その設定」
地球なら道場破りを称して、色んな技を盗む輩がいるのに……。
『私だって、貴方に会わなければその常識を不思議になんて思わなかったわよ。なんせ神がかつてそう決めた……なんて言われたら、理解せざる負えないのがこの世界だしね』
「……本当、ゲーム感が微妙に混ざった異世界だよな。実は運営神って、元ゲーマーなんじゃねぇのか?」
……いや、転生者がゲーム的システムを創り上げた、的な感じかもしれないな。
真相がどうであれ、今もそれがこの世界に深く結びついているって事実があれば、俺は別にどうでも良いんだがな。
『――さて、そろそろ修業に戻るわよ』
「……あの、さっきまでやってましたよね」
『何言ってるのよ。確かに(獣剣術)の基礎はマスターできたけど、まだまだ貴方にはかけている部分が多いわ。これからも、ビシバシ指導させて貰うわよ……丁度、いい武技(おもちゃ)も手に入ったしね』
何故だろうか、武技に別のルビが振られているような気が……。
俺の心に秘めた思いは、楽しそうに尻尾をフリフリしているティルには届かなかった。
『それじゃあ、"開牙"を発動させないで派生武技を発動させなさい!』
「それ、前無理って言ってたヤツ!」
『良いからやる! やればできる!』
「どこの松岡!?」
修業中
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
修業が終わると、ティルは別の場所で武技開発を行い始めた。
……うん、よく見ると好奇心旺盛組が結構いるな。
武技や魔法が創れるんだし、張り切ってやるのも不思議じゃないかな?
そんなことを考えていると――。
『アンタ、ちょっといいか?』
「おっ、どうしたんだ? ――チャル」
『……その名前も慣れないものだな』
「俺的には、製品番号を名前として名乗る方が不思議だよ。一応はお前が名乗った時に聞こえた韻から名前を決めたんだ……すまないが慣れてくれ」
チャ~なんとか~ルなんとかと聞こえたから、彼女のことはチャルと呼ぶことにした。
……ナビゲーターっぽさは、全然無いんだけどな。
「……って、どうしたんだ?」
『いや、アンタには言っておいた方が良いかと思ってな。何故私があn「過去話なら別にしなくても良いぞ」に……へぇ?』
「えっと~、どうしてもしたいなら別に話してくれても構わないが……そうじゃなくて、義務感とか俺が主だから、とかの理由だったなら別に良いからな」
『……そうなのか? うちでは『報連相』は絶対だと命じられていたのだが……』
「報告はしなくてもみんな知ってる。連絡しなくても直ぐに駆け付ける。相談しなくても意見をくれる……こんな状況で、どうやって報連相を使うんだ」
『報連相』じゃなくて、『聴念答』ならうちでもできるけどな。
盗聴・念話・応答……全然意味が違うが、当て字としては及第点が貰えるのでは?
『……まぁ、アンタがそう言うのなら、今は言わないでおこう』
「あ、暇があるなら図書館に本として記憶を写しておくといいぞ。他の奴らも自分の此処に来る前の話を伝記にしてたしな」
『面白そうだな。後でやってみよう』
「おう、やってこいやってこい」
チャルはそのまま俺から離れるかと思ったのだが……。
『……おっと。最後に一つだけ、訊いてみても良いか?』
「ん、どうした?」
『アンタは――あの頃から変われたのか?』
「…………」
『アンタが寄越した記憶の中に、一つだけ異質な記憶があった。アレがアンタの実体験だとして……その頃から、何か変化はあったのかい?』
真剣な瞳で、俺へとそう問いかけてくる。
……やれやれ、俺はシリアス物が苦手なんだがな。
「……変われただろう。だから、こうやって眷属達と一緒にいるんだ」
『そうかい、なら良いんだ』
今度こそ、彼女はこの場から離れていく。
……変われたさ。
だって、みんなが俺を変えていっているんだからな。
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追記
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