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偽善者と終焉の島 中篇 七月目
偽善者と『最弱最強』 その06
しおりを挟むちょっと心配になって来たから、もう一度神経衰弱について思い出してみよう。
神経衰弱――ジョーカーを除いた1組52枚のカードを使い、伏せた状態よく混ぜて、重ならないように広げてスタートする。
プレイヤーはターンごとに、好きな2枚のカードを選んでその場で表にする。
そのカードが両方とも同じ数字であった場合、それらを得ることが可能で、もう一度自ターンを迎えることが可能だ(つまり「ずっと俺のターン!」ってことだな)。
2枚が異なった場合は、カードを元通りに伏せて、次のプレイヤーの順番となる。
これを全てのカードが取られるまで行い、取ったカードの枚数が多いプレイヤーの勝利となるのだ。
余談だが、ローカルルールとして――
・2枚選び、数字と色があった時のみ取れる
・3枚選び、その内の2枚が合ったら取れる
・3枚選び、3枚とも合ったら取れる※
・同じ数で無くとも、1つ違いの数ならば取れる※
・途中で順番変えやシャッフルをする
・ジョーカーも加え、ジョーカーを取るとその手番に取ったカードの枚数を2倍で扱える
・4枚選んで、全てあった時のみ取れる
※最後にカードが残る場合がある
――こんな感じのものがある。
神経が衰弱するから神経衰弱……なんてタイトルをしているゲームだが、結構内容自体はシンプルなものである。
さて、この勝負において最も重要なところ……それは、一度選ばれたカードをどこまで覚えていられるかと俺は思う。
リアルラックが半端ねぇ奴以外は、一度捲られたが戻されたカードを覚えて、後から選ぶカードと合うか照合していくだろう。
だからこそ、一度でも場に出たカードを記憶できる【瞬間記憶】と【完全記憶】を、俺は頼ろうとしていた……なのに。
『――スキルは今回のゲームでは使用不可にしましょ』
アリィにこう言われてしまった為、俺の考えていたパーフェクトプランは使えなくなってしまった。
覚えてさえいれば、勝てると思っていたのに……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
――と、いうワケで、神経衰弱は俺の固有スキル無しでの闘いとなりそうだ。
『――ルールは基本的なものよ。場においてあるのはジョーカーを除いた1組52枚。選ぶカードは2枚。同じ数字だったらそのカードはその人の物で、もう一回捲れるわ。違っていたらもう一人の手番。最後に持っていたカードの枚数が多い方の勝ち……これで良いわね?』
「……あぁ、それで良いぞ」
『どうしたの? 急に今まで以上に残念そうな顔になって』
「……今までも残念だと言いたそうなセリフには何も触れないでおくが、とりあえずゲームには支障は無いと思うから気にするな」
『そう? なら別に良いけど……あっ! もしかして、スキルがあれば勝てると思っていたのに、アリィに禁止されたから落ち込んでいるの? もう、それならもっと早く言ってよ~。スキルを使わなかったからアリィに勝てなかった……そんなこと言うメルスをからかかえなかったところじゃん』
「……(ブチッ、)ちょっと待ってろ」
(――【思慮分別】起動)
少々【忍耐】の限界を超えたので、俺は本気の嫌がらせを行う為の下準備を行う。
今までの会話で掴んだ情報全てを精査できるこのスキルで、絶対にカウンターを食らわしてやる。
ん? あれ? まさか……。
「おい、一つだけ確認して良いか?」
『おやおや~、やっぱりスキルを使わしてくださいってお願いかな~? それならちゃんと精神誠意、心を籠めてほしいよ~』
「いや、そうじゃなくて。カードはどうやって用意するんだっけか?」
ピタッという効果音が聞こえてくるぐらいに突然、アリィの体が停止する。
『え、えっと~……それはもちろん、私のスキルである【加留多】で――』
「そこじゃ無い。そのカードはどうやって出現するのかって訊いてるんだよ、俺は」
彼女が持つ【加留多】は、カードを使ったコンボ的なものが発動できるスキルだ。
触媒は加留多――日本でいう所のカルタとトランプ――で、枚数や役によって効果が異なると思われる……そこについては今は置いておこう。
――問題は、その触媒をどうやって用意しているか、だ。
最初の革命は事前に用意していたかもしれないから今回は論議に入れないが、その後に使った8切り……それについて疑問がある。
――何処から出したか、そこが問題だ。
あの時アリィは、何も無い所からカードを取り出して俺に放った。
基本俺は【七感知覚】によるで先読みで攻撃を避けている。
あの時のアリィからの攻撃も、魔力を使用した形跡をキャッチした為、冷静に対処ができたのだ。
……そう、魔力を掴めたのだ――そのカードから。
「――アリィのカードが魔力や氣力を消費して生成する物であるならば……裏にひっくり返してもどれがどれだか、分かるんじゃないだろうな~アリィちゃん?」
『そ、それは、その……アハハハハ』
「その反応……やっぱりそうじゃないか!」
『き、気付かない方が悪いんだから!』
この女ー、開き直りやがった。
もしこのまま勝負をやっていたら、全部負けになるとこだったじゃないか。
「選べ」
『……な、何を?』
「俺の魔力を一切持たないカードを使うか、アリィのカードを使う代わりにスキルを全部使用可能にするかをだ」
『本気……みたいだね』
「あぁ、本気も本気、超本気だ。アリィがそういう手を使おうとしていたのなら、俺もそれ相応の対応をしなければいけないからな」
そんなどこかの毒持ち占い師みたいな手を使って神経衰弱をやって……ズルいだろ。俺のは覚えるだけだけど、アリィは見えてるんだから。
なら、こっちもそれに(適応)させて貰うだけだ。
『……なら、アリィは――』
そして、アリィは決断した。
『――メルスのカードを使う』
――俺が選ばれて困る方を。
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