上 下
368 / 2,519
偽善者と終焉の島 中篇 七月目

偽善者と『最弱最強』 その06

しおりを挟む


 ちょっと心配になって来たから、もう一度神経衰弱について思い出してみよう。

 神経衰弱――ジョーカーを除いた1組52枚のカードを使い、伏せた状態よく混ぜて、重ならないように広げてスタートする。

 プレイヤーはターンごとに、好きな2枚のカードを選んでその場で表にする。
 そのカードが両方とも同じ数字であった場合、それらを得ることが可能で、もう一度自ターンを迎えることが可能だ(つまり「ずっと俺のターン!」ってことだな)。

 2枚が異なった場合は、カードを元通りに伏せて、次のプレイヤーの順番となる。

 これを全てのカードが取られるまで行い、取ったカードの枚数が多いプレイヤーの勝利となるのだ。

 余談だが、ローカルルールとして――

・2枚選び、数字と色があった時のみ取れる
・3枚選び、その内の2枚が合ったら取れる
・3枚選び、3枚とも合ったら取れる※
・同じ数で無くとも、1つ違いの数ならば取れる※
・途中で順番変えやシャッフルをする
・ジョーカーも加え、ジョーカーを取るとその手番に取ったカードの枚数を2倍で扱える
・4枚選んで、全てあった時のみ取れる
※最後にカードが残る場合がある

 ――こんな感じのものがある。
 神経が衰弱するから神経衰弱……なんてタイトルをしているゲームだが、結構内容自体はシンプルなものである。

 さて、この勝負において最も重要なところ……それは、一度選ばれたカードをどこまで覚えていられるかと俺は思う。

 リアルラックが半端ねぇ奴以外は、一度めくられたが戻されたカードを覚えて、後から選ぶカードと合うか照合していくだろう。

 だからこそ、一度でも場に出たカードを記憶できる【瞬間記憶】と【完全記憶】を、俺は頼ろうとしていた……なのに。


『――スキルは今回のゲームでは使用不可にしましょ』


 アリィにこう言われてしまった為、俺の考えていたパーフェクトプランは使えなくなってしまった。
 覚えてさえいれば、勝てると思っていたのに……。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ――と、いうワケで、神経衰弱は俺の固有スキル無しでの闘いとなりそうだ。


『――ルールは基本的なものよ。場においてあるのはジョーカーを除いた1組52枚。選ぶカードは2枚。同じ数字だったらそのカードはその人の物で、もう一回捲れるわ。違っていたらもう一人の手番。最後に持っていたカードの枚数が多い方の勝ち……これで良いわね?』

「……あぁ、それで良いぞ」

『どうしたの? 急に今まで以上に残念そうな顔になって』

「……今までも残念だと言いたそうなセリフには何も触れないでおくが、とりあえずゲームには支障は無いと思うから気にするな」

『そう? なら別に良いけど……あっ! もしかして、スキルがあれば勝てると思っていたのに、アリィに禁止されたから落ち込んでいるの? もう、それならもっと早く言ってよ~。スキルを使わなかったからアリィに勝てなかった……そんなこと言うメルスをからかかえなかったところじゃん』

「……(ブチッ、)ちょっと待ってろ」

(――【思慮分別】起動)


 少々【忍耐】の限界を超えたので、俺は本気の嫌がらせを行う為の下準備を行う。

 今までの会話で掴んだ情報全てを精査できるこのスキルで、絶対にカウンターを食らわしてやる。

 ん? あれ? まさか……。


「おい、一つだけ確認して良いか?」

『おやおや~、やっぱりスキルを使わしてくださいってお願いかな~? それならちゃんと精神誠意、心を籠めてほしいよ~』

「いや、そうじゃなくて。カードはどうやって用意するんだっけか?」


 ピタッという効果音が聞こえてくるぐらいに突然、アリィの体が停止する。


『え、えっと~……それはもちろん、私のスキルである【加留多】で――』

「そこじゃ無い。そのカードはどうやって出現するのかって訊いてるんだよ、俺は」


 彼女が持つ【加留多】は、カードを使ったコンボ的なものが発動できるスキルだ。
 触媒は加留多――日本でいう所のカルタとトランプ――で、枚数や役によって効果が異なると思われる……そこについては今は置いておこう。

 ――問題は、その触媒をどうやって用意しているか、だ。


 最初の革命は事前に用意していたかもしれないから今回は論議に入れないが、その後に使った8切り……それについて疑問がある。

 ――何処から出したか、そこが問題だ。
 あの時アリィは、何も無い所からカードを取り出して俺に放った。

 基本俺は【七感知覚】によるで先読みで攻撃を避けている。
 あの時のアリィからの攻撃も、魔力を使用した形跡をキャッチした為、冷静に対処ができたのだ。

 ……そう、魔力を掴めたのだ――そのカードから。


「――アリィのカードが魔力や氣力を消費して生成する物であるならば……裏にひっくり返してもどれがどれだか、分かるんじゃないだろうな~アリィちゃん?」

『そ、それは、その……アハハハハ』

「その反応……やっぱりそうじゃないか!」

『き、気付かない方が悪いんだから!』


 この女ー、開き直りやがった。
 もしこのまま勝負をやっていたら、全部負けになるとこだったじゃないか。


「選べ」

『……な、何を?』

「俺の魔力を一切持たないカードを使うか、アリィのカードを使う代わりにスキルを全部使用可能にするかをだ」

『本気……みたいだね』

「あぁ、本気も本気、超本気だ。アリィがそういう手を使おうとしていたのなら、俺もそれ相応の対応をしなければいけないからな」


 そんなどこかの毒持ち占い師みたいな手を使って神経衰弱をやって……ズルいだろ。俺のは覚えるだけだけど、アリィは見えてるんだから。
 なら、こっちもそれに(適応)させて貰うだけだ。


『……なら、アリィは――』


 そして、アリィは決断した。


『――メルスのカードを使う』


 ――俺が選ばれて困る方を。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

処理中です...