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偽善者と終焉の島 中篇 七月目
偽善者と『最弱最強』 その02
しおりを挟む『そ、それで、ここには何をしに来たの?』
「なんとなく、暇潰しだな」
やっと会話が真面目な展開に戻った。
あまりに面白いから、つい長時間からかっちゃった……まぁ、反省しないけど。
『あれ? 念入りに封印するだのなんだのって言ってたんだけど……結界とかは無かったの?』
「在ったけど壊れちゃった」
『……今までの行動から察するに、絶対に壊れたじゃなくて、壊しただよね』
「いやいや、俺一人が持ってる力なんて大したこと無いんだからさ。結界を壊す力なんて……全然持ってないよ」
封印前のステータスじゃ、あそこまでやるのは無理だったろうしな。
もし眷属達の称号補正が無かったら、できなかったと思うぞ。
「……おっと、自己紹介が遅れていたな。俺の偽名はノゾムだ、気安く呼んでくれ」
『そっか~、じゃあノゾムって呼ぶね……って言うワケ無いでしょ! どうせ言うなら本名を言え!』
「おいおい、人に名を尋ねる時はまず自分から名乗る者だということも知らないのか? アリィ。ちゃんと先に自分が名乗ってから、そういったことは言うんだな、アリィ」
『自分でアリィのことをアリィって呼んでるじゃない! もうアリィはアリィだって、最初から伝えてるでしょ!』
「……あ」
『……ちょっと、今、素で忘れてたでしょ』
「な、ナンノコトカナ」
『いいからさっさと名前を言え! さもなければ、アリィの【加留多】が火を噴くよ!』
おっと、こりゃあヤバいかもな。
そろそろ正直にカミングアウトを実行だ。
「■■■ー■、■■、■■■」
『……へ?』
やっぱり、英語じゃ駄目か。なら――
「□□□ □ー□□ □□□」
『へぇ、メルスって言うんだ』
「……ん、今の通じたのか?」
『今メルスが言ったんでしょ? 『私の名前はメルスです』って。さっきのは、どの種族の言語だったの? ゴブリン? コボルト?』
「……さらっと俺のことを人外として扱うんじゃない。最初に使ったのは、『メリケン』と呼ばれる国で使われている言語だ」
『それなら分かるワケ無いね。アリィが分かるのは、『シュリュム語』と『魔術語』だけだから』
シュリュム? 一体何処の大陸の話をしているんだろう。
強者達の中に、シュリュムについて話してた奴は一人もいなかったんだが……。
あと、『魔術語』。
俺としてはラテン語をイメージして言おうと思ったんだけど……そういえば魔術って何故かラテン語だったな。
だから通じたのか(こういう言語チートは、普通日本語じゃないか? なんでラテン語で魔術の言葉になるんだよ)。
「……まぁいいか。俺はメルスだ、ゴブリンでもコボルトでも無く、ちゃんと人の(形をした)種族だ」
『ふ~ん。それはメルスを見れば分かるんだけどね』
「……ブチッ。そ、それなら、アリィはどんな種族なんだ? アンデッドか? あぁ、性根が腐ってるし」
『……いきなり貶してきた!? なんで怒ってるの?! ――っていうか、そんな風にアリィのことを思っていたの!?』
「そっちこそ。俺のことを不細工だから醜悪なゴブリンだとでも思ったのか? 犬面だからコボルトって言ったのか? 言っとくが、ゴブリンにだってめっちゃ美形の奴が生まれるんだぞ! ……俺みたいなクソ野郎と違ってな(orz)」
『えー。自分で言っておいて、自分で凹まないでよ。アリィも反応に困るんだよ』
いるんだよ、どの世界にも美男美女は。
うちの国民の中にも、そういった美形さんが複数人――指では収まらない程に――存在している。
ゴブリンといっても進化後の話なんだが、前に出て来たホウライとかいるだろう?
彼女もかなりの美形だからな。
鬼人って、本当に美形なんだよな~。
鬼のトリオもアイドルを狙えるぐらいにはカッコ良かったりするし、元がゴブリンだとは思えないよ……ハァ。
「アリィに不細工かどうかを聞いたら、迷いなくそう答えそうだから答えなくていいぞ。
――絶対言うだろう?」
『言うね』
「……さて、話を戻そう。アリィ、一体お前は何を言おうとしていたんだよ? 確か……『フハハハハッ!』だったか?」
『まだ引っ張るの!? もう止めてよ、あれは一時のテンションに任せて言っちゃっただけなんだから……』
「だけど本当は……?」
『……誰かが来たら言ってみたくて、結構前から考えていた……ってだから何を言わせているのさ!!』
「安心しろって、誰にも……(プッ)、言わないからさ」
『――――』
そうやってアリィをからかっていると、突然黙り……スキルを発動させてくる。
『――"大富豪・革命"』
いつの間にかアリィが手にしていた4枚の札が、辺り一帯のルールを決定付けた。
札にはそれぞれ3つずつ、異なる絵柄が描かれており、仄かに発光していた(まぁ、簡単に言えば3のカードが四枚ある)。
『今からこの場は、強ければ強い程弱くなるよ。結界を破れるぐらいなんだし、強いってことは分かってるんだから』
アリィはそう言って笑う。
その顔は、先程までの子供らしい表情とは違い、弱者を嬲る【傲慢】なものであった。
『それじゃ、もう飽きたから死んで貰うよ。
さよなら、メルス――"大富豪・8切り"』
アリィは新たに出現させた札を、俺に向けて飛ばしてくる。
――そして、それは俺へと突き刺さった。
グサッ
『あ~あ、やっぱりすぐに死んじゃった「とでも思ったか?」……嘘、どうやって!?』
「お前は自分の考えが正しいと信じ過ぎなんだよ。俺はちゃんと言ったぞ、自分に結界を壊す力なんて無いってな……やっぱり8か、そのまんま過ぎるだろ、8切りって」
俺は恐らく数字で8と書かれた8つのイラスト付きのカードを体から引き抜くと、指の上でクルクルと回す。
「大体、ヒントが多すぎるんだよ。その服にしたって、トランプにある絵柄ばかりだ。日本の物だけじゃないから、少しばかり違ったかと思ったけど……正解だったな。
――お前の能力は、カルタのルールを相手に強制させるってものかな? トランプのことは、西洋カルタっていうから察しは付いていたよ。
力がどうのこうのって言っていたのは、革命を起こす為、ありゃあ弱者が強者に勝てる便利な効果だしな。だけど残念、今は多分俺の方が強い」
『そんな筈無い! だって、強く無ければここに来れないって言ってたもん!』
「急に『もん』とかキャラ付けするんじゃありません。強くても弱い奴はいる。弱くても強い奴がいるんだ……逆があっても別にいいだろう?」
ステータスを3に引き下げた俺は、アリィにそう言って不敵な笑みを決める。
『……気持ち悪い』
――折角キメたのに。
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