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偽善者と終焉の島 中篇 七月目

偽善者と<次元魔法> 前篇

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 修練場に巨大な門が出現。
 そんなことは眷属にとってどうでも良いことであった。

 ――主が動いて何も起きないことなど、今の今まで一度も見たこと無かったのだから。

 しかし、その巨大な門を修練場へと召喚した張本人に関しては、眷属達も放ってはおけなかった。

 何もかもが不安定、意思も感情も存在の大半が薄っぺらい――そんな主を。

 それぞれが思うところがあるのだろう。
 主は彼女達に何かを求めることは少ない。
 例え何か要求があったとしても、それは凄く些細なことであり、主自身が本気になればすぐにでも実行可能なことばかりである。

 ――そんな主が嘆願をした。

 それもまた非常に簡単な願いであるが、有象無象の世界を賭けた願いより重要な願いであった。
 故に眷属達が向かう先は当然一つである。

 ……空気が読める眷属以外は、全員が修練場へと向かったのであった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「(――って感じのナレーションがあったらどう思うか?)」

《……あまり無理しない方が良いと思うぞ》

「(回復自体は直ぐに終わるから良いんだが、俺的にはこっちの門の方が気になるぞ)」


 脳震盪をした俺がどうやってリュシルと会話していたかを覚えているだろうか?
 アレを再び使い、失った意識を別の思考へと移し替えることで、俺は意識を再起動したのだ。

 そのことが分かっているクエラムが部屋から動いていなかったので、暇を潰すついでに念話でトークをしているってワケだ。


「(おいおいこの門の感じ、絶対に見たことがあるぞ! クエラムもあるよな?)」

《確か……王家の迷宮とやらの入り口では無かっただろうか。メルスの記憶を観ていた時に、このような門が在ったぞ》

「(あぁ、それか)」


 俺の前に聳え立っているのは、金色の素材でできた――巨大かつ半透明な門である。
 門柱の部分には枠に沿って平行に引かれた溝、門扉には左右で対称になった綺麗なデザインが描かれていた。


「(……ってことは、実はこの中は王家の墓に繋がっていて――最下層に勇者が、アナザーモードには魔人がいたりするのかな?)」

《どうだろうな。ところでメルスは一体何をしたのだ? いつもの通り凄いことをやっていたのは分かるが、己には詳細が全然分からなかった……》

「(あ、ゴメンゴメン。正直俺もMPあったから適当にやってみたって感じだし、説明をすっかり忘れてたよ)」


 力があれば試してみたい、そう思う時もあるだろう。
 偶に先に恐ろしさやリスクを知っている者がそう考えない場合があるが、できることをしないというのは……少し【怠惰】だと思った為、暇潰しにやってみたのだ。


「(あれは[神代魔法]の一つ、<次元魔法>を使用した実験だよ)」

《<次元魔法>?》

「(あぁ、俺とリュシルの持つ[神代魔法]の解析結果と、彼女が持っていた古文書を一から読み漁って掴んだ情報。それに今あるスキルの内、何らかの反応を起こしそうなスキルを全部使って合成してみたらできた魔法だ。
 他にも色々とやってみたけど、実際に成功したのはこれともう一つの魔法だけだな)」

《凄いのだな、メルスは》

「(凄いのは俺じゃなくて、お前達の方だよ。
 平凡な人間に身の丈に合わないスキルを使えるようにしてくれたり、魔法を創る今回の下準備を90%ぐらいやってくれていたりするんだからな)」


 後半はリュシルにもしっかりと伝えたのだが、『私ではこれ以上のことはできませんでした。それをできたメルスさんの方が凄いですよ』と言われてしまった。

 最後に実験を成功させてしまった凡人と、実験を最終段階まで進めてくれた学者。
 どっちが優れているかなんて、分かっている筈なのにな~。


「(――おっと、説明の途中だったな。
 <次元魔法>はこの世界とは別の世界に干渉したり、この世界における災厄を呼び起こしたりできる魔法だった……後半は『最後の幻想』でも観たんだろうかな? 今回俺が行ったのは前半の部分――別世界への干渉だ)」


 クエラムには前半の説明をしておこう。
 ……後半なんて、地震を起こせたり隕石を降らせられたり……そんなもの、別の魔法でもできるだろう! って感じのものばかりであった気もする。


「(此処では無い何処か……そんな曖昧で抽象的なイメージして、俺は一つの扉を創り上げた――そこへと繋がる道を作る為に。
 実際に使えるかどうかは分からないが、それはこの後来る眷属達に任せれば良いしな)」

《……適当なのか》

「(グゥ……の音も出ないがその通りだな。
 俺のMPで糸を垂らして別世界に引っ掛けるには、今までは糸の長さが足りなかった。今回は糸は届いたけど、それがどんな世界に通じたか、いつの世界に通じたかが全く分からない。適当でも何でも一度試してみたかったからやってみた……後悔はしてないぞ)」

《それでこそ、己らが主だと思うぞ》

「(え、マジで? そう言われると照れるかも知れないな)」

《……全然照れていないのに、よく言うわ》


 まだ調子に乗ってはいけない。
 この扉の先が混沌さんのいる所に繋がっていたならば、宇宙戦争が起こりかねないんだからな。


《……そういえば、まだ誰も来ないのか?》

「(盗聴はしているんだろうし、今の俺の説明からもう既に別の何かを考えているんじゃないのか? みんな行動が早いのが良いところだかしな)」

《恐らく……いや、何でもない。メルスもあまり無理はしないでほしい。メルスの行動の一つ一つで、己もかなり取り乱しているのだからな》

「(ん? ……あぁ、分かった)」


 この後クエラムとの念話を切った俺は、眷属がここに来る間に魔力の回復を早める為、布団を敷いて眠ることにした。


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