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偽善者と終焉の島 中篇 七月目

偽善者と『勇魔王者』 その09

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 とりあえずマリー――改めミシェルには一旦眠って貰い、拒否反応が起こっても直ぐに対処できるような状態にしておく。
 朱色の髪を床に広げ、体を丸くして眠っているのだが、魔力を自分中心に展開し、周りの異変にすぐ気付くようにしているようだ。

 ……だいぶ警戒してたんだろう、今まで。


「ま、さっさと済ませよう」


 見た目通りプニプニとした感触をした彼女の肌に触れながら、この場に必要なスキルを発動する――。

(――"奪技掌")

 すると、彼女の体の何処からか、黒い影がスッと出して洞窟内の天井近くの所まで飛び上がった。
 あ、こんな真剣な場面で言うことでも無いが、(掌握)を使っての遠距離での"奪技掌"をしなかったのは、ただ俺が触りたかったからだぞ。


「……天井なんだから、俺の後ろに立つんでも構わないだろうに」

『個体名:"メルス"による干渉を確認。
 これより排除に移ります』


 現れたのは純白の翼を携え、無機質な瞳をした天使であった。
 滑らかな白い布をグルグルと巻いて服としていて……ボンッな部分がクッキリと見えるのが素晴らしいと思うぞ。


《マジメに――》《――やってください》

「(……あいよっ!)」


 ……やり過ぎちゃいました。

 後は……そうだな、翼の枚数が最初から十二枚六対生えていることかな?

 最初は堕天したんじゃないのかよ、と思ったのだが――その翼を良く視てみると、なんらかの魔法陣が刻まれているのが分かった。

 伝承では美しく輝いていると言われていた翼も、その翼自体の輝きでは無く、翼から漏れた魔力が可視化されて見えるだけの似非の光であった。
 だが、それ程までに魔力が漏れるということは、かなりの魔力量を誇ることが分かる。

 ちなみにだが、眷属達に生えた翼がそんな似非の光で無いことは確認済みだ……丁寧に一人一人触診して確かめたんだからな。


《セイ~、どうしてそんなに顔を赤くしてるの~?》

《な、何でもないよ》


 とにかく、彼女達の背に生えた翼は似非光が出てくる謎の翼とは違うってワケだ。
 一応、鑑定してみますか――


機熾天使リュシフェル ???
??? ???
??? ???


 ――名前的に大体同じだが、機械の天使であることが明確ですな。
 詳細が見えないことに関しては、マレフィセントの時に経験済みだから気にすることでは無いだろう。

 装備は何も持っていない……が、どうせスキルや魔法でどうとでもできるしな。
 借りれるものを借りておこうか。


「(Hey girls. Are you ready?)」

《Yeah!》《ィ、yeah》


 何故かイングリッシュになっているが、俺のテンションの問題だから気にするな。
 グラとセイも一応は乗ってくれて、俺も嬉しいよ。
 地球でやっても誰も乗ってくれないし、むしろ『何やってるのアイツ? キモッ』とか言われないんだから、心も傷付かないよ。

 ……ウン、オレ、ダイジョウブ。


(――"異端種化・天魔3:機人1")


 相手が機械の天使ならば、こっちは機械の天魔でいこうと思い、やってみました。


「(なぁ二人共、今の俺の状態ってどんな感じだ? 髪と瞳と身体特徴で良いから)」

《髪はそのままで、瞳は淡紅色だよ》

《え、えぇっと……。右耳にヘッドホンのようなもの、体の所々にも機械のようなものがくっついています》

「(……お、本当だ。アマルと模擬戦をした時は調べるのを忘れてたからな。体の不備とかもアンが残す筈が無いから、違和感も全く無かったし……)」


 目はアンと同じだな、アルビノさんはそういう不思議な魅力を持つ色になるらしいぞ。
 未来テクノロジー感が溢れる機械が、俺の体に装備されているのが良く分かる。
 あの時は英雄相手で頑張ってたからな、気付かんでもしゃあないか。


「(さて、相手は機械とはいえ、最強の天使を模した存在だ。簡単には倒せないと思う。思考が加速しているから、作戦タイムだけはほぼ無限にあるし、先に対策を考えておこう)」


 小説でも御馴染み、何故か相手が待ってくれているかのようにずっとこっちのターンな状態である……主人公って、どうやってやってるんだろうな。
 俺だって加速系の能力をある程度ものにするまではできなかったのに。


《もう一回頼っちゃダメなの?》

「(良いけど、俺超苦しむぞ)」

《ならダメだね》

《……では、相手は機械ですし、ご主人様の(機械操縦)で操ってみるというのは……》

「(クソ女神のこった、ある程度の対策ぐらい用意してあるだろう。"天魔創糸"を使って後で試してみるが、恐らく不可能だぞ。LUC、無いしな)」

《そう、ですか》


 難しいもんだよな。
 {他力本願}は体を壊すし、操縦はどうせ失敗するし……。
 裏技――『全軍、突撃!』は俺の沽券に係わるから使いたくないし、愚物を召喚しても一撃で潰されるだろうし、言葉は通じてもどうせ俺を殺すだろうし……。
 何かを抱えると、大体の策はできなくなっちゃうんだよなー。


《なら、こういうのはどう?》


 この後グラが語ったのは、人生快楽刹那主義である俺の心を、激しく揺さぶる……っていて欲しいな~と思えるような考えだった。


「(グラ、その考え良いな。語彙力が無さ過ぎてなんかこう、駄目な俺でも分かるぐらいには良いと思うぞ!)」

《後でセイと一緒に褒めてね!》

「(了解、二人共一緒にナデナデだな)」

《グラ、僕は別に……》

《良いの良いの》


 二人の会話を聞きながら、グラの作戦を実行する為の準備を、俺は行っていった。


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