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偽善者と終焉の島 中篇 七月目

偽善者と『勇魔王者』 その06

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 出会った時から影があると思ってはいた。
 だが、まさかここまでのものとはな。


「(……凄ぇテンプレな差別だな。ある時目覚めた力が忌むべき力でー、扱いがいきなり変化してー、そんな場所から逃げ出してもー、別の土地でも差別されるー。家の眷属の中で類似しているのはユラルかな? ユラルの場合は差別というか、畏怖によるものだから少し違うけど……)」


 彼女が酷い扱いを受けたのは、身体的特徴によるものだ。

 自分達より優れている者が憎い、
 自分達とは違っている者が怖い、
 自分達に無い力を持つ者が恐い。

 憎悪や恐怖、警戒といった心が彼女を襲い苦しめている。
 昔から伝えられ肥大していった負の心意的なヤツなんだろう。
 魔族は能力値が普通の種族より高い。
 比類する存在は、同じように恐れられている龍族や魔物ぐらいだと思う。
 どちらも体内にとある核を持っており、人族以上の力を発露することができるからな。


「(……まぁ、とにかく彼女は色々とあったワケで、家族を知らないらしいが……。グラ、セイ。こんな時、俺は一体どんな行動を取るでしょうか?)」

《家族にする!》

《眷属化で自分の記憶を強制的に流して、情に訴えかけます》

「(……どっちも正解なんだけど、セイの言い方は少しだけ傷付いちゃうぞ。ストレートに言ってくれる方が早くて済むから良いんだけどさ。……情じゃないからな。俺の記憶を観ても、暇な高校生が自堕落に生きている映像しかないじゃん)」


 ……まぁ、いっか。
 それより、彼女をどうにかしないとな。


「お嬢さん、逃げたければ逃げても良いと思いますよ」

『……え?』


 こちらを見る彼女は、まるで何かに縋るような目をしていた。


「私もこれまで、色々なことから逃げて来ました。面倒なことや重要なこと――様々な事柄からね……お嬢さんと違い、酷い扱いも受けず苦しい思いをしたワケではありません。
 人という者は、どんな環境でも必ず何かを考えるんですよ。ある人は世界に関わる深刻な悩みで、ある人はあの時にこうしておけば良かったという自責で、ある人は命を賭けて行動を行う時に――考えるんですよ、自分が悪いと思って、意味も無く罪悪感を感じ続ける為に。
 お嬢さんが感じているそれについて、私は完全には邪魔だとは言いません。貴女が例えそれを抱いていたことで、変わる運命もあったでしょうし、終わる運命もあるでしょう。
 ですが、私にはお嬢さんがどうしていつまでもそうやって過去を引き摺る理由が分からないのです。
 お嬢さんは言いましたね、『私はこのまま誰にも傷付けられないでいたから』――と。なら、忘れましょうよ、貴女を傷付けた者達のことなんて……」

『……そ、そんなワケには……』


 戸惑う様子を見せてくる彼女。


「ま、それも当然ですね。私の意見は良く変わると言われてますので、大半は聞き流しても良いですよ。大切なことが伝わらないとも良く言われるぐらいですし。……お嬢さん、貴女が覚えていたいというのなら、私は何も言いません……ただ、もう少し気楽にして欲しいのですよ」

『……できないよ。私は、何人もの人を殺した。襲って来た盗賊も殺したし、追いかけてきた兵士も殺した。みんな私を狙っていたから、みんな私を憎んでいたから』

「なら私は、自分の同志を裏切って撲滅させた経験がありますよ。私の同志達は死んでも蘇る特別な力を持っていますから、今でも恨みながら生きていると思いますよ……私を」

『殺したの? 同志を』

「前にも言いましたが、私は眷属――家族を最も大切にしていますからね。他の人はあまり気にしないんですよ。自分の国の国民や、ある程度の関係を持った人ならともかく、ただ似た考えを持っただけの者達など、惜しむ必要が無いと思ってましたから」

『……私は貴方が怖い、本当に何がしたいかが分からないから。私に優しくしてくれるかと思ったら、今言ったことが本当なら酷いこともしている。何がしたいのかが分からないでしょう? そんな人がいたら』


 ……まぁ、彼女の言う通りだな。
 俺も普通にそんな奴見たら、通報するぞ。
 俺が考える限り、それに対応する奴って、鬼畜ぐらいしかいないからな。


「人が二つの【矛盾】した考えを持っていることは分かりますね? お嬢さんが、周りに傷付けられたくないと同時に、誰かと一緒に居たいと思っているようにですね。私の場合は……そうですねー。一応で取り繕われた偽善の心と、私本来が持っている筈の歪んだ諦念の心がそれにあたりますかね?
 基本、私は困っている人がいたら手を差し伸べています……それが偽善だと考えていますからね。ですが、それはやる気の無い私本来の思考とは異なっているものです。本来の私ならば、お嬢さんの元にも来ず、そもそも島に飛ばされることも無かったと思います。

 ――その例外が家族ですよ。

 家族の為ならば私は何でもします……私を必要としてくれる人の為なのですよ? むしろ生き生きとしていない方がおかしいと思いますよ。
 尽くしたいし尽くされたい……今はまだ尽くされているだけですが、いつかは尽くす側になりたい者ですよ」

『私には分からない。貴方のその心も、家族への考え方も』

「……だからこそ、私はお嬢さんに知って貰いたいのですよ。家族の温もりを、価値を。
 私はそれを知ることで変われたのだと思います。全く同じようになって欲しいとは思いませんがそれでも、お嬢さんが一人でないということだけでも」

『…………』


 彼女は再び考える。
 それは俺の意見に感じるところがあったからだろうか。
 俺にはそれが分からないが、信じてみたいのだ。
 ――彼女が家族になってくれると。


『……分かった、なるよ、眷属に』

「そうでs『ただし!』……」


 彼女は少しだけ明るくなった瞳で、こちらの方をジッと見ながら口を開く。


『――ただし、そろそろ貴方の本当の姿と口調にして』

「――あ、あれ? やっぱバレる?」

『私は旅の途中で、人の機微を見ることが多くなったから……。そういったことは良く分かっているの。貴方は私に話しかける時、少し表情が硬くなっているの。バレバレ』


 凄いよ彼女。
 まさか、コールドリーディングができるとは……。


「……フゥッ、ならありがたく戻させて貰おう。今まで強者に会った時は、大体素の状態で話してたんだが、今はこの姿だからな。一応言っておくが、この姿は眷属に強いられているものだから……今は我慢してくれ」

『……嘘は吐いてないみたい。貴方は主なんじゃないの? ビシッと言うものだと思うのだけれど』

「良いんだよ別に。特に困ることも無いし、本当に困った時は戻してくれるし。……あ、それと関係無いんだが、本当に眷属になってくれるんだよな?」

『うん、なるよ』

「なら、眷属の証を刻む場所を決めてくれ、そこに証を刻むから。俺が触り辛い場所を選ぶなら、女性になってから触るから安心してくれ。その後は気絶するけど、俺は何もしないから安心して眠ってくれ」

『……あんまり信頼できないね』


 結局、彼女は太ももに印を刻み、意識を何処かへと飛ばした。


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