上 下
334 / 2,519
偽善者と終焉の島 中篇 七月目

偽善者と特殊フィールド 後篇

しおりを挟む


夢現空間 図書室


 それからというもの、特殊フィールドをあの手この手で調査中なのだが、一向に見つかる気配はない。
 俺自身が一度も調査に向かっていないことも理由の一つに入っているのだが、眷属達との時間を大切にしていのだからしょうがないだろう。


「――と、いうワケでリュシル、何か心当たりはあるか?」

『特殊フィールド自体は、元々存在していました。過去の文献にも、一部の者しか入ることのできなかった場所があったそうです』

「へぇ~。例えばどんな所だ?」


 図書室で向かい合わせに座りながら、俺とリュシルは話し合いをしている。
 彼女は夢現空間に来て以来、かなりの頻度で図書室へ来ている。
 理由は勿論、様々な情報がここに存在しているからであり、彼女は時にそんな情報を読み漁って時に本として自身の情報を記載したりしているのだ。


『そうですね……。例えば隠れ里ですか?  その種族の者しか入ることのできない場所です……メルスさんは別だと思いますが』


 まぁ、隠れ里のシステムも、因子を使って肉体を改変させるところまでは予測できないだろうしな。


「魔族にも隠れ里はあったのか?」

『あったにはあったらしいのですが……。私には行く機会も条件を達成する機会もありませんでしたので……』


 インドア少女(?)が、態々外に行く必要も無いか。
 Lvアップもゴーレム使役で簡単にできるとのことなので、自宅警備員も真っ青な程に引き籠れたのだろう。


「ま、俺も行ったことは無いし……リュシルの言う隠れ里は、別の時に捜してみようぜ」

『は、はい!!』


 そんな約束を交わしていると――


『――創造者クリエーター、私も同行してもよろしいですよね?』

『勿論、一緒に行きましょうね!』

開発者ディベロッパー、普通女性がデートを邪魔されて喜ぶものですか……』

『子供と一緒にいることを否定するのは、親としてどうかと思うのですよ』

『このままでは、一生先に進めないと思いますよ、開発者』


 ――俺とリュシルの会話に、一人の少女が介入してきた。
 青い髪にガラス玉みたいな黒い瞳を持つ、リッカがかつて用意したメイド服を着た――人形のような少女が。


「マシュー、眷属達の前には壁があるんだから、どうせ前には進めんよ」

『越えられない壁はありませんよ、創造主。貴方がその気になるだけで、その壁は一瞬で無くなるのですから』


 そう、メイドの正体は人形への受肉が完了したマシューである。
 レンやアン達と同様、生気の無い眼でこちらを見ながらそんなことを言ってくるが、無理なものは無理なのだ。


「越えてないよな、壁。少なくとも真実を知るまでは、俺は手を出さないと決めているから無駄だぞ」

『……これ以上の説得は無理そうですね。すぐに手を出すような方なら、他の方々があの手この手を使って努力する必要もありませんか。あの方達、一人一人が超が付くほどの美女や美少女ですしね』

「こっちではそれが普通だろ? 俺の世界なら美女だろうと何だろうと顔でアウトだ」

『……難儀なものですね。開発者、いっそのこともう襲った方が早いのでは?』

『マ、マシュー。そ、それはまだ早いというかなんというかですね……』

『おや? まだ……ですか』

『////////////////』


 聞こえないぞ……俺には何も聞こえないからな。


『うぅ、酷いですよマシュー』

『私みたいなゴーレムも誘うような人を、好きになったのが悪いのですよ』

『だから、言わないでくださいよ!』

「……そろそろ良いかな?」

『はい、開発者は本当に初心ですから、これぐらい発破を掛けておかないといけないんですよ』

『わ、私だって、好きでこんな風になった訳じゃ……』


 本当に話が進まないな……。
 ギーがリーをからかうように、マシューもまたリュシルをからかうのが好きなのだ。
 同性愛も、俺は別に否定はしないから別に良いんだが、今の所はただからかうのが楽しいって感じだな。


閑話休題百合は好みですか?


 やっと二人の話し合いが終わったので、俺は話を続ける。


「……コホンッ、特殊フィールドについてはまた別で調査をするから良いとして、他にも訊きたいことがあったんだ」

『訊きたいこと……ですか?』

「あぁ、リュシルがどうやって[神代魔法]を習得したか……それが訊きたくてな」


 俺の場合は経験とスキルから再現したのだが、リュシルの場合はどうなのだろうか(彼女の持っていた魔法は、[神代魔法]に同期済みだぞ)。


『私の場合は、ゴーレム達に探索に行かせたダンジョンの中にあった古文書を見て習得しました。難解な物でしたが、最終的には記載されていた魔法は、全て習得しました』

「さっすが学者さんだよ。その古文書はどうなったんだ?」

『私の方の図書館にあると思いますよ。その内その本も含めた全部の本を、こちらに移しておきましょう』

「おぉ、そりゃあありがたい」


 神代魔法が書かれた古文書……それがあれば神代と呼ばれた時代の何かが分かるかもしれない。
 特に創世記――そこさえ分かれば。


 この後は、雑談などをしていた(話は全然進まなかったけどな)。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

王宮を追放された俺のテレパシーが世界を変える?いや、そんなことより酒でも飲んでダラダラしたいんですけど。

タヌオー
ファンタジー
俺はテレパシーの専門家、通信魔術師。王宮で地味な裏方として冷遇されてきた俺は、ある日突然クビになった。俺にできるのは通信魔術だけ。攻撃魔術も格闘も何もできない。途方に暮れていた俺が出会ったのは、頭のネジがぶっ飛んだ魔導具職人の女。その時は知らなかったんだ。まさか俺の通信魔術が世界を変えるレベルのチート能力だったなんて。でも俺は超絶ブラックな労働環境ですっかり運動不足だし、生来の出不精かつ臆病者なので、冒険とか戦闘とか戦争とか、絶対に嫌なんだ。俺は何度もそう言ってるのに、新しく集まった仲間たちはいつも俺を危険なほうへ危険なほうへと連れて行こうとする。頼む。誰か助けてくれ。帰って酒飲んでのんびり寝たいんだ俺は。嫌だ嫌だって言ってんのに仲間たちにズルズル引っ張り回されて世界を変えていくこの俺の腰の引けた勇姿、とくとご覧あれ!

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

「守ることしかできない魔法は不要だ」と追放された結界師は幼なじみと共に最強になる~今更俺の結界が必要だと土下座したところでもう遅い~

平山和人
ファンタジー
主人公のカイトは、王太子率いる勇者パーティーの一員として参加していた。しかし、王太子は彼の力を過小評価し、「結界魔法しか使えない欠陥品」と罵って、宮廷魔導師の資格を剥奪し、国外追放を命じる。 途方に暮れるリクを救ったのは、同じ孤児院出身の幼馴染のフィーナだった。フィーナは「あなたが国を出るなら、私もついていきます」と決意し、カイトとともに故郷を後にする。 ところが、カイトが以前に張り巡らせていた強力な結界が解けたことで、国は大混乱に陥る。国民たちは、失われた最強の結界師であるカイトの力を必死に求めてやってくるようになる。 そんな中、弱体化した王太子がついにカイトの元に土下座して謝罪してくるが、カイトは申し出を断り、フレアと共に新天地で新しい人生を切り開くことを決意する。

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

処理中です...