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偽善者と未熟者たち 三十九月目
偽善者と迷宮内氾濫 その16
しおりを挟むついに始まった『獣皇の大草原』、迷宮守護者との戦い。
しかし、その姿に激しく感情を揺さぶられた人々は戦意を失っていた──可愛いから!
「我ながら、恐ろしい物を考えてしまった」
守護者の種族名は『覇統獣皇・天魔種』。
大変ゴツい名前だし、実際にその種族を知る者たちの認識的にはヤバそうなイメージなのだろう。
だが、この迷宮の守護者を想像する際に俺はいろいろと考えた。
そして浮かんだ……そうだ、ネタスキルを突っ込んでみよう、と。
稀に存在する、なぜ存在するのか分からない効果が微妙なスキル。
俺はそれを『誰でも分かるスキル情報網羅本』で調べ、あるスキルを見つけた。
「──で、それがスキル(擬態変形)。取得しておけば、能力値に影響が及ばない範囲で恒久的に姿を変えることができるんだ。ただし、人族には使えない……あくまでも魔物、それも従魔限定みたい」
分かりやすいたとえだと、R18的なスライムから国民的ゲームのスライムに姿を変える……ぐらいの変化が起きる。
まあ、見た目で使役を考える系の従魔士向けのスキルだ。
ちなみに可愛い系だけじゃなく、逆にグロい系にすることもできるらしい。
本来は従魔の主が覚えて使うところを、俺はあえて守護者自身に覚えさせた。
それが功を奏し、今に至る前の種族で変化が起きたのだが……それはまた別の話。
「いちおう僕も使えるけど──」
「……絶対に使うなよ」
『可愛いのは燃えねぇな……ああでも、こうラスボス感が出りゃあ燃えるか?』
「ラヴは今のままでも充分萌えるよ」
『ん? ならいいか』
中身はともかく、見た目は美少女精霊なので……字に関しては気にしないでもらおう。
ともあれ、そんな相手の庇護欲をくすぐる系守護者の無双はまだまだ続いていた。
男性たちの説得を受け、女性陣もどうにか攻撃を始めていく。
それなりに探索者たちもやられており、このままではダメだと思い知ったのだろう。
それを知ってか知らずか、守護者は咆哮を一声──周囲に魔法陣が展開される。
そこから現れるのは多くの魔物たち──彼らもまた、ぬいぐるみサイズの姿だ。
「ある意味、彼らも主従関係だからね……本来の使い方、主が持っているだけだとできない裏技みたいなものだよ」
再び増えた可愛い。
その衝撃に意識を奪われる女性陣だが、それでも今回はどうにか耐えて攻撃を放つ。
一方の魔物たちも攻撃を即座に回避。
守護者に負けず劣らずの動きで反撃を行うと、探索者たちと五分の戦いを繰り広げる。
「スキルで弱体化している分は、あの子──ガウの能力で補っているしむしろ強化されている。あと、彼らは人との戦闘経験も豊富だからね……本当、ちょっとズルいかも」
名前も可愛く(若干の雄らしさもありに)したのは、体で名を表すため。
呪術的なヤツでよくある文言だが、それはこの世界でも割と存在する。
……その割に俺のネーミングセンスは疑われているだろうが、それはそれこれはこれ。
ガウには呪術的な意味を籠め、その名を与えて守護者として頑張ってもらっている。
そんなガウと配下たちは、愛らしいさ姿のまま探索者たちと戦い続けた。
配下は時折倒されるが、ガウがその都度召喚することで補填している。
限りはある……が、迷宮からの供給があるので正直言って枯渇は絶望的だ。
相手の心を折るか折られるか、要は根気の戦いとなっている。
「ロカ、ラヴ。そろそろ行こうか」
「もういいのか?」
『っしゃあ、盛り上がってきたぜ!』
「うん、まずは──“対招更撃”!」
デバフの魔法により、周囲の魔物からヘイトを稼いで自分たちの下へ呼び込む。
範囲を調整してあるので、現在戦闘中の探索者たちから奪うことは無い。
そこからはひたすら戦うだけ。
距離に合わせて武器の形状をコロコロと変え、魔法を飛ばしつつ周囲の探索者に対して支援を行う。
……戦うだけ、という割には思ったよりやることが多いのだが、感謝をされることに自己満足をしているので、思いのほか充実はできていた。
「ひゃっはー──“自動詠唱・魔力弾”!」
祈念者の[メニュー]から発想を得た、魔法の自動発動を魔法化したもの。
それによって、何十何百もの魔力の弾丸を自動で生み出し周囲に散布していく。
低スペックな俺が放つものなので、牽制以上の効果は生まれない。
だが制御だけはきちんと鍛えており、的確に魔物たちが嫌がる場所に届く。
探索者たちにとってはソレで充分。
生じる隙を的確に突き、相手取っていた魔物たちを倒しだす。
「っと、ロカ!」
「了解だ──“栄光象徴”!」
ロカの瞳は金色に輝き、空から一筋の光が突如として射し込む。
それは自己強化と集団強化を同時に行う、【希望】を象徴とする能力。
この能力はまず発動者に対する注目度を参照とし、自己バフを発動する。
そのうえで、活躍を見た味方に対して注目度に応じたバフが機能していく。
頑張れば頑張るほど注目され、その注目度の分だけ自分も周りも強くなるのだ。
……注目度自体は味方だけでなく敵も含まれているので、集団戦でこそ力を発揮する。
「最後の大暴れといこう!」
『っしゃあ、燃えてきた!』
ラヴ的にも、そういう展開の方がやはり楽しめるようだ──さて、この迷宮を鎮静化するとしよう。
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