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偽善者なしの迷宮創壊 六月目

偽善者なしのダンジョンイベント その11

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難易度八 黒獄の天宮


 全てが真っ黒に染め上げられた宮殿に、その者は存在した。

「――■■■"暗黒玉ブラックボール"」

『『『グワァァァアァァ!!』』』

 黒き鎧を身に纏い、全てを闇へと葬り去る騎士――闘技大会第三位"黒騎士"である。

 黒騎士は現在、自身のギルドで造り上げたダンジョンの防衛中である。
 鎧越しに聞こえるくぐもった声がそう告げると、全てを黒へと塗りつぶす暗黒の玉が、プレイヤー達に襲い掛かる。

「――"ソニックスラッシュ"」

『『『ガァァァアァ――!』』』

 光を一切映さない闇色の斬撃がプレイヤーに繰り出され、その場には、黒騎士以外のプレイヤーはいなくなった。

「――さすが、闘技大会参加者は違うというところだね」

「っつ!?」

 ――しかし、プレイヤー以外の存在は、まだこの場に残っていた。

 狐の身体的特徴を持つ、黒い喪服を着た女性が黒騎士に話しかける。

「固有スキル【魔道甲冑】で(暗黒魔法)を身に纏い、魔剣を振るう"黒騎士"ねぇ……。僕にはあまり使えないスキルだけど、マスターが使えば安全になること間違いなしのスキルだと思うし……」

「な、何を言って……」

「おや? 自分のスキルに心当たりが無かったのかい? 幾ら自分の偽装・隠蔽能力が優れていると思っていても、そこまで自信を持つことは……少し【傲慢】じゃないかい?」

「っつ!?」

「でもね、僕だって視て良いものと駄目なものぐらい、ちゃんと弁えているつもりだよ。例えば……君が女の子だってこととかね」

「っ……!!!?」

「さっきから驚いてばかりだね。そこまで自分のスキルを過信していたのかい? (発育変換)に(音声変換)、(ステータス偽装)に(認識偽装)……これとさっきのスキルと二つ名のスキルが混ざったものが君の伝説スキル――<黒騎士>の正体だろう?」

 女性の解析能力は凄まじい程に高く、黒騎士が今まで隠し通して来た情報を、一瞬にして全て曝け出した。

 先程まで真実を暴かれたことに衝撃を受けていた黒騎士だが、あまりのショックに一周回って冷静になる。

 スキルを使っていれば敵対の意志があると思われてしまう。
 黒騎士は自身のスキルを解除して、女性と話していった。

「どう、して、分かっ、たの?」

「視えたから……ってことにしてくれないかな? 僕は秘密主義だからね、マスター以外には隠しておきたいこともあるんだよ」

「マス、ターっ、て?」

「僕の仕えている主様さ。先に言っておくけど、君も知っている人だからね。……あぁ、直接の面識は無いんだっけ」

「……。分から、ない」

「まぁ、その話は後にするとしよう。僕は君にある提案をしに来たんだ」

「提、案?」

 黒騎士がそう尋ねると、女性は笑みを浮かべてこう言った。

「――君を、スカウトしにね」


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難易度五 鉄壁要塞 


 完璧な防御態勢からその名前が付けられたダンジョンは今、壊滅の危機を迎えていた。

「誰か、誰かアイツを止めてくれ!!」

「――~~♪」

 侵入者は主がかつて歌ってくれた歌を思い出しながら、鼻歌でその歌を真似つつ、石造りのダンジョンの中を突き進んでいた。

「~~~~♪」

「クソッ! まるでバリアでも張られたみたいに全部弾かれちまう。確かにスキルなら可能ではあるが……あの強度はチートだろ!!」

 先程から侵入者の周りには、製作者達が仕掛けた罠や隠れていた迎撃班が放った攻撃等が飛んでいる……が、それらは全て、侵入者の体の近くに行くと、必ず何かに邪魔をされるかのように意味を成さないのだ。

「あんな奴、上位プレイヤーにいたか?」

「獣人の少女となると……女版ムツゴロウぐらいしかいないが、絶対に違う」

「あぁ、モッフルならモッフルらしく、語尾にフモでも付けてりゃいいんだ」

 ここにはいない『モフモフっす!』と言って、あらゆるモフモフへの接触を試みていたプレイヤーのことは置いておくとして、確かに違う。

 侵入者は透明な髪と白いケモ耳を持った獣人の少女だ。
 彼らの知る女ムツゴロウの特徴とはだいぶ異なっている。
 ……彼女は固有魔法で自分の動物的特徴を自在に変えられるのだが、それはあまり知られていない。

「おいおい、このままだとコアに辿り着かれちまうぞ」

「あの子が誰かなんてどうでもいい! 今はとにかく止めるぞ!」

 リーダーの指示に従って、彼らは侵入者を撃退するために奮闘した。

「……♪」

 だが、少女が歌を止めた時、そこにはダンジョンコアしか存在していなかったという。


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難易度十 偽・世界樹の迷宮


《レン様、侵入者六名撃退したぜ》

「お疲れ様です。侵入者がそちらに向かったら、また連絡します」

《了解っと》

 レンはビフレストからの連絡を受けた後、再びダンジョンコアを操作し始める。

「あまりにも盛り上がりに欠けますね。ここに侵入して来た方も、ビフレストを渡る前に門番によって撃退。ダンジョン踏破の方も、大体が同じような無双プレイ……これでは新鮮さに欠けるというかなんというか……」

 そう、娯楽が欠けているのだ。
 己が主を楽しませるだけの娯楽が。

 すると、そのタイミングで連絡が届く。

「……主様! ……え? 良いのですか? 安全第一で行け、と。……はい、分かりました。最初に提案されたプランは、そのままで宜しいでしょうか? ……はい、ありがとうございます。……では、後程」

 どうやら主様は満足していただいていたようだ。
 そう感じたレンは内心で喜びを表す。

「……プランも最終段階に移行しますね」

 主様との約束を果たす為、レンは動く。



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メルス「……もうお腹いっぱいです」

レミル『全員が全員、一騎当千の強者ですから。メルス様が制限を掛けない限り、あの結果になるのは必然かと』

メルス「ま、それはそれとして、スカウトの方も上手くいきそうだな。昔見つけた時から気になっていたんだよな~」

レミル『……そろそろ終盤ですね』

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