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偽善者と終焉の島 前篇 六月目
偽善者と『禁忌学者』 その07
しおりを挟む何回かのトライアンドエラーの間に、疑問に思ったことが幾つかあった――
何故マシューは一瞬で移動ができるのか。
何故マシューは一々定位置に戻るのか。
何故マシューは最初から神氣を使っていないのか。
――これらを解くことに、勝利の鍵が潜んでいると思った。
「よっしゃー、いっちょやってみるか!」
(瞬脚)を発動し、勢いよく扉の中を潜って行く。
当然、マシューの脚が俺の元へと降りてくるのだが、ここで一つ目の疑問が解決した。
何故一瞬で移動できるのか――その答えは転移であった。一瞬でマシューの定位置が見える所まで進んだ俺が見たのは、転移を発動させる魔方陣であった。
侵入者が入って来た時の速度を計算し、座標を指定して転移、計算通りに進む侵入者を踏み潰す――これが一つ目の解だ。
……さて、これを避けないとな。
どれだけ理論を立てても、それを実行できなければ机上の空論だ(幾ら物理無効でも、踏まれるのは怖いじゃないか)。
俺は(転移眼)で、魔方陣のある部分まで一気に移動する。
ドシンッ
マシューの脚が地に着いた音だ。
この後すぐに戻ってくるのだが、その前に魔方陣を記憶して別の場所に移動する。
ゴゴゴ
俺が移動したのと同時に、マシューは元の場所へと戻り、光線の充填作業へ移行した。
特殊思考内
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
時間も無いから、一気に加速して解析を進めるぞ。
さっき見た魔方陣、それは幾つかの魔法が発動できる複合魔方陣であった。
本来魔方陣には、一属性の魔法しか刻むことができない。
魔方陣にはその魔法に必要な属性に合った魔素を自然から徴収する仕組みもある為、二種以上の魔素を混ぜると余計な属性の魔素が入り、魔法が発動しなくなったからだ。
そんな魔方陣で複合魔法――二属性以上を必要とする魔法を発動させる方法は既に幾つか存在しており、今回はその一つが使われたのだ。
発動させたい魔方陣をそれぞれが干渉し合わないように刻み、それを切り替えて発動させる。
電車のレールのように切り替えて魔法を発生させるこの方法、実はかなり難しいのだが……禁忌に触れるぐらい頭の良い学者さんには関係無かったようだ。
マシューと魔方陣が接続できるようにしておいて、状況によってマシューがそれを切り替える……そうプログラムしたらしい。
魔法の発動に関しては、外界から徴収した純属性の魔素がある為、それを流せば成立する……これだから天才は。
俺が現在解析しているのは、刻まれている魔法と神氣の供給についてだ。
往復転移・純の魔素選別・結界等の魔法は分かったのだが、何重にも重ねられている為時間が掛かる。……べ、別に、魔方陣を転写したいワケじゃ、な、無いんだからね。
……さっきのは置いておくとして、神氣の供給に関しては全然分からない。
そもそもとして神の力の源が神氣なので、解析ができたら問題か。
いやーね、『凝』的なことをしてみたら一応は見えたのよ。マシューの体の中まで神氣が侵蝕しているのが……それをどうしろって言うんだよ。
斬りたいものを選んで斬る装備もあるにはあるけど、そもそもどうやってそこまで行くつもりだよ。
――斬る前に殺られるわ!
……解析は思考の一部を割いて続けていくとして、そろそろ戦闘に戻るか。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ゴゴゴ
メインの思考を戻すと、マシューは未だに充填作業中であった。
……物語の主人公達って、絶対思考加速系の技能をスキルとは別で――自前で持ってるよな。
偶にある戦闘中にめっちゃ考えてるアレ。
読者や視聴者はお決まりのものだからそのままにしているけど、絶対にそんなゆっくり考えてたら攻撃されるもんな。
俺だって、思考加速してないとこんなのんびりやってられないし(ティルはそんな加速している思考をいつも読んでいる。多分ティルも加速させているんだろうが、もし違っていたら違っていたで凄いよな)。
ピシュン
充填が終わったマシューが放った光線は、的確に現在の俺の所在地に向かって来る。
先程までの短距離転移は、視界内しかできない為、広域殲滅系の攻撃には向いてない。
なので、光線に向かって掌を翳す。
(――"奪魔掌")
翳した掌は、柱とも呼べるような光の線を体に取り込んでいく。
毎度御馴染みの【強欲】さんだが、分体では使えなかったから成功するか分からなかったんだよ。
いやー、成功して良かった~。
ゴゴゴ
マシューは紅い光を放ち始め、感じ取れる神氣も高まり始める――ここが勝負所ッ!
("龍鱗生成"+"甲殻生成"+"外骨格生成"+"鱗鎧生成"="蟲龍の全身鎧")
("神鉄鉱壁""魔纏化・晶""防御の心得・劣""受け身の心得""硬魔氣功""万超城鎧")
("エンチャントブースト")
("レインフォースブースト")
("ドラスティックブースト")
("疾如風"、"徐如林"、"侵掠如火"、"難知如陰"、"不動如山"、"動如雷霆")
目の前に防壁を築き、知りうる限りの防御系スキルを発動させてできるだけ身を固めていく。
解析は……まだみたいだな。
やっぱり、こうしないといけないようだ。
ピカーン
輝きが限界まで達し、築いた壁に向かって
振り下ろされる。
グワッシャアン
紅の拳は壁を一瞬で破壊し――
ピキパキバキ
俺の鎧を木端微塵に砕き――
「ガッゴブァエッ!!」
――木偶の坊を出口へと送り返した。
……だが、最後に喰らって貰うぞ。
今の攻撃でお前の神氣は解析した!
(復讐するは彼女の為に――【因果応報】)
最後にそのスキルを発動させると、俺の意識はブレーカーを落とされたようにプッツリと断絶した。
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