上 下
292 / 2,519
偽善者と終焉の島 前篇 六月目

偽善者なしの元英雄達の選択 中篇

しおりを挟む


『浄化って言ってもな~……俺は聖人じゃないから、少し荒っぽい方法しか取れないぞ』


 彼はウンウン悩みながらも、最終的に私の選択を受け入れてくれました。


《なぁ、これ凄くなかったか? ここの奴らが無言でスキルを発動させるのもそうだが、今俺達を運んでるこれ、どうやって発動しているんだ?》

《……(魔量視)が発動しないってことはそれ以外のもの……氣を使ったってこと? あぁでも、それならそこの馬鹿が気付かない筈ないし、だけど……(ブツブツ)》

《あらあら、シャルに興味をそそったものみたいね》


 現在、私達は礼拝堂に移動中なのですが、私以外のみんなは、何もない宙に浮かんで運ばれています。それは彼のスキルによるものだと思われるのですが、シャルの言う通り原理が全く分かりません。魔法で無いことだけは私にも分かるのですが……。


 そんな方法で運ばれた先――礼拝堂と呼ばれていた部屋――は、とても神聖な場所でした。聖氣が中を満たしていて、本来アンデッドが立ち入ったならば、入っただけで浄化されるぐらいの神聖さです(それでも居られるということは、それだけ魔王の力が凄まじいということなのでしょう)。


《これは……。コラーニ様の神殿よりも、神聖な力を感じ取れます》


 ウェヌスもそれを感じ取ったらしく、私達にそう教えてくれました。
 あそこも……かなり感じ取れる場所だったのですが、そこ以上ですか。


《だけどよ、見た感じ神像が置かれてないんだが……アイツは一体、どこの神様を崇めてるんだ?》


 本来、礼拝堂や神殿にはその場所がどの神様を崇めているかを明確にする為、必ず神像が置かれている筈なのです(多神教やその場所で崇める神様に深い縁を持つ神様が存在する場合は、複数の神像が置かれている場合もありますが)。
 ……しかし、この場には神像は疎か、人の形を成した者が描かれたものすら、存在していませんでした。かつてギルドの依頼で討伐に向かった邪神教徒の者達ですら、名状しがたい像を崇めていたというのに。


『じゃあ、早速作業を行うから、意識を落とすぞ。目が覚めた時には浄化だけは成功させておくから、リハビリは自分でやってくれ』

(……みんなを、頼みます)

『あぁ、偽善者に任せとけ』


 彼はそう言って、私達の体に触れていきました。すると――


《アマル! アンタの体が……!》


 シャルは、最初に触れられた私が突然倒れたことに驚いているようですね。


《どうやらあれは、魂と呼ばれるものなのでしょうね》

《……おい、アマルから二つの玉が出て来たぞ。なんで、二つ出てくるんだ?》


 ウェヌスの言う通り、それらは恐らく魂なのでしょう。一つは私の物。もう一つは――今まで私の体を操る為に使われていた物。
 魔王が私達を操る為に使っていた媒介が、恐らく彼の手に存在する、黒い玉なのでしょう。

 彼は、私達の魂を安全な場所に避難させてから浄化を始めるようですね。
 私達は、彼が八つの玉を運ぶのをゆっくりと眺めていました。


 彼は玉を別の所に置いた後、私達の体の前へ戻ってきました。そして、無詠唱でもできるであろうスキルの発動宣言をして、私達の体に――手を突っ込みました。


《えげつね~な~。あれ、どうやってるんだよ……》


 彼は体に差し込んだ手を、まるでマッサージでもするような手つきで動かしてました。
 恐らく、なんらかの効果があるものなのでしょう。
 それを確かめる為、私は様々な解析系のスキルを発動させて視てみました。


(……どうやら、体を聖氣に耐えうる物へと強化しているのだと思われますね。
 (魂魄眼)によると、彼の体は現在、霊体になっています。そしてその霊体の体で、体のあちこちに力を注いで、浄化に掛かる負荷に耐えられように弄っているのだと思います)


 長い時間の中で、私は魔王のスキルを一部使えるようになってはいましたが、いつこの繋がりが断たれるか。そうなった場合、今使える(魂魄眼)はどうなるのか……。
 それを不安に思った私は、自力での習得に漕ぎ着けました(片目だけ発動させて、もう片方の目でどうにかして仲間達を視ようとしたり、色々とやってみました)。


『……よし、ここまでで――"保存"』


《……ッ!? 何よあのスキル。アマルの体の機能だけを完全に止めている?! ……(時空魔法)が有っても、そんなことはできないのに。
 どれだけ難しい条件を満たせば、そんなスキルが使えるようになるのよ……》


 世界を維持することにも使われる魔素は、本来留まることを知らず、絶えず流動する性質を持っている……そう考えられていたのですが。
 彼はそんな昔から知られている法則を、容易く壊していきました。
 (時空魔法)や(時魔法)は、確かにものの状態を止めることができますが、それは魔力を消費している間だけのこと。魔力の運用を止めた途端に、その物の時間は再び動き出してしまいます。


《本当に何なのよあのスキルは! 気になってしょうがないじゃない!!》

《こっちに来てから分からないことばっかりじゃねぇか。引き籠ってた賢者様には知らないことがいっぱいだな》

《……ちょっと来なさい。アイツがどうやってアレをやっているのかの実験台にしてあげるから》

《嫌に決まってんだろ、そんなもの》

《(ブチッ)……いいからやらせなさいッ!!》


 全く、ウルスも余計なことを言わなければ何もないというのに……。
 ウルスとシャルの友情の深め合いは、彼の作業が全員分済むまで続きました。


()!!


TO BE CONTINUED


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...