290 / 2,519
偽善者と終焉の島 前篇 六月目
偽善者なしの前日譚 【煌雪英雄】 後篇
しおりを挟む魔王に意識を飛ばされた私は、真っ暗な闇の中を彷徨っていました。そこはどっちが上か下か、左か右かも分からない……水の中に居るような浮遊感を感じる場所でした。
そんなふわふわとした空間には丸い球のような物がポツンと置かれていて、何かが光っているように見えました。私はそれが気になり、覗いてみることにしました――
――そしてそこで、私はある光景を観ることになりました。
『…………』
《――やっと終わったか。豆粒がかなり抵抗したな。……まぁ、良いだろう。お前も中に入っておれ》
(あれ? どうしてあそこに私が。……それに、二人の姿も見当たりません)
目の前には、魔王と私の姿がありました。 しかし、シャルとウェヌスの姿を見つけることはできません。
(それに私の姿、あの時のウルスの姿によく似ている……あぁ、なるほど。二人はもう既にアンデッドになっていて、もう……私も同じ状態なのでしょう)
そこに見える私は魔王の言葉に従い、ウルスのように消えてしまいましたが、その姿はしっかりと見ました。その時の私の髪も、ウルスと同じように黒ずんでいて、瞳が映していたのは闇だけでした。
ですが、私は何処にいるのでしょうか。先程まで映っていたのが意識を失った後の私の姿だと考えると、今のこの私は本来ならいない筈です。何故なら、魔王は私に言っていたからです――目が覚めることは無いと。
それなのに私は今、闇の中に意識を持って存在しています。
(ウルスは……シャルやウェヌスもここにいるのでしょうか)
そう思って辺りを見回してみても、結局見えるのは闇だけ。生き物の姿すら見つけることはできませんでした。
仕方なく再び球を見てみたのですが、球から見えるのもまた、ここと同様の闇でした。
――しかし、こことは違うものも映っています。
(……ッ?! ウルス、シャル、ウェヌス!!)
球の中には、黒ずんだ姿をした仲間達が浮かんでいました。ですが、球の中の私は身動き一つ取ることができず、ただ仲間達を虚ろな眼で見ていることしかできません。
(……今はまだ、見ていることしかできないようですね)
魔王は言っていました、私達を天秤として使うと。それはつまり、魔王の言う輝きというものを計る為の道具として使われる、そういうことなのでしょう。
ならば、私達もいつかは私達――いえ、魔王以上に強い人に会う機会があるかもしれません。
そんな人ならば、この縛られた世界から私達を解放することができると思います。
……ならば待ちましょう。
例えどんな場所であろうと、仲間達と再会する為に。例え死の間際であったとしても、魔王の呪縛が解けた際に一時的にでも元の肉体に戻れると信じて。
(今は、本体に干渉できるように頑張ってみましょう)
そんなことを考えた私は、真っ暗な闇の世界で様々なことを行っていきました。
――そして、幾百の時が過ぎました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『ハッハッハ! どうしたのだ、お前のその魂の輝きを見せてくれるのではないのか!!』
『……まぁ、確かにそれっぽいことを言った気はするが……』
『ならば、さっさと吾に見せてみろ。その為の相手は用意しているのだ!』
《……おっ、こいつ凄~な。剣が噛みあってるぞ》
《魔法も凄いわね。私でもこれだけの数の魔法を同時に使うのは少し難しいわね》
《しかし、彼の身には呪いが掛けられていますね……それも、かなり強力な物が》
長い時間の間に、私は色々なことを学び、行いました。
幸い当初の目的であった、体を動かすということは直ぐに達成しましたので、次に闇の空間の調査を行いました。
調査の結果、私の居る闇の空間は魂だけの存在が漂う世界でした。
今の私の視界には、かつての仲間達が映るようになりましたが、そうなるまでにも色々ありました……えぇ、色々。
そんな調査を行う過程で私は、魔王のスキルの一部を使用することができるようになりました。どうやら魂だけの存在と私には、そのようなことが可能だったのです。
そして魔王のスキル(魂魄眼)を発動させることで、遂に私は仲間達を視ることができたのです。
それからは(念話)の練習や、肉体干渉を仲間達に教えたりと、楽しい時間を過ごしました……みんなと一緒ですしね。
魔王はその間も、私達の体を使って、強者の輝き――魂魄を調べていました。ですが、魔王の目に適う魂魄の持ち主は、見つかりませんでした。数多の大陸を渡る内に、様々な者を見た魔王ですが……現在に至るまで、誰かが持つ魂魄の輝きに満足することはありませんでした。
あの後別の大陸に向かった魔王は、その大陸で『人類連合』と呼ばれる軍勢によって今いる島まで飛ばされました(確か……連合の皆様は行き先は終焉の島と言ってましたね。
シャルに訊いてみたのですが……知っていたのは、かつて神が制御しきれないものを纏めて封印した所という島の概要のみでした)。
――そして今、そんな魔王の元に一人の青年が現れました。
彼は突然魔王の城に攻撃を仕掛け、魔王を呼び出し、対話を求めました。話をする内、魔王は彼の持つスキルに興味を持ち、私達を使いって彼の実力を試そうとしています。
《なぁ、こいつ……俺達に気付いてるよな》
《気付いてるわね。さすがにこちらの世界にまでは気付いていないみたいだけど》
《でしたら、ワタシ達を倒してくれるように言いましょうか》
(そう……ですね、でしたら伝えてみましょうか)
長い時間を過ごした私達に、既に生への執着は残っていませんでした。この考えは、全員で話し合って決めた物です。
しかし、三人でそのことを告げても、彼は凄く嫌そうな顔をするだけで、私達に止めを刺そうとはしません(ウルスは(念話)を殆ど使えませんでした。代わりに、肉体に自分の意志を籠めるのは得意になっていましたが)。
《おっ、無力化してきたぞ》
《魔王と同じ魔法を? ……ってみんな、彼が使ってるのって神器よ! というより、体のあらゆる所に神器を持ってるわよ!》
《……本当ですね。しかも、神器でなくても聖具や魔具です。彼の持つ装備と同等のものは、宝物庫にも存在したかどうか》
彼は私達に魔王と同じ――いえ、それ以上の魔力を流し込み、魔王から私達の肉体の支配権を奪ってそのまま肉体を別の空間に移しました。
《…………》
みんな黙ったしまいましたが、それも仕方有りませんね。別の空間に移された私達の肉体を待っていたのは、白髪に赤い目をした綺麗な女性であった。
『……全く、メルス様も突然の思い付きで行動しないで欲しいですね』
そんな愚痴を零しながらも、彼女は魔法を発動させて、私達を運んで行きました。
《アマル、今の魔法じゃないわよ》
(……違うのですか?)
《あれは魔術よ。誰でも魔法を使えるようにした魔法の劣化版で、魔法より様々な現象を起こせる高性能版よ》
(それって、どっちなのですか?)
《フフン、いいわ。アマル、アンタに分かり易く魔法と魔術の違いをたっぷり説明してあげるわ》
――それから彼と再び会うまで、シャルから魔術について教わりました。
TO BE CONTINUED
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる