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偽善者と終焉の島 前篇 六月目
偽善者なしの前日譚 【煌雪英雄】 中篇
しおりを挟む『……フン、この程度の実力で吾を倒そうと思うとは……思い上がりも甚だしいわ!』
私達は、魔王を相手に善戦することもできずに、地面に倒れ伏す結果になりました。私以外の仲間達は全員意識を失っており、魔王に抵抗する術はありません。
魔王は黒いローブをスッポリと被り、緑色に燃える瞳をローブの奥から見せています。
私は、そんな瞳で軽蔑するように私達を見てくる魔王を見ながら、少し前のことを思い出していきました――
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
フィール古城に向かう最中、私達は何体ものアンデッドを発見し、これらを浄化していきました。私達が所属する国――ハイント王国の兵達が装備する鎧を着た者や隣国の鎧を装備した者、私達の誰もが知らないような模様を鎧に刻んでいる者がいました……恐らく魔王がかつて滅ぼした国の者なのでしょう。
そして現在、私達は再び遭遇したアンデッドを倒し、ウェヌスさんに浄化をして貰っています。
『……アマルさん。魔王に操られていた魂は全て、天上へ旅立って逝きました』
「えぇ、ありがとうございます」
……どうやら終わってみたいですね。
ウェヌスの信仰する神様は、全てのものに癒しを与えるという慈悲深いお方です。そんなコラーニ教の【守護聖女】様は、信仰する神様同様に、とても優しい人だと私達はいつも思っています。
一方ウルスとシャルは、謎の国についての話をしているみたいです。
『しっかし、シャルでも分からねぇ国があるなんてな。折角お勉強をしていたのに』
『少なくともこの大陸の国の紋章は全部把握しているし、近隣大陸の国も少しなら知っているのよ。それなのに、一つも該当する国が無いなんて……さっきのアンデッド達は、一体何処から来たのかしら。
……さてウルス、それとは別だけど何か言い残したいことはあるかしら?』
『ん? 何かあったっけか?』
『惚けんじゃないわよ! アンタさっき、ワタシでも分からないとか言っている時に、お勉強って言ったわね!』
『……それ、気にすることかよ』
『気にするわよ! いっつもいっつも、アンタは私のことを子供扱いして……。私はアンタより年上なのよ! 年長者である私をもっと敬いなさいよ!』
シャルは現在、1『ちょっとアマル。アンタも変なこと考えて無い?』……えぇ、まぁ、シャルはとても若々しいですが、普人族との寿命の違いから、実年齢よりも若く見られがちです。
ウルスも悪気は無いのですが、つい口に出てしまうことが多いので、よくこうなってしまいますね。
『ハイハイ二人共、そろそろ終わりにしてくださいね。ケンカする程仲が良いのは、もう分かっていますから』
『『誰が仲良しよ(だ)っ!』』
「ウェヌスの言う通りですよ。ウルスもシャルも、ここがどこかということぐらい分かっていますよね?」
『……城の目の前だな』
「先程、私達が倒したアンデッドがどんな者であったか、覚えていますよね?」
『……倒された時に、同胞に敵襲を告げると言われる、"アンデッドメッセンジャー"ね』
「城の奥の方から感じ取れるこの気配の正体はなんでしょうね?」
『『……アンデッドね(だな)』』
「では、やることは分かっている筈ですよ」
私は神剣を抜き、戦闘態勢を整えます。
『あぁ、倒してやろうぜ! 魔王って奴を』
『これで私達も、物語の仲間入りね』
『今までの非道、その身を持って償って貰いましょう』
ウルス達も武器を構え、向かって来るアンデッド達に備えます。本当に私のパーティーは、切り替えが早いですね……。
「……では、行きましょう!」
『『『オォー!』』』
――そして、アンデッド達を倒していった末に……冒頭に戻るのです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ウルスの剣も、シャルの魔法も、ウェヌスの浄化も……魔王が放つ闇の前には無に等しい物でした。唯一私の剣は魔王の闇に対抗しうる武器だったのですが、それに気付いた魔王が、アンデッドを私に集中させ壁を作り、仲間との連携を断ってきた為、私が仲間と合流した時には、みんなは既に地面に倒れていました。
私はそれを見た途端、意識がぷっつりと途切れてしまいます。気付いた時には全身が重く、傷だらけの状態で倒れていました。何が起こったかは分かりませんが、今はそんなことを考えている暇はありませんでした。
『……まぁ良い。魂魄もある程度ならば輝いておるし、天秤として使うのにちょうど良いかもな』
そう言って、魔王はウルスの体に触れ、魔力を籠めていきます。
「ま、待って、ください……ウルスに、何をする気ですか」
『ほう、やはりお前だけは豆粒程の輝きがあるな……だが惜しい』
「答えて、ください!」
『……お前達には吾の下僕として、強者達と戦って貰う。魂魄の輝きが強い者を見つけ出す為にな』
「下、僕……」
魔王は私にそう言いながらも、ウルスに魔力を籠めています。私には、魔王の言っている言葉の意味が分からなかったのですが、その答えを、直ぐに知ることになりました。
『うっ。うがっ! うがああぁぁAAAAaaA!』
「ウルスッ!!」
『これこそが、下僕になるということだ。吾が魔力を籠めた者は、永遠の命を手に入れ、忠誠を吾に誓うのだ。光栄だろう』
私はウルスの様子がおかしいと感じ、(鑑定)を発動させて視てみるのですが――
「どう……して、ウルス……が、アンデッドになっ……ているの、ですか」
『……やはり、豆粒ではそう長くは持たないか。もう分かっているのだろう? 吾が操るのはアンデッド……それをどうやって作っているのかも』
「…………」
分かっていました。魔王がアンデッド化させた者を操っているということは。ここに来るまでに何度も戦ったアンデッドの内、少なくともハイント王国の兵士達のアンデッドの装備は新しい物でした。恐らく、彼らは王が私達に討伐を命じられる前に向かったという兵士だったのでしょう。
ウルスの髪は黒ずんでいき、目に至っては真っ黒でした……それは、つい先程見た存在によく似た姿でした。
そして、それらの事から分かる答えは……一つ――
――魔王には、人為的なアンデッドを作るスキルが存在する。
今までアンデッドは、自然に発生した者を使役することでしか操る方法が無かったのですが――魔王はそれを自由に行える。それが私が辿り着いた見解でした。
『GAaAAAaaa!』
『……とりあえず、お前は入っておれ』
魔王がそう言うと、ウルスは一瞬でこの場から消え去ってしまいました。
「ウルス……は、戻れ……るのですか」
『……お前が知ることでは無い。お前は一番時間が掛かりそうだからな。ゆっくりと眠っておれ。……安心しろ。目が覚めることは無いだろうが、お前もまた、吾が有意義に使ってやろう』
魔王が私に闇を飛ばしてきます。私はそれに抗うこともできずに、意識を失いました。
TO BE CONTINUED
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