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偽善者と終焉の島 前篇 六月目

偽善者と迷彷猿

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彷徨の森林


 終焉の島の西に位置するフィールドに、現在俺は立っていた。


 浴室で色々あったわけだが、無事に生き別れた息子も俺の元に戻って来た……翌日顔を合わせた時、みんなにビクッとされたのには少々傷付いたりもしたけど――今は関係ないよね(グスッ)。


閑話休題みんなが頼んだのに


 西のフィールドは、元の場所の時も一回も行ったことが無い……なので、少し説明をしておこうか。


 西フィールドには深い霧が常に発生していて、入って来た侵入者を彷徨わせる為に機能し続ける。それは、ここのフィールドも"始まりの町"の西――迷いの森も同様である。
 違う点といえば、その迷いの力の強弱ぐらいであるし、その霧が発生しているのにも理由があるのだが……今は割愛だ。


《マスター、お客さんが来たみたいだよ》

「そうみたいだな」


 霧の影響からか探知系のスキルは使えないが、自分の体を使った索敵である知覚系のスキルは使えるらしく、魔物の反応が【七感知覚】で分かった。


「すまないなグー、他にも色々頼んでいるのにわざわざ来てもらって」

《元々迷いの霧には興味があったし……何よりマスターの頼み事だしね。僕で無くても断る眷属は一人もいないと思うよ》


 そう、俺は今グーと一緒に探索していた。
 そして彼女には霧の解析を頼んでいるのだが……えっと、その話については俺には良く分からないな問題があるな。


「そういうものなのか? アンにも、その辺のことを何度か言われたけど」

《彼女はマスターと繋がる機会が一番多いからね、何度も言えたんだね。
 だけど響いていないんでしょ? マスターの心には》


 ナニヲイッテイルンダロウカ。


「……どういうことだ?」

《アハハッ。マスター、別にボケなくて良いよ。別にそのことはマスターにも分かっているんでしょ》

「いや、そうなんだけどね」


 別に、俺の過去に重いことがあったわけでは無い。さっきのはただボケただけだ。


《彼女も本当は分かっているんだよ。だけどね、それでも彼女はマスターを信じているんだよ――マスターが、日常でも自分を頼ってくれることを》

「……う~ん。かなり頼っていると思うんだけどな~。グー、例えばどんな時に頼れば良いと思う?」

《難しい質問だね。僕の創造元の人ならマスターの考えを歪めて、自分の望む方へ誘導すると思うけど、マスターのイメージ不足なのか何かしらの制限なのか知らないけど、僕にはそういった考えが浮かばないからね。
 ……おっと、話が面倒臭いのは変わらないみたいだね。簡潔に言うなら、マスターは異世界物の主人公を目指してみれば良いと愚考するよ》

「それに対する意見を言う前に先に言っておくぞ。グーが愚かなら、世界の大半の奴は愚鈍になるからな」


 間違いなく、グーは眷属の中でも上位の知識を持っているだろう。そんなグーが考えることが愚かならば、それより下の者達は一体どの程度の思考のレベルなんだろうね。


「――っと、もうお客さんがかなり近いな。先におもてなしの準備をしとくべきだな……ドゥル、扇をくれ」

《仰せのままに、我が王。"五明扇"を転送します》


 ――すると俺の手元には、一つの扇が置かれていた。五明扇とは、かつての皇帝が作ったという扇の異称だ。俺はそれに別の意味を持つ五明――学問の分類法としての五明を取り入れることで強化しているぞ。


《マスター、視界に入るよ》

「了解っと」


 グーが予告した通り、霧の奥から何かが蠢いているのが確認できた。俺はその謎の存在に(鑑定眼)を発動させる……出たわ――


ブラヂアトゥモンキー Lv20
魔物 アクティブ
地上 格下


 こんな感じの魔物の群れだった(大体20匹ぐらいかな)。
 霧に隠れて俺を襲うつもりなのか、姿を完全に見せること無く俺の周りをグルグルと囲み始めた。……ま、扇を出した俺にそれは下策なんだけどな。


(――"芭蕉扇")


 "芭蕉扇"――幾つかの説話があるこの武技は、一度仰げば風を呼び、二度仰げば雲を呼ぶ。そして、三度仰げば雨が降るといわれる芭蕉の葉に似た扇を再現したものである。
 そんな武技を発動して、俺は"五明扇"を一度振るう――

 ビュオォォォォォォオオッ!!

 ――扇を振るったその結果は、想像以上のものであった。
 霧は一時的に俺の視界内から完全に消え去り、周りは風によって散らかった木々だけとなっていた。……いや、少し違ったな。よく周りを見渡すと、所々に襲って来る筈の魔物がゴミのような感じで落ちている。


《マスター、それはやり過ぎだったと考えるよ。元々"芭蕉扇"は、固有スキルの武技だったんだよ。前回"聖剣空斬撃"を使ったみたいだけど、あれは劣化していたからあの程度で済んでいたんだ。マスターがギーの力を借りてあれを通常の威力で放っていたら、精神世界がどうなってたか分からかったと思うよ。
 ……それで、そんな威力を持つ武技を今マスターは放ったけど……どれくらいの強さか理解したね?》

「……あぁ、あんまり使わない方が良さそうだな。今度からは、"バショー扇"で制御してからの方が良さそうだな」

《……前に作っていた、あの道具かい? 確かにアレなら調整もできると思うけど……》


 それから俺は、散らばった魔物の解体や倒れた木々の回収を行いながらグーと武技についての話をした。


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