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偽善者と終焉の島 前篇 六月目

偽善者と『魔獣之王』 その09

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『……(ズズッ)』


 クエラムはティルの話を聞いて、静かに泣いていた……ま、気付かれたけどな。
 クエラムの心の中に残っていた蟠りが、彼女の話によって解消されたんだ。泣いたって仕方が無いよな。


「クエラムがそっちにとって悪になっていないのは分かったが……気になることがあるんだよな」

『……答えられるなら答えるわ』


 ……ずっと気になってたんだ。訊かずにはいられないような、そんなことが。

 ピョコンッ

「――お願い、その耳モフらせて!」

『……へ?』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『なら、私と剣で一勝負してくれない? もし勝ったら触らせてあげるわ』

 ガキィィン!

 ――とのことなので、現在俺はティルと模擬戦中だ。
 クエラムは交渉の末、眷属になる事を許諾してくれたので、"眷属化"を受けて気絶している真っ最中だ。
 二つの剣がぶつかり合い、金属音が周りに響いていく。


『メルスは誰かに剣を教わったの?』

「いい、や! 我流だ……なっ!」

『やっぱりね、貴方の剣にはこれといった型が無いのよ。魔物相手なら、それでも良かったと思うけど――対人戦でそれだと、いずれ限界が見えるわ』

「俺の、剣術は、あくまでスキルを、スキル無しで、使う為に、創った物だからな!」


 何処かで見たような展開――スキルが封じられた時に備えるというオタク的な思考がそれを実行させたのだが、やっぱり駄目かな。
 スキルをなぞるように剣を振るう為、ある程度予測が付いてしまう。まぁ、それの対応策もあるが、その方法は闘い・・には向いていないから使っていない。これは俺だけの力でやりたいことだからな。……というか、それを使ったら、モフモフの為に戦闘をしているのがバレてしまう。


『相手に集中するっ!!』

「ウォッと」

 ブオンッ

 余計なことに気を取られていると、ティルの剣が目前まで迫っていた。
 慌てて避けて距離を取ったのだが、それでも油断できないな……あ、さっきしてたわ。


『……冗談を考えられるぐらいには、余裕そうね。もう少し本気でいこうかしら』

「本当に分かるんだな、俺の考え。なら、今俺の考えていることも分かるのか?」

『えぇ、勿論……って、これ何? 魔物が沢山脳裏に浮かぶのだけれど』

「何って……俺の故郷にあった、猫カフェっていうヤツだな。行ったことは無いが映像で見たことがあったから、思い出してるんだ。……どうだ、モフらせたくなっただろう?」

『……か、可愛い(ボソッ)』

「ん? 今何か言ったか?」

『んな! ……何でも無いわ。それより、今は続きをしましょう』


 距離を取った為顔を確認できなかったが、少し声が上擦っているな……何でだ?
 そんな彼女が俺に向けて剣を構えると、周りの空気が下がったと感じられるくらい、緊張感が漂い始めた。


「そうだな、もう少し頑張ってみるか」


 俺もまた剣を構え、彼女に向ける。
 ……そして、緊張感がギリギリまで高まった瞬間――


『――シッ』「――フッ」


 同時に、相手の方へ駆ける――


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「……クソッ、俺に力さえあれば!」

『良いじゃない、またやれば』

「やってくれるのか? モフモフを掛けるなんて、そんなこっちにしか得の無いような勝負をさ」

『まぁね、クエラムを封印する為に人生を終ようとした私に、もう一度生きる機会を与えてくれた。それだけでも感謝してもし切れない位の恩があるのよ。
 ……それに、私も一応貴方の眷属になったのだし、貴方を強くする為、協力するのは問題あるかしら?』


 そう、あれからカクカクしてシカジカした後、ティルは俺の眷属になった。


『それに……私もモフモフしたいしね』


 ……具体的には、モフモフを創り出して触らせたってだけだ。思いの外ティルが嵌っていたのでビックリだった。
 そりゃあもう、顔を崩してモフってたんだかr……(ブオンッ)


「うわっ! ……いきなり何すんだよ」

『貴方が変なこと考えるからでしょっ!』

「別に変じゃ無かっただろう。むしろ、可愛い娘が可愛らしい顔をしていて、良かったと思うぞ」

『……本気でそう思っているわ。むしろ、言葉にできない思いまで感じ取れちゃうから、厄介ね』

「どうせ読まれるんなら、有意義に使わないとね。でも、お蔭で俺がティルをどう思っているかは分かるだろう?」

『そ、それは、まぁ、分かるけど……』


 人の語彙力には限界がある……かく言う俺もそうだしな。そんな俺が女性に何か言ったとしても、思いの一割も伝わらないんじゃないかな? (スキルに【拈華微笑】もあるが、複雑な感情は伝え辛いと書いてあった。人の感情という物は単純な物ではないし、伝えるのはほぼ不可能だろう。できたとしてもそれは、欲関係の物だろうな)
 だが、ティルは己の種族スキルによって相手の思考を読み取れる。つまり、伝えたいことが百%分かって貰えるのだ。
 普通の人は心を読まれたら気持ち悪いだの怖いだの言いそうだが、俺の頭は単純だからな。読まれても困ることは無いし、メリットばっかりだな。


『……本当に、そう思ってくれるの?』

「え、何が?」

『私はこの能力の所為で、親しく話せたのは家族や一部の者だけだった。上辺では耳の良い言葉を綴っているけど、心の中では私に嫌悪を覚えている人もいたわ』

「……」

『それなのに貴方は、何で私の能力を知ったのに、そんな私にも思いを伝えてくるの?』


 う~ん、口下手だから表現し辛いけど……簡単に言うと、守りたいから?
 ティルがそんな悪意に心をすり減らすなんて、間違ってると俺は考えているわけ。だってティルは何も悪いことをしてないじゃん。
 悪意がティルを傷付けようとしているならさ、俺が代わりに傷付いてあげたいのかな?
 可愛い娘が傷付くよりは、どこにでもいるモブが傷ついた方が問題が起こり辛いだろ。
 ……あれだな、そいつらがお前を否定するなら、俺はお前をそれを超えるくらい肯定するってヤツかな? ……まぁ、パクリだが。
 あ、それにほら、俺、偽善者だし。困っている人がいたら助けないとね。


『……そんな取って付けたような後付けを、私が信じると思うの?』


 ……駄目、か?


『とりあえずは、そう言うことにしといてあげるわ。私のこと、守ってみなさいよ』

「そうか、それは何よりだ。


 ……じゃあクエラム、一緒にティルを守るとするか」

『……え?』

『そうだな、己もティエルやメルス、メルスの眷属を守ると約束しよう』

「お、気が利くな……でも、俺の眷属は俺以上に強い奴がわんさかいるから大丈夫だと思うぞ。一応俺も頑張っているけど、結局頼ることが多くてさ」

『え? ……えぇ?!』

『ククク、それは先程は厄介だな。メルス以上の強さか……ぜひ闘ってみたいな』


 クエラムに先程までの会話(はたから見たらティルの独り言)を聞かれていた恥ずかしさからか、フリーズ状態に入ったティルが、再び剣を抜いて俺に襲い掛かって来るまで、俺は眷属達の話をクエラムとしていた。


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