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偽善者と終焉の島 前篇 六月目
偽善者と『魔獣之王』 その08
しおりを挟む『……なるほどね、そっちにもそんな理由があったわけ……ヴェルムの奴ら』
全てを説明し終えた後、テイルは何かに納得するようにそう言った。最後ら辺は呟くように言っていたが、微かに聞き取れた……どこにあるのだろうか、その国は。
「『そっちにも』ってことは、何かあったのか? 俺はそれを聞く為にティルをこの状態にしたんだが」
『えぇ、少し長くなるけど……良い?』
俺とクエラムは一度顔を合わせてから、同時にコクンと頷き、再びティルの方を向く。
『……そう、なら話すとするわ。
私がどうして鎖になったかを……』
SIDE ティル
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『とりあえず、私の国――リュキアの説明から聞いて貰える?』
『リュキアは大陸の西側にあった都市国家群の総称よ。南東から北西に掛けて深い森林や山が、南西には海が広がるそれは良い国だったわ。今はどうなってるか分からないけど』
『国民は私と同じ獣人が主だった。都市国家群だけあって、色々な種族の獣人達が暮らしていたわ』
『……そう、私はその国の姫を一応やらせて貰っていたわ……と言っても、私の持ってた王位継承権はかなり低い物だったけどね……私のことは今は置いておきましょう』
『そんな平和な日常を過ごしていたある時、隣国から一通の手紙が来たの……領土を寄越せって暗に告げているような手紙がね』
『送って来た国はヴェルム帝国。リュキアの東に位置する、武によって領土を広げてきた君主制国家よ』
『そんな風に領土を広げてきたから、強さが全ての国家だったわ。強ければ全てが許されていた、地位を高めるのも欲を満たすのも』
『……話が逸れたわね。リュキアはこの手紙に勿論反論したわ。だってそうじゃない? いきなり場所を明け渡せと言われて、はいそうですかと答えられる? 少なくとも、私達には無理だったわ』
『だけど、これが始まりだったのね。今考えてみると』
『まず、反論を認めた手紙を持たせた使いの者が帝国から戻ってこなかったわ。使いに出したのはリュキアの中でも腕の立つ者だったのだけどね』
『次に特別演習とか言って、リュキアの国境線に軍団を配置してきたわ。お蔭様でリュキアは船を使わなければ国から出ることができないような状態になった……勿論帝国がそんな手段を許してくれる筈、無かったのだけれどね』
『帝国が国の周囲を囲ってから、数日が過ぎたある夜、国中に聞こえるような咆哮が聞こえてきたわ』
『月の光に照らされて見えたその影は、正しく異形と呼べる物だったわ。
獅子の鬣に山羊の角、悪魔の翼に竜の尾。そして何より、聖獣様の白い毛並みを持った魔獣なんて、今まで見たこと無かったもの』
『……え? なんで聖獣様って呼ぶかって?
あ、言って無かったわね。リュキアでは月と鎖の神であるミシャット様と、国の護り神である聖獣様が信仰されていたわ。
ミシャット様が信仰されていたのは、一部の獣人族は月の満ち欠けによって体調が変わる能力を有していたから。聖獣様は、今まで国を護って来てくれたからね。
聖獣様は複数存在していて、国境内に不法に侵入して来た者を排除してくれたわ。帝国の人達が周囲を囲っていただけだったのは、聖獣様を恐れていたからだとあの時はまだ考えていたわ……ごめんなさい、クエラム。あの時の私達には、貴方が聖獣様だとすぐに気付く方法が無かったのよ』
『……話を戻すわね。
その時のクエラム――貴方はゆっくり地面に降りると、そのまま船がある都市を目指して通る道を破壊しながら通過して行ったわ。
兵士達は貴方を止めようと必死に抵抗したのだけれど、貴方の強さの前に止められる者は一人もいなかったわ。それでも兵士達が必死に頑張ってくれたから、都市までにある民家の住民達を避難させる時間を稼げて、貴方の移動によって死者が出るという事態は防げたの……って、どうしたのよ? 突然泣き出して』
『……確かに、それはそうね。安心して、私達は貴方を恨んだりしないわ。悪いのは帝国であって、貴方では無いんだから』
『避難が完了した後、リュキアは最大戦力をぶつけて貴方をどうにかしようとしたわ』
『それが獣聖剣に選ばれた【獣剣聖姫】である私の役目だったわ』
『【獣剣聖姫】は聖剣を装備している時、ステータスに大幅な補正が入る特殊な職業で、獣聖剣に選ばれた者しか就けなかったわ。
王家の中で最も剣の才がある者が選ばれるらしいけど……剣なんて、儀式で獣聖剣に触れるまで一回も無かったのに、選ばれたわ』
『……とにかく、私は獣聖剣を抜いて貴方と戦っていたのだけれど、少し違和感を感じたのよ。
貴方の行動が反射で動いてるだけで戦略を全く使わない所だったり、こちらに殺気が無かったりとかね』
『だから私は調べたのよ、自分の種族スキルで貴方の心理状態を』
『私は大山猫の獣人、だから視ることが得意なのよ。中でも私は視る力が強いらしくて、魔力や生命力、相手の考えや感情なんかも視れるわ……あ、透視もできたわね』
『それで貴方を視たらビックリ。貴方自身の心とは別に、悪意や憎悪といった負の感情を混ぜてできたような靄が、貴方の体を支配していたんだから。しかも、聖獣様の体を器として、後天的に魔物の力を加えられた生物兵器とでも言えるような存在』
『私はそれを知って国民に確認したわ。この国を襲わされている聖獣様をどうするかを私の推測と一緒に、兵士に伝えさせて』
『……みんながこう言っていたと戻って来た兵士は教えてくれたわ。『聖獣様を救って差し上げてください。できなくても、帝国の手から解放してあげてください』って言っていたってね』
『だから私は王家に伝わる魔法――"人体武具化"を使って、貴方を封じたわ。獣聖剣の力を借りて貴方を弱らせてから、発動させてやっとね。国民達が貴方を助けようと祈ってくれたお蔭でもあるわ。きっとそれが無ければ、発動しても直ぐに逃げられてたの。
それから先の記憶は無いから、どうなったか私は分からないけど、メルスの言う通りなら、ミシャット様がどうにかしてくれたみたいね』
『これで、私が知っていることは全部よ。満足頂けたかしら?』
SIDE OUT
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