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偽善者と終焉の島 前篇 六月目

偽善者と『魔獣之王』 その02

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結界内


 とりあえず鑑定を行うか……いや、先に防御や回避系の準備が先の方が良いかな?
 (氣魔自在)を発動させながらスキルを使うことで、相手に悟られること無くスキルを使用するのは可能だからな。
 俺は突然の戦闘の為に、幾つかのスキルを発動させていった。



 ……良し、準備万端だ!
 結構な量のスキルを発動させながら、(鑑定眼)を使って魔獣さんを視る……が――


『ッ! 誰だ、己の安寧を邪魔するのは!!』


 ――当然魔獣さんはそれに気付き、とんでもない強さの覇気を辺りに放った。


『……気配は見つからないが、周りにいるのだろう。己の覇気に間違い無く反応していた筈だからな。さっさと出て来い、来なければ交渉をする余地も無いと思え』


 交渉する余地あったんだね。そんなことを思いながら隠蔽系のスキルのみを解除して、魔獣さんに発言する。


「私はメルス、この島に神の嫌がらせで送り込まれた新参者です。島のあちこちを巡っている内に、ここに迷い込みました」

『島? ……そういえば、ここは何処だ。カイメラでは無いのか?』

「……カイメラという所が何処にあるかは分かりませんが、ここは終焉の島。神が制御を諦めた猛者達が封印される地です」

『それで己に、こんな物が絡みついていたのか。全く分からなかった』


 あれ? 何故自分に鎖が付いているかを知らなかったのか?


「貴方に付いているその鎖は、とある国の誰かが自身を元に創り上げた代物です。それで貴方が封印された後、神によって貴方の力を吸い取って結界にする能力が付与されたそうですよ」

『……あぁ、それでいつも楽に眠れた訳だ。
 しかし、どうして己はこれによって縛られているのだ? さっぱり分からん』

「恐らくですが、貴方が国を滅ぼそうとしたからだと思われます。貴方に絡みついているその鎖には、リュキアという国名が載っていました。その国名に心当たりは?」

『無いな。付け加えて言うのなら、己に国を滅ぼそうとした記憶は無い』


 うわー、即答だよ。
 ……それじゃあ一体、どうして魔獣さんは鎖で縛られているのだろうか。何もしていないのなら、こんな状態になっている訳も無いだろうし。


「では、この空間に来る前で何か覚えていることはありますか? もしかしたら、そこに何かヒントがあるかもしれませんし」

『……………………』


 魔獣さんはそれを聞くと、唸ったり、首を動かしたりしながら考えてくれた。……良い魔獣さんだな。


 暫くすると、魔獣さんの目が一瞬パッチリと開いた。そして目を伏せてから、魔獣さんは俺に何があったかを教えてくれた――


『……思い、出した。己は、沢山の人共に捕まえられて、色々なことをさせられてきた』

「…………」

『体を切られ、爪を剥され、牙を抜かれ。終いには、体に様々な物を埋め込んでいった。 己が弱っていく様子を、あ奴らは笑いながら眺めていた。そして、心がすり減って精神的に弱った隙を見計らい、己に何かをした。
 ……それからの記憶を己は持っていない』


 魔獣さんは被害者で、マットなサイエンスの実験体として捕まったのだろう。素材として、素体として。そして、弱っている内に洗脳でもして、自国に敵対している国を滅ぼした……ってところか。
 偽善者としては許せない話だな。これ、完璧にOUTな内容だったよ。捕まえられて、兵器運用されるって内容だったし。


「つまり貴方自身は、何らかの意思を持ってこの状態に陥るようなことはしていない。ということで良いですね」

『……あぁ、何もできなかったんだ。己が強い意志さえ持ち続けていれば、お前の言うような、誰かが犠牲になるような事態は免れられたのかも知れないのに……』

「恐らく、意志は関係無かったでしょう」

『何?』


 ここからが、偽善者のお仕事タイムだ。


「例え貴方がどれだけ意志だけで、耐え続けていたとしても、その人々は貴方を弱らせる為に、それまで以上に酷い事を強いていったことでしょう。それでは貴方が傷付き、苦しむ時間が増えるだけです」

『なら、どうすれば良かったと言うのだ! 己の所為で、誰かが……』

「多分、大丈夫だと思いますがね」

『何だと! 何が分かると言うのだ、その場にいなかったお前に!』

「鎖にはこう書かれています。"民の願いとある者の存在を変換し、創り上げられた鎖"と。
 つまり、民が願っただけで、鎖になった何者かも、人に存在を戻してあげれば貴方は何もしなかったことになります。……まぁ、あくまで仮定の話ですけどね」

『……もしそれが本当なら、己は、誰も罪の無い者を傷付けてはいないのだな?』

「えぇ、恐らくですが」


 鎖の説明文には、一言も死に関する単語が載っていなかった。唯一近い"賭して"にしても、命を捧げるという意気込みを表す言葉であって、本当に命を捧げるという意味では無い。それらのことも相まって、俺は魔獣さんにそう伝えたのだ。 
 説明文に関することを説明すると、今度は魔獣さんがこう言ってきた。


『――しかし、それには根拠が無い』

「はい。ですので今から、根拠に事実を聞いてみようと思います」

『……どういうことだ?』


 魔獣さんが首を傾げて聞いてそれを訊く。
 なので、俺は魔獣さんの質問に答えた。


「――貴方に付いている鎖。その中にいるであろう人に訊いてみます」


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