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偽善者と終焉の島 前篇 六月目

偽善者と模擬戦 前篇

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修練場


 百聞は一見にしかず、こんな言葉がある。
 何度くり返し聞いても、一度でも実際に見ることには及ばない。何事も自分の目で確かめてみるべきだという教えであるらしいが、記憶を見ることができる彼女達に、そんな言葉が通用するだろうか。
 だから、俺は新しい言葉を考えた――


「――そう、百見は一戦にしかずとな!」


 ここに来たのは、フェニ達の成長を調べると共に、さっきまでの気分をリフレッシュする為でもある。
 ……クソ女神めっ! 本とやらを生み出すのに、一体どれだけの者の運命を捻じ曲げているんだ。
 現実のモブにだって、一人一人に個別の運命が存在している。
 だが、一人の強者の運命を書き換える為には、そんなモブ達の運命も変わらなければならない……当然だろう、その者に関わる運命はそいつの物だけじゃないんだ。
 それが良い結果に変わる場合もあるが……そんなのは物語の中の話だけだ。
 現実はいつも理不尽だ。日々の努力を重ねてきた者よりも、何もせずに生きていた者の方が優れていたり、正当性のある行動を取った者が、そうでない者によって裁かれる。
 そして、本当の優しさを持つ者の行動が、偽りの善意を持つ者によって狂わされる……最後のは関係ないかな?


 とにかく、みんながどれくらい強くなったかを視る為にも、一度戦ってみようと思ったのだ。


「――と、言う訳で最初は誰がやるんだ?」


 俺は右手に試作型聖魔剣、左手に試作型神剣を持ちながら伝える。
 ……相手は皆、[君軍強化]でステータスがとんでもなくなっている。その内みんな俺以上に強くなるのだが、今はまだ勝ちたいからな。装備も本気で揃えてある。
 こっそり創ったパクリ装備を開放だ!


『……では、我から行かせて貰おう』


 フェニがそう言って俺の前に出てくる。
 やはり、何度でも使える神風アタックの使い手でもあるフェニからだよな~。自爆系のスキル、どうやって覚えたんだろう。


「そうか、フェニからか。……言っておくけど、今の俺だと殺し尽くすのは難しいと思うからな」

『そんなことを言って……ご主人ならできると信じているぞ』

「……いや、そんな信じてるぞって目で見られても難しいぞ。……一応頑張ってみるが」

(――"異端種化・フェニックス3:幻魔1")


 (異端種化)を発動させると、前回同様体に変化が起こる。
 炎のような靄が体中から発生し、炎の翼が背中から生えてくる。俺が気付けたのはこれだけだが、他にもどこかが変わっているのだろうか。


「フェニ、見た感じ靄と翼以外に変化は在るか? 俺からじゃ良く分からないんだ」

『…………』


 フェニからの返事は来なかった。
 どうやら何かを考えているような顔なのだが、何か問題でもあったのだろうか。


「……フェニさんフェニさん、何か問題でもありましたか?」

『……む? あ、あぁ、いいや、問題は無いと思うぞ。そそ、それより、変わった所だったな。うむ、髪の色が我と同じ色に、眼の色がリッカと同じ色になっているぞ』


 フェニがそう教えてくれる。因子の割合によって変化するのかな? ……まぁ、(変身魔法)で自在に変えられるから、SAN値をチェックするような状態になっても問題無いか。


「そうか、ありがとう。自分じゃ気付かないことってあるものだな」

『そ、そうだぞ。だが、気付かない方が良い事もあるのではないか?』

「気付かない方が良い事……? 俺の不細工な面とかか? いや、でもそれなら気付いてるし……」

『ま、まぁとにかく。ご主人はあんまり人前でそのスキルを使わない方が良さそうだな。
 プレイヤーはがご主人のそのスキルをみたら、色々と言ってくるかもしれないからな』


 ふむふむ、プレイヤーが最初にキャラメイクをする時、フェニのような綺麗な赤を選択することはできない。
 つまり、その色をどうやって入手したか、そんな質問に悩まされないようにと言っているのかな?


「なら、フェニ達の前でしか使わないことにするよ。さすがにフェニ達が相手だと、使わないと勝てないからな」

『……(ホッ)。そうか、これで安心だ』


 ……何が安心なんでしょうか。もしかしてアレですか? <畏怖嫌厭>が発動しちゃうということなのか。
 そうなると、さっきフェニが何かを考えていたのも、俺に対する好感度が下がりやすくなった弊g…………。



 メルスがそんなことを考えている時、眷属達は、念話を使ってメルスに内緒で会話をしていた。


フェニ
《まさか、<畏怖嫌厭>の効果が因子を使って無い時にしか発動しないとはな》

リョク
《久しぶりに主の素顔を拝むことが出来た。……うむ、やはりカッコ良いな》

フーラ
《でも、どうして<畏怖嫌厭>は因子を使っている時だけ発動しないんですか?》

フーリ
《……因子にそういう効果がある?》

グー
《残念、ちょっと違うよ》

リッカ
《因子が他人の物だからじゃない?》

アン
《その通りです。現在[不明]で扱えている因子は、メルス様自身が経験をしたもの――天使・天魔因子以外は、一部を除いて他のものから解析をして入手した物です》

レン
《(因子注入)(異端種化)は、そんな主様とは別のものの情報を組み込んで、主様を強化するスキルですから……》

リア
《……つまり、<畏怖嫌厭>はメルス以外の情報が組み込まれている現在のメルスを、<畏怖嫌厭>の発動対象として認識できないということかい?
 ……道理であの時のメルスは、その前以上にカッコ良く見えた訳だ》

ギー
《うん、あの時のメルスはカッコ良かった》






 このメルスには分からない会話は、とりあえず意識を切り替えたメルスが、フェニとの模擬戦を始めるまで続いた。



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