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偽善者と終焉の島 前篇 六月目

偽善者と『永劫の眠り姫』 その07

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 とりあえず、いつも通り鑑定を――


魔龍マレフィセント ???
??? ???
??? ???


 ――(神眼)を使っても、目の前の龍の鑑定は成功しなかった(この龍、黒い鱗に二本の角と黄緑色の翼に長い尻尾を持っているぞ。完全に鼠さん所の魔女ですよ)。
 恐らく、俺よりも神格が上であると思われる運命神とやらが何かをやったのだろう。その影響で、神格が低い俺の権能スキルは失敗したと考えるのが一番妥当な考えであろう。
 ……凄く戦う気が失せているのだが、不敵な笑み(w)を決めて「――下がっていてくれ」なんて言った分の責任は取らなくてはいけないんだよな。


『どうしたんだい、王子様? そっちから来ないなら、わたしからやらせて貰うよ!』


 色々と考えている間に、魔女の寛大な心による待ち時間が終わったらしい。魔女(以降は龍に変えよう)は大きく息を吸い込み、その溜めた空気を魔力と共に解き放った。
 黄緑色の魔力は俺と、後ろに下がったリアへ包み込むように拡散していく。
 ……だけど、そんな簡単に行かせる訳にはいかないんだよな~。


(――"多重魔法障壁・改")


 一人でも使えるように改良したファ○ンクス擬きを発動させて、吐き出された龍の息吹に対しても余裕を保ちながら防ぎきる……魔力効率と共に、防御力も上げた甲斐があったのか、自作ポーション1本分の発動で防ぎきれた(1本でMP約500回復の代物だ)。
 とりあえず"掛けるポーション"を【怠惰】の手を使って摂取しながら、龍との会話を試みる。


「なぁ魔女さん、お前さんが死んだらリアの呪いはどうなるんだ?」

『もちろん消えるさ……私の掛けた分はね』

「……ハァ。つまり運命神様が掛けた呪縛はそのまま残るってことか。面倒だな」

『あぁ、その通りだよ。私を倒せたら、針の呪いは解けるんだ。それだけでもありがたいと思いな』


 全くもってその通りである。だが、結局の所全部運命神が悪いという結論に至っている俺にとっては、ありがたくもなんともない話である。……というかここに来た時、運命神から聞いたと言っていたお前を逃す訳が無いだろう!


(――"異端種化・天魔2:1:1")


 そう体に指令を出すと、体のあちこちに変化が起こり出した。額や口内、背中、腰のあたりから違和感を感じ、注入した因子の特徴が出現する。
 ――"異端種化"、それは一種の合成獣(キメラ)の誕生法である。


『王子様……とは、もう言えないような姿になったね。何なんだい? その能力は』

「元々王子を名乗った気も無いし、これの秘密を話す気は無い。俺はただ、お前を倒す為に少し本気を出しただけだ」

『ヒッヒッヒ、そりゃあ楽しみだねぇ。なら見せて貰うよ、あんたがどこまで踊ってくれるかを……って、何だいその武器は?』

「ただの水晶だよ、とびっきりタネや仕掛けがあるだけのな」

《メルス、その言い方は酷い》

「(ごめんごめん、今はとりあえず双剣になってくれ)」

《むぅ……分かった》


 俺は水晶形態のギーを呼び出して、一対の剣に姿を変えて貰う(ギーは"翼"の持つ固有武技――"強制召喚"で来てくれたのだが……"眷属召喚"が使えないのにそれなら使えちゃうって、どういうことなんだろうか)。
 それを見た龍は、ギョッと驚いたような目でこちらを見てきた。うん、爬虫類のような目だな。


『あんた……それ、神器じゃないかい!?』

「え? あぁ、そうだが。何か?」

『……気が変わった。本当だったら、あんたが苦しむ姿を王女に見せてやろうと思っていたけど、さっさと倒してその神器を戴くとするかね』

「(……ハハハ。ギー、あの魔女が何を言っているのか、俺には良く分からないんだが……ギーを、どうするって、言ってたんだ?)」

《――戴くだって》

 …………(思考加速中)……プチッ

「……ふ、ふ、ふざけんじゃねぇぇぇ!!」


 うちの娘ギーを戴くだって? 何を言ってるんだあのクソ婆はぁ!!
 そんな運命神の手下ポジションについてるような雑魚い輩に、ギーを渡す訳無いだろうが! ギーは……ギーはうちの家族じゃい!!

《メルス……照れちゃう》


「さっさと蹴りをつけたるわー!!」

『それはこっちのセリフだよ!』


 かくして俺と龍による、ギーを賭けた熱き戦いは始まるのであった。


《初めて言えるこのセリフ――止めて、私の為に争わないで!!》


 ギーがそんなことを言っていたかもしれないが、【憤怒】に燃える俺に知る術が無い。


SIDE リア
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 何故だろうか。ぼくが忘れられているような気がするのは……。気の所為……だよね?
 彼はぼくに約束してくれた、希望になってくれると。
 実際今も、彼はその姿を歪な者へと変えてまで、あの魔女と闘っているs……


『うちの娘は渡さねぇ!』

『さっさと寄越しなっ!』


 メルス、君は一体何の為に戦っているんだい? 娘って、絶対ぼく関係無いよね?!


 そんなぼくが話の中から外されている闘いは、だんだんと激しい物へと変わっていく。
 彼は魔女が息吹を吐くと剣を扇へと変え、強烈な風を起こして吹き飛ばす。
 扇を弓に変えて眼球を射抜こうとすると、鷹や蝙蝠が魔女の周りに黒い靄を形成するように現れて、それを防いでいく。
 そんな相手の技を読み合って潰していくという繰り返しを何度も何度も行っていた。

 だけど、メルスは本当に何者なんだろうか?
 突然ぼくの世界に侵入して来たと思うと、ぼくに自分の故郷を見せてくれた。
 彼がにほんと言っていた国は、魔力を使わないのに動く魔道具がいっぱいだった。おまけに、あの国の住民は魔力を日常的に使えないらしい。魔素が極端に薄い環境だから、そういった魔道具――機械ができたと言っていた。
 ……だけど本当に悔しかったな、あのぞんびげーむ。ぼくのスキルを使えば単独クリアだって出来たのに……まぁ、お蔭で彼との協力プレイもできたんだけどね。

 ドシンッ

 おっと、機械の話はここまでにして、今は戦いに集中しないと。いつの間にか彼は、魔女の角の片方を切る事に成功していたみたいで、さっきの音はその角が落ちた音だったみたいだ。


 両者の魔力がグングンと上昇している……どうやら次で決着をつけるみたい。彼はデカい大剣、魔女を腹。そこに魔力を練り込んで攻撃をすると考えられる(魔力以外の物も練り込まれている気がするけど、ぼくには分からない。後で彼に聞いてみよう)。


 頑張ってね、メルス。君はぼくの……希望なんだから……って君、少しカッコ良くなってないかい?


SIDE OUT


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