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偽善者と終焉の島 前篇 六月目

偽善者と『永劫の眠り姫』 その01

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「……よし、挑むとするか」


 俺はそう言って"最果ての草原"の奥地にある、結界の中へと進んで行った。
 何故そうなったかを知る為、時間を遡って見てみよう。


少し前
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


夢現空間


 俺はグーの部屋を訪れていた。
 ……完全に、魔女がお茶会をしているような場所じゃないか。草原にポツンと置かれた扉からその景色を見た俺が、その光景に軽くツッコミを入れたのは言うまでも無い。
 ここに来たのは、グーが前に言っていた強い気配のことを聞く為であった。ユラルにそのことを聞いてみたのだが、彼女は強い気配がするということしか知らなかったので、今度はグーの所に来たと言う訳だ。
 

『――この島には本物の強者が何人もいる。
 眷属になったユラルもそうだけど、単独ならマスターが挑んでもすぐに負けてしまう相手ばかりだよ。
 そんな強者達は東西南北のフィールドの奥地に1人ずつ、それは間違いないね。他の強者に関する情報は色々と複雑に絡まっているから……今はさっき言った強者と、そこの場所の間にあるフィールドにもう1人ずついるとだけ思っていてくれよ。
 ……あ、マスターはその石に全然興味が無さそうだったけど、あれは死に戻り先を変更する機能もあったらしいね。今となってはマスターが使えるかどうか分からないけど、それを解析するのもとても興味深いね。本当なら知っていても良いんだけど、マスターって説明書を見ない人だからね』

「……俺一人だとすぐ負けるってことなら、グー達がいれば勝てるってことか?」

『本当ならすぐに肯定をしたいところなんだけど……残念、飽くまでこれは相手の戦闘力だけを見て言っていることだからね。
 ユラルのようにマスターに無条件で力を貸してくれる人もいるかも知れないし、逆の場合もある。それだけだったら良いんだけど、マスターは凶運だからね……どうなるか分からないんだよ』


 そう言ってからグーは、ティーカップに注いであった飲み物を飲む……グーの体液とかじゃ無ければ良いのだが。ま、自分の分は自分で用意してあるので、気にする必要は全く無いのだがな。
 俺はキャップを捻って、自ら用意した飲み物を口にする。……うん。この喉越し、炭酸飲料は美味いな。


『マスター、普通は(具現魔法)でもコーラを再現するのは無理だと思うのだけれど』

「ん? 【科学魔法】と錬金術と料理を同時にやったらできたぞ。再現するのにだいぶ時間は掛かったけどな」


 お蔭で色々な物を作れるようになった。魔法使いのような名前の会社のお菓子や、コカの葉とコーラの実が名前の由来である会社の炭酸飲料など、地球産の物の再現にも成功している。


『マスターが創っているあの魔力でできた食べ物。空腹は満たせるし、魔力は回復できるし……美味しい。良いこと尽くめなのは分かるのだけれど、商品をパクるのは少し……』

「食べないのか?」

『……いや、食べるけれども』


 グーが出してくれていたテーブルの上に、焼き菓子をこれでもかというぐらいに並べて食べることにした。全ては(生産神)様のお蔭ですよ。作りたいと思えば、だいたいの作り方が分かるようになったんだから。お蔭で調理系の成績が無に等しかった俺でも、こうしておいしいお菓子を作ることができるしな。


『そういえば、新しいスキルはどうだったんだい? 皆で色々と創ってみたけど』

「あぁ、だいぶ使い勝手が良いスキルばっかりだったぞ」


 そう言って、自分の指先から十色の玉を生成して見せる。そして、その玉を上空に浮かべたまま会話を続ける。


「<多重魔法>のお蔭で、今まで以上に魔法を展開できるようになったし、<常駐魔法>のお蔭でそれを維持するのに疲れないようになった。これらがあれば、リーンとかに創って置いた太陽も、一々創り変える必要が無くなるかもな」

『そうだね、帰ったらそうするとしよう』


 そう、前に一回ユウが使っていたあの魔法こそが俺の世界にある太陽の元である。一応ユウには、その太陽と魔力的に繋がる指輪を渡しておいて、定期的に【極光魔法】を流して貰うように頼んでおいたがな(それを見ていたアルカに色々と言われたので、アルカにも太陽の制御を司れる指輪を渡しておいた)。


「さて、じゃあそろそろ行くわ」

『うん、僕はここでもう少し休んでいるよ。何せ、僕の城だからね』

「……だから、そう言うのはせめて城を建ててから言ってくれ。完全にアウトだから」


 そんなメタ発言をするグーにそっと炭酸飲料とお菓子をプレゼントしてから、俺は扉から出て行った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 という訳で、俺は強者に挑みに来たのだ。
 ……え? 無理はしない? いやいや、だって試してみたかったんだもん、どこまで独りでいけるのかを。
 まだまだ強い相手がいっぱいいるっていうのに、最初で立ち止まってたら――いつまで経っても前に進めないからな。


 そんな訳で色々と準備を整えてから俺は結界の中に進んで行ったのだが、目の前の景色はグーの部屋とは別の意味で驚かされた。
 俺の視線の先には、西洋の城が聳えてっていた。だが驚いたのは、その城に大量の茨が絡みついていることであった。城いっぱいの茨が何を意味しているのか、さすがに俺でも分かることである。
 地球において、そんな状況が存在していた童話はただ1つ――


「――最初の相手は眠り姫か」


 これで違ってたら笑えるな。


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