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偽善者と荒れ狂う喜劇 四月目

04-53 撲滅イベント その31

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「固有スキルをそんなに……異常ね、本当」

 嘘を吐いていない、自身の呪いを過信している竜人の祈念者イアにステータスを伝えた。
 固有スキルの中でも、バレても困らないもの──【武芸百般】や【元素魔法】などだ。

 若干古い情報ではあるが、ある意味持っていたのだからここは嘘じゃないな。
 他の固有スキルも、他者からパクっていないものを挙げておいたぞ。

「おまけに全能力値が80を超えている? 上位ランカーなら当然の数値らしいけど、それが平均値ってのは初よね? もしかして、貴方もそうなの?」

「…………」

「知らない? もしくは自覚がないとか……[掲示板]で見たことがない?」

「……[掲示板]は使わない」

 知りたいことは、眷族から聞いた方が正確な情報が入るし。
 あまり他者と交流したいわけでもない、何より……絡みづらいからな、あれって。

 しかしランカーねぇ……。
 オンゲーの定番単語としての意味なら、何かしらの部門において上位に立つ者たち。
 AFOの場合は……なんだろうか。

「ランカーってのは、有名な人のこと。祈念者だけ、自由民込みって分かれてるけど……今回は前者ね。公式な選定基準は無いけど、大半は知名度かしら」

 曰く、何かしらやらかせば自由民たちはそれを把握するらしい。
 ギルドで「俺、何かしました?」をやれば当然注目されるだろうし。

「けど、上位ランカーだけは明確な判断基準が存在する──そう、イベントのランキングね。問題点は職業名しか分からないことだけど……こうして訊けば、逆に分かる」

 一部の祈念者は固有職に就いているので、ランキングの入賞者だとすぐにバレる。
 普通は隠すだろうけど、彼女に魅せられた状態で聞かれれば……正直に言ってしまう。

「けど、【迷宮主ダンジョンマスター】……三文字よね? もしかして、ランキングに入賞したことがあるのかしら?」

「……ない」

「そう、違うのね。まさかとは思ったけど、気のせいか」

 魅せられたふりだけして、嘘偽りが吐ける俺なら隠し通せるけどさ。
 しかし……三文字か、そういえば表示されるのは【初心者】か【経験者】だったしな。

「…………なら、もういいわ。もしかしたら貴方が、例のあの人かと思ったけど──受け入れなさい」

 俺が思考に耽っている間に、イアは剣を構えて俺に突きつける。
 訊きたいことを聞き終えて、もう用済みというわけか。

 本来、この命令を受けた奴は抗うこともできずに殺されるのだろう。
 速度も威力も要らない、ただ前に押し出せばそれだけで死ぬ。

「……けど、まだ死ぬわけにはいかないな」
《“魔力化・鉱”》

「──え゛?」

「っと、悪いな。剣、折れちまった」

 ガキンッと嫌な音が鳴って、根元からポッキリである。
 俺自身は皮膚が自分のイメージした最硬の鉱石と化していたので、ほぼ無敵だった。

「これが俺の最強魔法──『アスト□ン』」

「……ちょくちょく挟んでくるわね。あいにく、冷気も波動も出せないわよ。って、なんで話せるの!」

「最初からだ。最初から、その女王様みたいなプレイを堪能していた」

「い、淫獣……!」

 体をギュッと抱き締め、ナニカを警戒するようなポージング。
 ……ああ、うん、そういう意味だったんだな、それって。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「──それでもう、本当に困ったのよ。何せ顔を出しただけで、みんな虜になるのよ? お陰で普通に施設も使えない。認識阻害付きのローブを得るまで、苦労したわ」

「そうか? こう、値引きとか結構得になると思うんだが?」

「……所帯とか交際関係とか、そういうドロドロとしたものに巻き込まれたいの?」

「なるほど、そりゃ無理だ」

 あれから、いろいろあった。
 どうやら彼女は自分の呪いが通用しない人物を探していたらしく、もっとも可能性のある奴かどうかを聞いていたそうだ。

 ──『模倣者』、謎のトップランカー。

 いつの間にやらそう評価され、[掲示板]でもうわさになっていたらしい祈念者。
 その実情はともかく、謎だからこそ見いだせる可能性があったのだろう。

 彼女のソレはON/OFFを自由に切り替えられない、常時ONの代物。
 ただ、発動条件である顔の認識さえ避けられれば、相手はその状態に陥らない。

 だが、人は視覚からの情報が九割。
 どれだけ隠してもそれを知るスキルがこの世界にはあるため、策を凝らして隠しても、暴かれてしまえば──虜となる。

「けど、あんなスキンシップを取られれば、なって当然だとは思うけどな。直前に自分で言ったこと、忘れてたよな?」

「あ、あれは……気が動転してたというか、改めて驚いたって言うか……と、ともかく、初めてだったのよ? それくらい、体で表現してもいいじゃない!」

「……あー、はいはい。よかったな」

 最初とずいぶんと雰囲気が違う。
 呪い云々で気を張り詰めていたのか、それとも他に理由があるのか……まあ、彼女自身の問題なので、接しやすいと考えておく。

 本人曰く、生物ならどんな相手でも通用するらしい──ただし魅了は男性に限る。
 ずいぶんとまあ用途がアレっぽいが、特化させることで性能が上がったのだろう。

「女だけでいれば、話せたんじゃないか?」

「女にも効くから困るのよ。ありえないくらいに怒ってくるから、普通に顔を晒すだけでも殺されかけたわ」

「……女性の【嫉妬】は怖いって言うけど、本当なんだな」

 男は魅了され、女は憎悪に呑まれる。
 それこそが彼女に課せられた呪い……どんなことが起これば、そんな絶世の美女みたいな罪深い呪いを受けるんだか。

「──さて、話を戻そうか。話を聞いていて分かったけど、なんとかなりそうだ」

「ッ……!? できるの、本当に……?」

「たぶんだけどな。でも、それにはいくつか条件があるぞ」

「条件?」

 彼女にとって俺の発言は、可能性の高いものとして勝手に変換されているのだろう。
 自分の呪いを諸共せず、相応にレベルも高い実力者……まあ、そんなところか。

 前例が無いからこそ、自分の問題を解決できると信じている。
 ──いや、正しくは信じようとしているのだろうな。

「条件は三つ。一つ、その問題のヤツがどうにかなるまで言うことを聞く。二つ、そのうち作る俺のクランに所属する……ここまでで何か質問は?」

「……二つ目は問題ない、無所属だから。けど、一つ目は……何をする気?」

「別にどうもしない。ただ、会わせたい奴らに会ってもらいたいだけだ。そして三つ目だが──俺の眷族になる」

「眷族って何? クランメンバーとか、パーティーメンバーとは違うの?」

 初めて聞く単語だし、アレな病を患う奴の痛い台詞セリフのように思えたのかもしれない。
 実際、[眷軍強化]って俺の願望から生まれたわけだし……考えないでおこう。

「俺のスペシャルなスキルの効果で、枠とか関係ない配下が創れる能力だ。その効果で、お前のアレをなんとかする」

「……聞いたことないわね。固有スキル?」

「個有スキルだな。ちなみに、デメリットは無いぞ……必要習得ポイントが999ってところ以外は」

「物凄いデメリットね、それ」

 祈念者だけの特権、自在にスキルを習得するために必要なポイントSPスキルポイント
 それを脇目も振らずに溜め込み、どうにか上げたら得られる代物だしな。

 ……俺はいろいろとズルチートの限りを尽くしたから、そういう苦労は全然なかったけど。

「まあ、細かい話は追々。どうするんだ、受けるか……受けないかは?」

「何でも呑むわよ。ただし、そういうことはしないからね」

「そういうことって?」

「…………あとで一つ頼みたいことがあるから、それだけ叶えてちょうだい」

 教えてくれなかったが、顔が赤いのでそういうことなのだろう……ませているな。
 とはいえ、それは俺も同じこと、互いに何もなかったことにするのが一番だ。

「それじゃあ、眷族の印を刻むから好きな場所を選んでくれ。痛みは無し、望まないと浮かんでこないから安心しろ」

「なら……首筋にでも頼むわ」

「了解。じゃあ、少し眠くなるけど気にしないでくれ」

「えっ、なんでそれを早……く…………」

 暴れられても困るので、有言実行かつ迅速果敢に印を刻む。
 スッと肌に触れると、イアはそれに抵抗できずに気絶する。

 俺はそれをそっと支え、地面に寝かしつけておく。
 ……その間は暇なので、アイテムの整理やスキルの確認をすることに。

 何が彼女にとっての救いになるのか、考えながらゆっくりと。

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