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偽善者と荒れ狂う喜劇 四月目
04-49 撲滅イベント その27
しおりを挟む闇狼であるルーは、彼女の指示に従い俺を噛み千切ろうとしている。
たしかに強いが、それは普通なら……俺には遠く及ばない。
だがしかし、一蹴しては彼女も警戒して逃走を選択肢に入れてしまう。
ここで使うのは実力偽装スキル、リーを介して発動させるとすぐに能力値を調整する。
それによって、死なないが全然強くないという生命力特化な状態に。
まあ、そのため狼も俺を相手に時間を稼ぐことができる……その間に召喚は続く。
「──“従魔召喚:ファル”」
先ほど唱えた魔法をもう一度唱えると、彼女の上空に魔法陣が浮かび上がる。
現れたのは炎を纏った赤色の鷹──種族名は『炎鷹』。
ちなみにだが、フェニの種族『不死鳥』に進化する可能性も秘めている。
しかし条件が非常に厳しいため、ほぼ無理だろうけど……かなりレアなのだ。
「──“従魔召喚:タウラブ”」
今度は真っ白い狐を召喚する。
種族名は『白狐』……うん、名前はシンプルだが他の従魔たちと同じ数だけ進化した、それなりに強い従魔だ。
それにしても、彼女の召喚魔法の速度は凄まじい。
先ほど視たスキルの中に、(輪唱)があったのでおそらくそれのお陰だろうか。
輪唱スキルはレベルが高くなると、無詠唱と同等の速度で魔法が使えるようになる。
なら無詠唱スキルの方がいいんじゃと思うそこの貴方……SP《スキルポイント》の消費が半端ない。
なので召喚を繰り返す戦闘スタイルを持つ者ならば、輪唱スキルの方がピッタリだ。
ただし条件があって、一度使った魔法に追随する形で無ければ発動しない。
俺の場合、無詠唱スキルを取っているし、思考詠唱と並列行動スキルを組み合わせることで、同時に大量の魔法を準備できたから習得はしなかった。
「──“従魔召喚:フィー”」
思考に耽っている間に、新たな従魔が彼女の後方に召喚される。
金髪碧眼、まさに理想の天使……いや、言葉通り『天精』なんだけど。
俺の種族だった『天使族』とは違い、妖精が進化したのが天精。
広義ではいちおう精霊の一種らしいが……説明文だけじゃ、俺も詳細を理解できない。
ともかく、そんな少女の天精は人と同じ姿なので、武器を持って戦うことができる。
小さな弓を手に持ち、遠距離からこちらに矢を飛ばしてきた。
「貴様自身を含め、これで五。そろそろ維持だけで手いっぱいになるのではないか?」
従魔たちの攻撃を避けながら、その主たる竜人に語り掛ける。
召喚士は従魔を出している間、ずっと維持コストを支払う必要があった。
四体分の維持費に加え、その後に使うであろう彼女自身の攻撃にも魔力を使う。
なので、結構キツいはずなんだが……そそれでもまだ魔法を唱えている。
ステータス的に普通の種族よりも優れている竜人でも、これ以上は難しい。
なので、これが最後になるだろう……そしてその従魔とは──
「──“従魔召喚:ルビ”」
『ピュイッ♪』
小さな、とは言っても少し大き目なぬいぐるみほどの大きさな──竜の子供。
鱗も目の色も、紅玉色の竜──種族名は見た目のまんま『幼竜《ドラゴンパピー》』。
普通、どの種族だろうと幼子では弱いのだが……竜は地力が半端ない。
なので子供でも強く、攫いに来た人族を迎撃してさらに成長……なんてことも。
最後に幼竜を出したのは、そういった目的のためだろう。
強くはあるが幼子、相手が強いのであれば普通の竜よりは早く敗北する。
なのでレベルを上げるため、ある程度弱らせた強敵と戦わせるのだ。
……俺で経験値稼ぎをするつもりなのだ、あの策士は。
「狼に鷹に狐に天精、そして幼竜か……ずいぶんと賑やかなパーティーのようだな。しかしそんなに魔力を消耗して、貴様自身は何かできるのか? 見ている限り、指示しかしていないようだが」
「ルーたち相手に手間取っている奴に、わざわざ言う必要があるのか? この淫獣め」
「……先ほどから何なのだ、インジュウと。当て字は分からないが、俺が勝ったらその呼び方は止めてもらおうか」
「人の秘密を覗き見る奴は、淫獣呼ばわりで充分だろう」
陰獣じゃないし……もしかして、淫獣か?
俺がエロい目で視ていると……うん、自意識過剰だろ、マジで。
そりゃあその気になれば、鑑定眼はありとあらゆる情報を覗けるさ。
だがそれをして、俺がその情報をどう生かすというのだ!
そういうわけで、俺は[ステータス]で表示される情報以上は視ていない。
ついでに言うと、勝手な覗き見は敵対行為になりはするが、別に禁止ではないぞ。
「嫌ならば、魔王とでも呼ぼうか? さっき暇だから[掲示板]を観ていたが、どうやらそう呼ばれているらしいぞ」
「……自分で名乗ったわけでもない。それはやらなくていいから、二つほど敗者は勝者の言うことを聞くことにしよう」
「二つ? なあ、捕らぬ狸の皮算用とか机上の空論って言葉を知らないのか? それで、今度はいったい何を企んでいる」
「さて、勝ったら教えてやろうか」
訝しむ視線をフードの中から見せる竜人の少女に対し、俺はニヤリと笑みを浮かべる。
……まあ、実際に見せているかどうかはともかく、あんまりいい反応では無いだろう。
「なら、一生聞けそうにないな」
「そうでもないさ。俺が勝つのだ、すぐに教えることになるだろう」
「……お前はおれに負けるんだよ。行くぞ、全員でアイツを倒すぞ!」
『──ッ!!』
イアの指揮の下、これまで以上に苛烈な攻撃が行われる。
狼は闇魔法、鷹は火魔法、狐は光魔法、天精は支援魔法で幼竜は変わらず物理攻撃。
彼らの魔力もまたイアが補っている以上、消費はさらにひどくなるはず。
それでもポーションを飲んで補い、彼女もまた武器を持って攻撃に参戦する。
これはまた、ずいぶんと面白そうだ。
指に巻いていた『天魔創糸』を一本解放、そして『模宝玉』を剣状にしておく。
第一試練(笑)の自己アピールは合格。
それじゃあ、第二試練(適当)の開始だ。
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