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偽善者と未熟者たち 三十九月目
偽善者と迷宮内氾濫 その11
しおりを挟むなんだか揉め始めた女性型の魔臣たち。
これからの予定について悩んでいた俺は、彼女たちの下を離れて別の魔臣たちにそれを聞いてみることにした。
「──“空間移動”っと、居た居た……おーい、ラヴ、ウォッツ、ロカ!」
「ん? おおっ、メルス様じゃねぇか! 急にどうしたんだ?」
最初に俺が接触したのは、翼の生えた巨大な狼──ロカ。
優れた五感の持ち主なので、すぐに俺が来たことに気付いたようだ。
「いや、ちょっとね。これからのことについて、いろいろと考えるところがあって。そのことをローラに聞こうとしたら……」
「……ああ。そりゃあ、ああなるわな」
三人の魔臣たちが居たのは、俺が居た防壁から遠く離れた場所──だというのに、防壁の上で行われている激しい戦いの余波がこちらから見えていた。
植物が咲き誇り、吹雪が吹き荒れ、声を媒介にした振動波が響き渡る。
ローラの声は特別製、媒介となる機械や魔道具が無くともかなりの距離に届くのだ。
「──アレがただのイイ歌ならなぁ……俺の耳には嫌な音にも聞こえやがる」
「あははっ、呪歌だからね。ロカの耳には、少しばかり効果が出過ぎちゃうみたいだね。そうだねー──“無言聴取”っと」
『おっ? 音が聞こえなくなったな……さすがメルス様だな』
「うん、そういう魔術だからね。ただ、僕たち側の声がまったく届かないから、気を付けてね。口の動きだけで読み取るか、文字を出してもらわないと言葉が分からないからね」
創作物でもよく出ている、相手の口の動きで発言を読み取る実際の技術。
……これ、こっちの言語をきちんと理解していないと使えないんだよな。
幸いにも、眷属たちがみっちり教えてくれたので素の状態でもある程度できるように。
そのうえで、読唇スキルの補正が働くことで読み取ることができる。
そしてその逆、自分の口の動きを分かりやすくして伝えることも。
魔臣たちは日本語も分かるので、口の動きだけで聞こえていないロカにも伝えられる。
「まあ、そういうことだから話だけ聞いていてくれるかな──ラヴもウォッツも、相談を聞いてくれるかな?」
「おう、別に良いぜ!」
「畏まりました、ご命令とあらば」
「──『かくかくしかじか』、だよ」
たった日本語ならば八文字、しかしそこに籠められた魔言にはもっと意味があった。
いわゆる圧縮言語、膨大な……と言って良いか分からないこれまでの事情を伝える。
彼らは総じて、ハイスペックな魔物たち。
情報を一瞬で処理して、それぞれが事情を自分たちで噛み砕いて理解してくれる。
『んー、ああ……いつものことだな』
「盛り上がるなら何でもよくねぇか?」
「気持ちは分かります。今回の目的は彼ら主導、ですがメルス様にもまた、行動の自由はあります」
「──ということなんだけど。みんな、どうしたらいいと思う?」
女性の魔臣たちとは違い、こちらはちゃんと考えてくれている。
やがて閃いたのか、進み出たのは熱気を文字通り帯びたマグマの精霊ラヴ。
本体は迷宮そのものなので、ここに居るのはその分体……なぜか女性の姿だが、本体は無性である。
「大将、おれといっしょに前で魔物たちを殺しまくろうぜ! その方が盛り上がる!」
「……まあ、盛り上がるだろうけど。説明した通り、あんまり探索者たちが頑張るのを邪魔したく無いんだよ。ラヴ、そういうところ考えてないよね?」
「はっ、おれをただの脳筋と勘違いしねぇでほしいなぁ……ちゃんと、考えがある」
「そ、そうだよね……ごめん」
彼はただの戦闘狂ではなく、言わば熱狂。
盛り上がること──熱を上げられることにこだわってはいるが、ただ戦闘だけを求めているのではないのだ。
「まず、おれたちが活躍する。すると、当然魔物の数が減る。その分、探索者どもも余裕ができる」
「! うんうん、その通りだよ!」
「数がどれだけ減ろうと、あいつらは感謝すれど文句は言えねぇ。一定の数をキープしておく、だからおれの炎で囲った中に来た奴は魔物だろうと人だろうと焼き尽くす!」
「…………ん?」
雲行きが怪しくなってきた……が、とりあえず語らせておく。
ただ、意思疎通のためにロカとウォッツを見てみると……二人とも首を横に振ってる。
ラヴ的には十二分な成果を出せるのかもしれないが、さすがにやり過ぎだろう。
主張の要点を絞るのであれば、狩り場を定めて魔物を倒すという案だ。
熱のままに語り続けるラヴは、とりあえず放置しておく。
意見はしっかりと考えているであろう、他二人に確認をしておこう。
「……ロカは、どうかな?」
『おい、なんで見比べてからこっちにしたのか、聞かせてもらおうじゃねぇか』
「いやー、単純にアイデアの差かな? 方向性的に、ロカはウォッツより攻める感じのアイデアな気がするから」
『その通りではあるけどな。ずばり、俺のアイデアは──迷宮丸々一つの停止だ!』
うーん、この脳筋め♪
ただ、あまりにも自信満々に言うのですぐにツッコむことができなかったが……うん、趣旨を忘れてはいないだろうか。
「それで済むなら、そもそも眷属でも何でも使って最初からやっているよ。探索者たちの実力で、それが可能なのかを調べるのが今回の企画なんじゃないか……」
『ふっ、ラヴじゃねぇんだ。それぐらい俺にも分かる』
「……その流れ、さっき見たばかりだよ?」
『分かってるよ。つまりだな、俺が狙うのはそっちじゃねぇ。祈念者の眷属たちが行っている迷宮の方だ!』
うーん、こいつめ♪
やっぱり、最後にウォッツを最後に回しておいて正解だった。
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