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偽善者と未熟者たち 三十九月目
偽善者と迷宮内氾濫 その10
しおりを挟む第二段階を終えた探索者たち。
しかし、第三段階がまだ存在する。
救いがあれとすれば、これが最後……レンがその旨を全体に通知したところだ。
≪──以上となります。それでは、第三段階の開始時刻までご自由に待機してください≫
自由時間は数時間用意されている。
本来の氾濫も、さまざまな事情ですぐには強力な個体を外には出せないので、休息をきちんと取らせておく。
「…………どうしようか」
「メルス様、いかがなされましたか?」
「あっ、ローラ……えっとね、何をしようか正直分からなくなったんだ」
ポーションを投げて支援をしたり、斧を投げて攻撃したり……一番の活躍である弓の支援は、他でもないチーのお陰。
まあ、元より目立ちたいわけでは無い。
だがそれとは別に、自分のやりたいように動き回りたいとも思っている……まあ、その辺は【矛盾】しているな。
だからこそ、いろいろと悩んでいたところに現れた魔臣の一人ローラ。
人魚の魔物だが、魔臣たちはほとんどが人化を心得ているので彼女も人族風だ。
文字通りのマーメイドドレスを身に纏い、歌うその姿に探索者たちがうっとりとした視線を向けていたな。
「あっ、ローラの歌、良かったよ。とっても綺麗だったね」
「! あ、ありがとうございます……その、よろしければ今度、個人的に──チッ」
「旦那様ぁあああ! すぐに、すぐにそこからお離れください!」
「ん? セツ……急にどうしたの?」
ローラが俺に何かを言いかけたその時、遠くから全速力で彼女は飛んできた。
白い和服に身を包む、白銀髪の少女……その瞳は、うっすらと緑色に輝いている。
それは【嫉妬】に『侵蝕』された証。
魔臣のうち数人は、実験として{感情}のどれかに関する力が植え付けられている。
そんなセツはこの場に辿り着くと、すぐにローラの視界から俺を覆い隠すように包み込む……和服美人な彼女は、いろんな意味で和服が似合うんだよな(意味深)。
「まったく、油断も隙も無い……旦那様を誘惑しようだなんて!」
「あら、その何がいけないことなのでしょうか? 貴女もすればいいじゃない」
「なっ!? そ、そんな……は、はしたないではありませんか!」
「……人を妬むのであれば、貴女自身も相応のことを致してからにしなさいな」
まあ、セツはいっしょに居るだけでとても嬉しそうにしてくれるからな……その辺、どこかヤンに似ているかもしれない。
彼女よりかは【嫉妬】深いのだろう。
だが、彼女同様に俺の求める【嫉妬】が反映されているのかもしれない……うん、俺にとってはまったく問題ないのだ。
──などと思っていた俺の足元に、突然防壁の足場から生えた蔓。
それが俺の足に絡みつき、そのまま俺を運び出……す前に凍り付く。
だがそれでも諦めず、どんどんこの場に生えてくる蔓と蔦。
セツが氷、そしてローラは声を衝撃波として放ってそれらに対処していく。
「……くっ、うじゃうじゃと。ハナ、貴女も居るのですね!」
「──ええ。さあ、お迎えに上がりました、貴方様♪」
蔓や蔦と同じように、巨大な花が地面から咲いた。
そこから現れた深緑のような髪色の少女、彼女はただ俺だけを紫色の瞳で見ている。
当然、そんな対応をされれば誰でも癪に障るわけで……先ほどまで視線で火花をバチバチに散らしていた二人は、お互いを一瞥して話し合う。
「……私を、私たちを無視するとは。どうですか、セツさん。ほんの少しでも共闘をするというのは?」
「…………仕方ありません。優先すべきは旦那様、しばしの間のみですよ」
そんな彼女たちは俺を求め、なぜか戦うことになっていた。
こういったとき、手を出さないのが一番だというのは経験則として学んでいる。
さて、どうしたものか……彼女たちのことはただ待つにしか無いにせよ、俺自身の問題について解決しておきたい。
「──“空間移動”」
「「「メルス/貴方/旦那様!?」」」
「ちょ、ちょっと長くなりそうだから、少し離れるね。あとで戻ってくるから、その時にみんなの用事は聞くよ!」
空間魔法が使えるようになっているので、その場から即座に撤退する。
視界内なら自在に渡れる“空間移動”により、俺はこの場から離れることに成功した。
「ふぅ……危ない危ない。あそこに居たままだと、正直どれだけの被害が出ることやら」
俺があの場に居続けると、ヒートアップして最終的には被害者も出ることだろう。
しかし、俺が居なくなればおそらく彼女たちは沈静化する。
……そうでなくとも、レンが強制的に止めると思う。
完全な他力本願だが、彼女ならばやってくれるだろう……貸し一つで。
「っと、そうだった。まだ頼れる魔臣たちは居るもんね。みんなに聞いてみないと……いや、あの子たちには聞けなかったけど」
聞く前に揉め始めたため、意見を求めることができなかったんだよな。
だが次の場所なら、ちゃんと答えてくれるに違いない。
そんなこんなで、気配を探って俺は再び転移を発動した。
うん、逃げるが勝ち……じゃなくて、聞けるときに聞いておこう。
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