上 下
150 / 2,519
偽善者と荒れ狂う喜劇 四月目

04-44 撲滅イベント その22

しおりを挟む


 ──『哀れな操り人形《ピティドール》』。

 それは、俺が暇潰しで考案した合成武技。
 予め『天魔創糸』を仕込んだ相手に、魔力と精気力を流し込む。

 本来なら抵抗されるのがオチだが、俺には頼もしい仲間チートる。
 そもそも糸である『天魔創糸』、とある神から加護を授かっていた。

 ……蜘蛛神と粘体神。
 いやまあ、前者はともかくどうして後者までとお思いのあなた、ご想像通りですが、今回は両方とも役に立っているんですよ。

 どちらにも共通の効果として付いていた、糸・粘液の生成能力。
 ある程度性質を自分で決められるということで、身力を通しやすくしたのだ。

 粘液が体中に浸透し、内部では魔力と精気力で編んだ糸が蝕んでいく。
 抗うための力すら奪われ、対象はただ哀れな人形と化すのだ。

 ……こらそこ、R18みたいとか言うのは止めなさい。

  □   ◆   □   ◆   □

「か、体が……おい、何をしやがった!」

 全身を鎧で覆い、隙間など存在しない状態で動きを縛られた少年。
 さすがに俺が何かしたと分かったようで、こちらに咆えてくる。

 ……意外と思考能力があるな。
 どうやら自身の怒りの感情を燃やしている間は、それを代償として持っていかせることで意識は保てるみたいだ。

「まずは話をしよう……むっ、鎧越しというのもアレだな。まずは互いに、兜を外すことにしよう」

「そんなことするわけ──なっ!?」

 体を掌握しているので、発動しているすべての闇迅術を解除させることだってできる。
 方法は──意思を縛る魔力の糸を動かし、能力解除の命令を送っただけ。

 ……この際に分かったのだが、どうやら通常の“闇迅鎧”と違って【堕勇者】越しに使うと寄生型っぽくなるらしい。

 精神が不安定かつ俺が解除を促したからなのか、不完全な解除となり、体の部分部分に鎧のパーツが残ってしまっている。

「なんでだ、なんでだよ……答えろ!」

 まあそれでも、鎧の量が減ったからか精神への影響も低下したようだ。
 まあ俺としても、狂った状態ではないコイツ自身に試練を受けてほしいからな。

「落ち着け……深呼吸でもするのだな」

「スー、ハー。スー、ハー。スーーー……っておい、何やらせてんだよ!」

「ふっ、だが冷静になったはずだ……もう演技もいいな。とりあえず、お前の新しい職業は思考を鈍らす。今だけでも、冷静な思考になってもらうぞ」

「……本当だ。俺、今までどうしてあんな過激なことを……」

 深呼吸の際、魔法の効能を直接糸から流し込んでおいた。
 恢復魔法“精神恢復マインドリカバー”、名前でどういう効能かは理解できるだろう。

 それでもなお、鎧は外せない。
 一度死に戻りするか、使いこなせるまでは無理だろうな……うん、それはそれで使えるので、そのままにして本題に移ろう。

「さて少年、これから君には罰を受けてもらうことになる」

「罰? なんでだよ」

「精神状態がアレだったとはいえ、数々の言動は問題だった。どれだけ否定しようと、アレは君の本心……剥き出しになった欲望だ」

「まあ……そうだな。たしかにあのとき、俺は欲望のままに本心を語った。だが、それとお前の罰とやらがどう関係するんだ?」

 至極当然、さも不思議そうに訊いてくる。
 俺にはそれを行うだけの理由があるが、そういえばまだ言っていなかったっけ?

「フェ……ニクスは俺の家族、いや女だな。お前には、この言い方の方が通りやすい。だから、俺のモノに手を出そうとしたお前を許すわけには──」

「許し? そんなもの要らない、ニクスは俺のモノになる……いや、俺のモノにするんだからな。だいたい、家族って……笑わせないでくれよ。あまりに似てないから兄妹ってこともないし、赤の他人だろ?」

「…………はっ?」

「なのに家族とか……寒い、寒すぎる。わざわざ女とか言い直すのもアレだぞ。お前、人のことをなんだと思ってるんだ?」

 普段の俺なら、そっくりそのまま返すぞ、とかそういうことを言っていただろう。
 しかし、今の俺はそれどころではない……抑えられない想いが、爆発しかけている。

「そもそも、このゲームのタイトルは?」

「……AFO──All Free Online」

「そうだろ、全部が自由な世界AllFreeOnlineだろ! だから俺がニクスをどうこうするのだって、この世界じゃ自由なんだよ。お前はお前で、また新しい女でも見つけろよ。それだって、お前の自由な選択なんだからよ」

 どうしてやろうか……どうにか堪えていた想いが、一気に爆発した。
 少年もだいぶ調子に乗っているのか、ずいぶんと口調が雑になっている。

 ……聞いてもいないのに自慢話を始めた。
 口撃、が効いていると思ったようだ。
 間違ってはいない……俺は今、お前を確実に潰したいと思っているよ。

《スー、周りにこれからやることが分からないように、結界の外側だけを黒くしてくれるか? あっ、ついでに防音も》

《……大丈夫?》

《ああ、俺は大丈夫。心配してくれてありがとうな、スー》

 万が一、運営側がこの状況を把握していても気にされないように、対策をしておく。
 すべてが自由と言っても、それは絶対順守の決まりの中の話。

 奴は俺から奪おうとした、ならば俺も奪おうと構うまい。
 ……お前の尊厳、そしてプライドやら何からナニまで奪い取ってやろう。

「──とりあえず、黙れ」

「っ……!」

「俺がお前の体を支配している、それを忘れていないか? それは物理的に、そして精神的に──存在的にだ」

 指を鳴らし、魔法を発動。
 ポフンッと可愛らしい音と煙が少年を包み込み、仕込んだ魔法の餌食とする。

「きゃっ! ……きゃあ?」

「[アイテムボックス]っと……ほい、鏡」

「ん? 誰だ、この女。結構可愛いじゃ……ちょっと待て、おい、何の冗談だ? まさかこれ──俺、なのか?」

「ずいぶんと可愛くなったもんで。自他ともに認める美少女の誕生ってな」

 少年が少女に、変身魔法の応用である。
 今回は糸伝いにそれを行うことで、その効果をより発揮しやすくしただけ。

 あくまでも、少年の性別が女だったらという話……俺の理想とかは入っていない。
 金髪碧眼、ボブカットの俺っ娘とは、持っているというか盛っているというか。

「いったい、俺に何をしたんだ!」

「さてな。まあ、この世界は何でもありAllFreeOnlineなんだろう? せっかくの機会なんだ、楽しんでおけよ」

「ふざけるな、さっさと戻しやがれ!」

 精神まで女性に変質するのではなく、今回は体だけが女性になっている。
 ……その気になればそれもできたのだが、あえて留めておいた。

 ──最初からそうしておいたら、つまらなくなるからな。

「落ち着けよ。俺はただ、少しばかり好いことを教えてやるだけだ」

「……良いこと、だと?」

「そう、好いことだな。ただし──」

 糸を動かし、少年……改め少女の体を十字に広げて固定はりつけにする。
 動かない体に、自身の状況を再認識してもらう──哀れな人形なんだよ、お前は。

「男として快楽を貪るんじゃない、お前は弄ばれて悦ぶんだよ。お前が女たちに要求していたことだ、別に構わないだろう?」

「ふざけるな! 俺は、俺は男──ッ!」

「[ステータス]で確認すればどうだ? 嘘偽りない表示が、お前に現実を教えてくれるだろうよ」

「っ……す、[ステータス]!」

 ただの夢でも幻でもない、紛れもない現実なんだと説明する。
 都合よく[ステータス]は、どんな時でも使用者の状態を表す。

「お、女……」

「だから言っただろうに。お前は今、まぎれもない女だ。よかったじゃないか、お前は大好きな女そのものになれたんだからな」

「ち、違……」

「知らねぇよ。いいから、しばらくそのままでいろよ──雑魚が」

 少女はこれまで自分がお世話になってきた[ステータス]で、ようやく認識した。
 ……ちなみにそちらは男のままだが、そこの改変もできるのが変身魔法です。

 要するに絶賛騙され中な少女、だがそこを正さないからこその試練であり……偽善と私怨が混ざった刑の執行だ。

「くそがぁ……んぐっ!」

「おいおい、女の子がそんな口調で叫ぼうとするんじゃない。そろそろ始めるんだ、少し大人しくしてろよ」

「むぐぐぐぐっ!」

「じゃあ、始めるぞ──イ・イ・コ・ト♪」

 抵抗は好きなだけするといい、これもすべては少女たちへの偽善を行うため。
 さてさて、何をしますか……とりあえず、時間は引き延ばしておこう。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

処理中です...