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偽善者と荒れ狂う喜劇 四月目
04-44 撲滅イベント その22
しおりを挟む──『哀れな操り人形《ピティドール》』。
それは、俺が暇潰しで考案した合成武技。
予め『天魔創糸』を仕込んだ相手に、魔力と精気力を流し込む。
本来なら抵抗されるのがオチだが、俺には頼もしい仲間が居る。
そもそも糸である『天魔創糸』、とある神から加護を授かっていた。
……蜘蛛神と粘体神。
いやまあ、前者はともかくどうして後者までとお思いのあなた、ご想像通りですが、今回は両方とも役に立っているんですよ。
どちらにも共通の効果として付いていた、糸・粘液の生成能力。
ある程度性質を自分で決められるということで、身力を通しやすくしたのだ。
粘液が体中に浸透し、内部では魔力と精気力で編んだ糸が蝕んでいく。
抗うための力すら奪われ、対象はただ哀れな人形と化すのだ。
……こらそこ、R18みたいとか言うのは止めなさい。
□ ◆ □ ◆ □
「か、体が……おい、何をしやがった!」
全身を鎧で覆い、隙間など存在しない状態で動きを縛られた少年。
さすがに俺が何かしたと分かったようで、こちらに咆えてくる。
……意外と思考能力があるな。
どうやら自身の怒りの感情を燃やしている間は、それを代償として持っていかせることで意識は保てるみたいだ。
「まずは話をしよう……むっ、鎧越しというのもアレだな。まずは互いに、兜を外すことにしよう」
「そんなことするわけ──なっ!?」
体を掌握しているので、発動しているすべての闇迅術を解除させることだってできる。
方法は──意思を縛る魔力の糸を動かし、能力解除の命令を送っただけ。
……この際に分かったのだが、どうやら通常の“闇迅鎧”と違って【堕勇者】越しに使うと寄生型っぽくなるらしい。
精神が不安定かつ俺が解除を促したからなのか、不完全な解除となり、体の部分部分に鎧のパーツが残ってしまっている。
「なんでだ、なんでだよ……答えろ!」
まあそれでも、鎧の量が減ったからか精神への影響も低下したようだ。
まあ俺としても、狂った状態ではないコイツ自身に試練を受けてほしいからな。
「落ち着け……深呼吸でもするのだな」
「スー、ハー。スー、ハー。スーーー……っておい、何やらせてんだよ!」
「ふっ、だが冷静になったはずだ……もう演技もいいな。とりあえず、お前の新しい職業は思考を鈍らす。今だけでも、冷静な思考になってもらうぞ」
「……本当だ。俺、今までどうしてあんな過激なことを……」
深呼吸の際、魔法の効能を直接糸から流し込んでおいた。
恢復魔法“精神恢復”、名前でどういう効能かは理解できるだろう。
それでもなお、鎧は外せない。
一度死に戻りするか、使いこなせるまでは無理だろうな……うん、それはそれで使えるので、そのままにして本題に移ろう。
「さて少年、これから君には罰を受けてもらうことになる」
「罰? なんでだよ」
「精神状態がアレだったとはいえ、数々の言動は問題だった。どれだけ否定しようと、アレは君の本心……剥き出しになった欲望だ」
「まあ……そうだな。たしかにあのとき、俺は欲望のままに本心を語った。だが、それとお前の罰とやらがどう関係するんだ?」
至極当然、さも不思議そうに訊いてくる。
俺にはそれを行うだけの理由があるが、そういえばまだ言っていなかったっけ?
「フェ……ニクスは俺の家族、いや女だな。お前には、この言い方の方が通りやすい。だから、俺のモノに手を出そうとしたお前を許すわけには──」
「許し? そんなもの要らない、ニクスは俺のモノになる……いや、俺のモノにするんだからな。だいたい、家族って……笑わせないでくれよ。あまりに似てないから兄妹ってこともないし、赤の他人だろ?」
「…………はっ?」
「なのに家族とか……寒い、寒すぎる。わざわざ女とか言い直すのもアレだぞ。お前、人のことをなんだと思ってるんだ?」
普段の俺なら、そっくりそのまま返すぞ、とかそういうことを言っていただろう。
しかし、今の俺はそれどころではない……抑えられない想いが、爆発しかけている。
「そもそも、このゲームのタイトルは?」
「……AFO──All Free Online」
「そうだろ、全部が自由な世界だろ! だから俺がニクスをどうこうするのだって、この世界じゃ自由なんだよ。お前はお前で、また新しい女でも見つけろよ。それだって、お前の自由な選択なんだからよ」
どうしてやろうか……どうにか堪えていた想いが、一気に爆発した。
少年もだいぶ調子に乗っているのか、ずいぶんと口調が雑になっている。
……聞いてもいないのに自慢話を始めた。
口撃、が効いていると思ったようだ。
間違ってはいない……俺は今、お前を確実に潰したいと思っているよ。
《スー、周りにこれからやることが分からないように、結界の外側だけを黒くしてくれるか? あっ、ついでに防音も》
《……大丈夫?》
《ああ、俺は大丈夫。心配してくれてありがとうな、スー》
万が一、運営側がこの状況を把握していても気にされないように、対策をしておく。
すべてが自由と言っても、それは絶対順守の決まりの中の話。
奴は俺から奪おうとした、ならば俺も奪おうと構うまい。
……お前の尊厳、そしてプライドやら何からナニまで奪い取ってやろう。
「──とりあえず、黙れ」
「っ……!」
「俺がお前の体を支配している、それを忘れていないか? それは物理的に、そして精神的に──存在的にだ」
指を鳴らし、魔法を発動。
ポフンッと可愛らしい音と煙が少年を包み込み、仕込んだ魔法の餌食とする。
「きゃっ! ……きゃあ?」
「[アイテムボックス]っと……ほい、鏡」
「ん? 誰だ、この女。結構可愛いじゃ……ちょっと待て、おい、何の冗談だ? まさかこれ──俺、なのか?」
「ずいぶんと可愛くなったもんで。自他ともに認める美少女の誕生ってな」
少年が少女に、変身魔法の応用である。
今回は糸伝いにそれを行うことで、その効果をより発揮しやすくしただけ。
あくまでも、少年の性別が女だったらという話……俺の理想とかは入っていない。
金髪碧眼、ボブカットの俺っ娘とは、持っているというか盛っているというか。
「いったい、俺に何をしたんだ!」
「さてな。まあ、この世界は何でもありなんだろう? せっかくの機会なんだ、楽しんでおけよ」
「ふざけるな、さっさと戻しやがれ!」
精神まで女性に変質するのではなく、今回は体だけが女性になっている。
……その気になればそれもできたのだが、あえて留めておいた。
──最初からそうしておいたら、つまらなくなるからな。
「落ち着けよ。俺はただ、少しばかり好いことを教えてやるだけだ」
「……良いこと、だと?」
「そう、好いことだな。ただし──」
糸を動かし、少年……改め少女の体を十字に広げて固定する。
動かない体に、自身の状況を再認識してもらう──哀れな人形なんだよ、お前は。
「男として快楽を貪るんじゃない、お前は弄ばれて悦ぶんだよ。お前が女たちに要求していたことだ、別に構わないだろう?」
「ふざけるな! 俺は、俺は男──ッ!」
「[ステータス]で確認すればどうだ? 嘘偽りない表示が、お前に現実を教えてくれるだろうよ」
「っ……す、[ステータス]!」
ただの夢でも幻でもない、紛れもない現実なんだと説明する。
都合よく[ステータス]は、どんな時でも使用者の状態を表す。
「お、女……」
「だから言っただろうに。お前は今、まぎれもない女だ。よかったじゃないか、お前は大好きな女そのものになれたんだからな」
「ち、違……」
「知らねぇよ。いいから、しばらくそのままでいろよ──雑魚が」
少女はこれまで自分がお世話になってきた[ステータス]で、ようやく認識した。
……ちなみにそちらは男のままだが、そこの改変もできるのが変身魔法です。
要するに絶賛騙され中な少女、だがそこを正さないからこその試練であり……偽善と私怨が混ざった刑の執行だ。
「くそがぁ……んぐっ!」
「おいおい、女の子がそんな口調で叫ぼうとするんじゃない。そろそろ始めるんだ、少し大人しくしてろよ」
「むぐぐぐぐっ!」
「じゃあ、始めるぞ──イ・イ・コ・ト♪」
抵抗は好きなだけするといい、これもすべては少女たちへの偽善を行うため。
さてさて、何をしますか……とりあえず、時間は引き延ばしておこう。
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