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偽善者と未熟者たち 三十九月目
偽善者と迷宮内氾濫 その06
しおりを挟むついに始まった第二段階の氾濫侵攻。
俺は都市の防壁の上からひたすら攻撃用のポーションを投擲し、僅かながらに得られる支援による経験値獲得を重ねていた。
ハナと共に作り上げた状態異常ポーションは、悪辣極まりない性能の物ばかり。
弱体化した魔物を探索者たちが駆除し、その恩恵にあやかっていた。
「さて、ここからは近接戦かな? それより用意したこの『付与用劇毒ポーション』を振りかけてっと……よし、行きまーす!」
突拍子も無い行動は祈念者たちが何度もしているので、誰も咎めはしない。
防壁から降り、門に向けて走る──それを阻む魔物たちは剣で切り伏せていく。
この際、意識して欲しいスキルを手に入れるべく戦いを行う。
剣を使っていることからも分かるように、今回は剣系のスキルをメインに得る予定だ。
「──『音速斬・十式』」
まずは速度を意識した動き。
剣術スキルの一つ、“音速斬”で行える極限の速度を強引に引き出す。
魔物たちはそれなりに強いが、レベルを上げたお陰で攻撃は通る。
そして、その切り傷から塗っておいたポーションが浸透し──状態異常を引き起こす。
脆弱な俺の攻撃に舐めてかかろうとした魔物だが、すぐに倒れ伏して体をビクビクと震わせた……俺は容赦なく、魔物の核を刺し貫いて活動を終わらせる。
「速度はこれで良しっと……それじゃあ、後は一定速度で数をこなすだけだね」
スキルの習得方法が確立している剣術系統の一つ、瞬剣術。
大前提として剣術スキルをカンストさせ、条件を満たすことで取得可能になる。
その条件は大きく分けて二つ。
一定速度で一定回数戦闘をすること、そしてより高く設定された速度で剣を振るい戦闘に勝利すること。
前者はまあ頑張ればできるのだが、後者がかなり面倒臭い。
速度を出さなければならないのもそうなのだが、それを戦闘でやる必要がある点も。
……あと単純に、それだけの速度が出せる頃には剣術スキルを上位化させてしまっている場合が多いからな。
「あとは、柔剣術と剛剣術の習得条件を満たしておきたいね。それもこれも全部、あの本で分かったから簡単だよ」
そう、すべては『誰でもできる簡単スキル習得本』のお陰。
Z商会で販売されていたこの本は、商会が集めたスキルの習得方法が記載されている。
しかもこれ、商会が集めた情報が随時更新される魔本仕様。
祈念者が協力を行い……死を条件とするスキルも最近は載るようになっていた。
まあ、それと二つのスキルは関係ない。
柔剣術は攻撃を受け流す系の条件を満たせばいいし、剛剣術は相手の防御を正面からぶち破る系の条件だ。
ティル師匠仕込みの剣技を振るえば、誘導してカウンターを行うことも防御の上から攻撃を通すこともできる……数体の魔物を相手にそれを繰り返すと、スキルを獲得できた。
「武術スキルの派生はそれなりに多いし、試せるだけ試してみようかな?」
武器種そのものの名を表す正統進化だけでなく、今回得た三つのスキルのように戦闘スタイルに合わせたスキルも存在する。
本来なら見つけるにも一苦労だが、俺には便利な魔本があるので問題ない。
今の俺でも満たせる条件を思い出しつつ、スキル習得を重ねていくのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
結果、刀剣系のスキルをたくさん──加えて、貫槍術と浸闘術スキルを獲得した。
俺の手に握られているのは剣ではなく槍、しかしそれは剣でもある。
それは獲得した金属変質スキルの効果。
元より剣に使用していた合金には、魔力を一定量籠めることで形状を多少歪めることができる代物が含まれていた。
刀剣系のスキルの内、巨剣術と刀術を獲得するためにかなりその金属を使ったわけで。
いつの間にか、普人族では手に入れられないはずのスキルを習得していた。
その時気になって確認したところ、祈念者の普人鍛冶師で獲得者が何人か居たらしい。
やはり万能の才は凄い、祈念者の優位性の一つとして挙げられるだけあるな。
「たしか、ネタスキルに(棒高跳)が載っていたっけ? よし、やってみようっと」
第二段階はまだ終わっていないが、探索者たちが門の中に直接駆除に向かっている。
結果、外側まで出てくる魔物が少なくなっており、警戒する程度で済んでいた。
暇潰しにドリル状にしていた槍を地面に突き刺し、金属変質スキルで持ち手を伸ばす。
かなり変則的な形ではあるが、棒を使い高く跳んだことで条件を達成した。
跳んだ総距離で条件を満たせるので、そのうち習得できるだろう。
……意外とこれ、棒があればいつでも使えるので戦闘やら暗躍でも使えるんだよな。
「──ほい、着地!」
「……アンタ、凄いな。なんか、ギャグ漫画のワンシーンみたいだったぞ」
「あはは、お兄さんもやってみたら?」
「…………無理だからこそ、ギャグ漫画だったと思うんだがな」
防壁の上で警備をしていた祈念者とそんなやり取りをした後、臨時の工房へ移動。
防壁の近くに建てられた施設で、生産者たちが多くのアイテムを製作中だ。
「すみませーん、素材を持ってきましたー」
「仕分けはできていますか? できているならばこちらへ、そうでないならば隣の建物で行ってからこちらへ」
「できてまーす」
「……確認しました──では、提示を」
指示語が多かったが、要するに素材をきっちりとジャンル分けしたうえで前線で回収してきた探索者たちから回収している。
隣の建物には鑑定系のスキルを伸ばした者たちが配属されていて、内容も分からないのに持ち込まれたアイテムなどもしっかりと判断可能だ(今は無料)。
そして、それを提出するとその量と質に応じて貢献ポイントを貰うことができる。
それを受け取ることができるカードを渡して、処理をしてもらうまでがワンセットだ。
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