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偽善者と未熟者たち 三十九月目

偽善者と迷宮内氾濫 その05

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 少々、思い出を振り返り何もかも忘れてしまっていた。
 ナシェクは悪くない……眷属も悪くない以上、悪いのは俺だ。

 過去のことはともあれ、今はこれから起きる第二段階の氾濫に備えなければならない。
 ナシェクはナシェケエルとして前線に出てくれるので、被害は間違いなく減るだろう。


「さて、ナシェケエルは『霊逢の墓標』がある方面に行ってほしいんだ」


 そこは俺とルーン国における騒動を経て、造り出された迷宮。
 中に在るのはひたすら墓標、そこにはかつての民の名が刻まれている。

 そこを訪れると、誰もが知人の墓標に向かい話しかけていた。
 ……迷宮として造ったからこそ、その墓は特別な物なのだ。

 普段は魔物が出現することは無いのだが、今回はとにかくもしもIFを想定している。
 強制的に魔者を生成させ、氾濫させる……そういう事態も無くは無いからな。


「アンデッドを私に任せると?」

「うん、強烈な浄化ができるナシェケエルに任せたいんだ……本当はあの迷宮、お墓として使っているんだ。でも、それを利用された時のことを想定しているから。できる限り、苦しまないように浄化してあげて」

「……分かりました。それが、私にできる最大限の計らいでしょう」


 …………まあ、ネタバレをすると彼らが死後に神様にお世話になることは無い。
 かつては俺、そして今はアイが直接死者の魂魄を回収してその後の処理している。

 さまざまな事情があってのことだが、それは民たちも承知のこと。
 まあ、墓標が魂の安息の地として存在していることに変わりは無いんだけどな。 


  ◆   □   ◆   □   ◆


≪──第二フェイズを開始します≫


 レンが迷宮都市に居るすべての者に対し、氾濫の再開を告げる。
 すると、魔物たちが迷宮の中から現れ迷宮都市を目指して進んでいく。

 なお、一般的な迷宮の魔物は迷宮間を渡ることができる転送陣を使用できない。
 階層を渡るにも迷宮から出るにも、すべて自力で行う必要がある。

 迷宮都市の防壁の上、そこから見下ろす第三世界に内包された小さな世界群めいきゅうたち
 創作物でもよくある設定、迷宮のある場所と都市周辺の環境──門は繋がっている。

 転送陣は使えない魔物だが、迷宮から外に出るためのソレだけは使用可能だ。
 結果、都市の外側に置かれた門から次々と魔物が飛び出してくる。


「──“早投スロー”!」


 それでも、迷宮の奥に居る個体ほど遅れて出てくるわけで。
 さして強くない俺にできるのは、弱い個体が出てくる内にレベルを上げること。

 ハナと共に作ったポーションを、武技の効果も交えてどんどん投げていく。
 そのすべてが状態異常を発生させる代物、ダメージ量に関わりなく弱っていった。

 そして、その弱体化した魔物を前線の探索者たちが討伐する。
 大半の経験値が討伐者に向かうが、貢献したということで俺にも一部が回ってきた。

 一体一体の獲得経験値は少なくとも、今回はその数で補う。
 レベルはぐんぐん上がっていき、それに準じて能力値の恩恵で身体能力が強化される。


「いけるかな──『千華繚嵐・十式』!」


 投擲スキルの武技、その中でも高難易度のモノをなぞることで再現。
 本来の発動条件はまったく満たせていないが、身体強化を身力の操作で増やして補う。

 仮初の人外となった俺は、その有り余る膂力で握り締めたソレを投げつける。
 ある物を押し込んだ球体、それが武技の力も乗って遥か遠くへと。

 それはそのまま門のすぐ傍に──瞬間、激しい揺れと共に爆発と煙が生じる。
 前線で戦っていた者たちには、被害者も居るだろうが……まあ、許してほしい。

 その結果はすぐに分かる。
 周囲に咲き誇る花々──そのすべてが、状態異常を引き起こす厄介な代物。

 花粉が舞い、周囲に存在する生物は探索者も魔物も関係なくそれを吸い込む。
 毒も麻痺も眠りも混乱も、すべてが同時に発生して吸引者を苦しめる。

 魔物たちは生まれ持っての耐性で、強い個体ほどそれに抵抗していた。
 探索者たちはそれほど抵抗できない……しかし、彼らにはポーションを渡してある。


「まあ、魔物が使う状態異常対策として用意したんだけど……どうせ回復の方が強めに製作してあるし、耐性を育てるのにも強い状態異常を受けるのはいい経験だよね」


 状態異常さえしっかり回復すれば、その場には弱体化した魔物ばかり。
 内心文句を言っているかもしれないが、それでも彼らは魔物の処理を優先する。

 そして、その経験値が俺にも届く。
 がっぽり手に入る経験値、上がっていくレベルにニマニマと笑みが零れる。


「スキル習得……は今は無しだね。上がったレベルを少し使って、武器のレンタルを選択するよ」


 選んだ武器は銘を持たない合金製の剣。
 神鉄製では無いので無双はできないが、その代わりレベルが三桁になったばかりの俺でも使える最大級の火力を有している。

 特別な装備スキルなども無いが、その分魔力による付与などが載りやすい。
 ……容量があって装備スキルが無い、というのも意外と作りづらいのだが。

 俺は生産神の加護があるからこそ、それも意図して製造しておいた。
 こういう時、縛りプレイ時の時に使ってみたかったからな。


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