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偽善者と荒れ狂う喜劇 四月目

04-43 撲滅イベント その21

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 俺と少年は向かい合う。
 俺は糸を、少年は剣を構えて。
 不自然ではないように隠したので、透明な糸は奴にはバレていない……ふっ、完璧だ。

「……先に言っておくが、テメェが指に糸を巻いているのを見たからな」

「チッ、それでも【勇者】か!」

「もう違う。魔力視スキルで気づいたから、不自然に魔力が高まっているからもしやと思えば……鎌をかけて正解だったな」

 な、なんて恐ろしい奴なんだ……。
 俺をこうもあっさりと出し抜くとは。
 くそっ、【堕勇者】になって、知能も低下したと思ったんだが……意外と頭いいのか。

「……おい、聞こえてるぞ」

「まあ、言ったからな。素晴らしい観察力、それは賞賛に値する。そうだなぁ、特別に貴様には先手を譲ってやることにしよう」

「……調子に乗るなよ。いつまでも、余裕面なんかしてるんじゃねぇ!」

 少年の足元の影が、一瞬揺らめく。
 おそらく“闇迅脚”を使って、死角に来るつもりなのだろう。

 しかしまあ、思考加速スキルで状況を把握しているので、対処もすぐにできる。
 アルカの固有スキル【思考詠唱】で、最適な魔法を即座に展開した。

「──“聖域サンクチュアリ”」

「っ……! こうも簡単に防げるとはな。あの発言といい、やっぱり観てたな」

「ふっ、我が世界の中で起きたことは、すべて掌の上も同然。影ができねば渡れるモノも無くなる、当然のことだろう」

「いつまでもつまんないロールプレイをしやがって……そのロールを止めさせて、少しはマシな雑魚にしてやるよ!」

 直接近づいてくる少年。
 その速度は【勇者】のときよりも向上しているので、普通なら対処も面倒だ。

 しかし、俺は“聖域”を意図的に操作するだけで処理できる。
 俺の足元、そして少年の死角の光量を調整するだけ……これで使える──“闇迅脚”。

「どこを見ている、隙だらけではないか? ──“斬糸ザンシ”、“糸凪《イトナギ》”」

「くっ、“闇迅た……」

 死角を突いても、【堕勇者】の優れた身体能力で気づき、すぐに便利な闇の盾を生み出そうとする少年。

 だがまあ、それはこのまま糸を振るえば間に合うというだけの話。
 俺が一から編んだ『天魔創糸』は、その程度の問題は苦にならない。

「その程度で防げたと思わないことだな──“伸縮自在”」

「その言葉、そっくりそのまんま返すぞ──“闇迅盾・吸収アブソーブ”!」

 俺の想定以上の動きで、糸を次々と躱していく……魔力と精気力が体を覆っているし、スキルと魔法の身体強化を使ったな。

 それでほんの少し時間を稼げば、その間に“闇迅盾”を構築できる。
 吸収形体を選び、自身を包むことで攻撃の無効化を狙ったようだ。

「だが足りない──“硬度自在”」

 魔力を籠めれば籠めるほど、その硬さは俺好みのものとなる。
 そこに神気を混ぜれば、神鉄級の硬度を得ることができた。

 追加で魔力を籠めて、形状の方も変更しておく。
 一本の糸を軸に、渦を巻くように実際に存在するある物を象る。

「必殺、ドリルスマッシャー!」
(──“螺旋拳コークスクリュー”)

 某超次元サッカーのように、突如ドリルで行うパンチング。
 裏では『模宝玉』のスキルで模倣した、武技の効果を再現して放っている。

 そんなプラスの効果もあってか、ドリルはギュイーンッ! と音を立てて直撃。
 最初は膜も抵抗していたが……やがて耐えきれず崩壊し、内部に居た少年を貫く。

 カハッと息を漏らす少年。
 鑑定眼を使い、生命力がどれくらい減ったか確認してみると……うわっ、今の攻撃だけで二割も減っているな。

「何なんだよ、何なんだよテメェは! そのチート、いったいどこで手に入れた!」

「……特訓?」

「はぁ、ふざけんな! 隠してやがるな……寄越セ、その力ヲ俺ニ寄越セ!」

「……この程度で精神が堕ちるか。判定が厳しいのか、それともコイツが弱いのか」

 俺は実際に、フェニとの特訓(殺戮)で得たのだから嘘は言っていないんだけど……。
 どうやら正常ではない思考能力は、完全に職業のデメリットに蝕まれてしまったな。

 少年が叫ぶと、体内から溢れ出す闇色の瘴気に似たナニカ。
 邪神教徒であるレイヴンが生みだしたモノとは違うみたいなので、邪神は関係ないな。

 だがそれでも、その瘴気が危険なモノであると“聖域”が示している。
 高まりつつあるそのどす黒いエネルギーの塊が、少年を中心に渦巻いていた。

「その力、すべてヲ俺ニ寄越スンダ! ──“闇迅剣”、“闇迅盾”、“闇迅脚”、ソシテ“闇迅鎧”!」

「……ふむ、初めて聞く技だな。鎧とは、そこまで禍々しい物なのか。しかし聞き取りづらい──“会話調整”」

 新たに見せた闇迅シリーズの技に感動するよりも、少しずつ耳障りになってきた彼の発音を邪魔だと思った。

 なので言語理解スキルのアクティブ能力である、自分のもっとも使っている言語で他者の言葉を聞けるようにする……そんな能力でどうにかならないかやってみる。

 ……うん、意外と上手くいった。
 わざわざ使わなくても、本来祈念者は初期言語に翻訳されているからな。
 初めてやったので、少々不安だったよ。

「しかし、その鎧……面白いな。貴様には少し勿体ない。我が使ってやった方がよいのではないか?」

「……何を言っている」

「こういうことだ──“闇迅鎧”」

「っ……!?」

 少年が生みだした禍々しい鎧とは異なり、俺が纏ったのはかなりシンプルなデザインである……あのデザインまでは模倣できないため、通常版を使うことになったようだ。

 ちなみに性能だが、能力値が二割増し。
 少年の方は三割増しだが、代わりに精神崩壊までの速度(確率)が上がっている。

 見てくれ的には、黒尽くめの狂戦士が二人相対しているこの状況。
 どっちも正義面はできないな……まあ、俺は偽善者だけど。

「なぜだ、なぜ俺の……俺だけの力を使うことができる!」

「貴様程度の児戯、容易く真似できる。貴様だけのモノなど……世界のどこにもない」

「……えない。ないないないない、ありえない! 俺の! 俺だけの力なんだ! 世界のすべては俺のものなんだ……ニクスも、アイツだって俺のモノだ!」

 なんだかんだ、今でもフェニへの妄執は失われていないようだ。
 それにはとても感心する……やっぱり、アイツはイイ女だってことだからな。

「とっとと、俺をアイツの所に行かせろ!」

 今は“聖域”が展開されているため、彼が“闇迅脚”を使える可能性はゼロだ。
 なので結局、こちらに来るにも能力値任せの猛ダッシュ……うん、これなら使えるな。

「死ね──“十字斬クロススラッシュ”!」

「──“伸糸シンシ”」

 高速で十字に剣を振るおうとする少年。
 対する俺は、糸を伸ばす武技を使うだけ。

 だがこのタイミングで使うことで、これまで地道に張り巡らせていた罠が作動する。
 気づいたときにはもう遅く、剣も盾も鎧も通用しない……さぁ、踊れ。


「──『哀れな操り人形ピティドール』よ」


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