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偽善者と荒れ狂う喜劇 四月目
04-42 撲滅イベント その20
しおりを挟む再び時間は遡り、まだリア充君……いや、ただの少年が記憶リセットに気づいた頃。
いつものように女性の声を聴き、そこに何か思うところがあっても、そこへ向かう。
ちなみにこの後、いつもの女性とイレギュラーな亜竜と出会うが……当然、仕込みだ。
亜竜は俺が最初に戦ったアイツ、そして女性の方は──いわゆる仮想AIである。
俺が生みだし、少年の意識を取り込んだあの空間でのみ、活動することができる存在。
行うことは少年の解析、そして上手い役回りである。
「とはいえ、このままだと消えるんだよな。どうにかしないと……もしかして、アレを創れればなんとかなるか?」
もともと、かつて観たモノを参考にして生みだした存在。
なので同じく、創作物のネタを拝借してみれば……うん、やることが決まったな。
閑話休題
先ほど挙げたアイツ、改めて説明するがエリアボスだった亜竜のことだ。
それでも弱体化させており、真面目に戦えば勝てる……ぐらいのイメージにしてある。
あくまで空想上の存在なので、自在に操ることができるソイツを、少女たちと共に配置してみた……少年のパーティーメンバー、そしてなぜかフェニを。
「……しかし、なぜニクスなのか」
「お知り合いなのですか?」
「我のパーティーメンバーだ」
最近アイツが気にしている女はいないかと聞いたところ、挙がったのがフェニの偽名。
仕方なく彼女たちのイメージ体と共に並べたが、予想以上に喰いついていた。
……手を出そうとしていたみたいだが、そうはさせんぞ。
とりあえず、予め決めていた末路の悲惨度合いを、一段階引き上げておこう。
少年が動こうとしたとき、最初に行ったのは設定の変更だ。
あの世界は俺の支配する領域、使用するスキルに制限を設けることもできる。
ついでに悪魔魔法“業魔衝動”を施し、少年の思考を軽く弄ってみた。
少年は一人しか救えないと思い込み、その一人を選んだ──それはフェニである。
その時点で発動制限を緩め、【勇者】の技だけは使えるようにしておいた。
それによって“光迅盾”を展開し、見事耐えきることに成功する。
若干色が黒くなっているが、それは仕方のないこと。
これまで少年の行いが、自覚をトリガーとして目に見えるようになっただけだ。
『そう……だな。なんで俺が、こんな目に遭わないといけないんだ。悪いのは【魔王】、悪いのは運営、悪いのは世界だ。俺は俺のやりたいようにやればいい、アイツらには……あとで謝ればいいだろう』
「「「「「…………」」」」」
『……他はみんな、死んだか。アイツらは死に戻りしたな──まあ、別にいいけど』
「「「「「…………」」」」」
さて、その際の発言の数々もまた、彼女たちの知るところに。
初めは心配して俺に憤り、途中からその威勢も無くなっていたが……うん、ひどいな。
今では眼の光を失った状態で、ゴミを見るような視線で仮想世界の映像を観ていた。
なんだかぼそぼそと言っているけど……大丈夫、俺は悪くない、悪いのはアイツ自身。
「しかしまあ、上手く堕ちたな。あそこまで黒く染まれるとは……これもまた、一種の才能であるな」
「アレはいったい……」
「儀式のようなものだ。アイツは【勇者】であることを辞め、【堕勇者】となった。詳しいことは言えんが……要するに、奴の本心が黒かったことが原因だ」
トリガーとなったのは【怠惰】の能力だ。
すべての<大罪>と<美徳>が有していた、世界のシステムに干渉するという裏技。
グーが調べたが、分かったのは──そのすべてが代償を支払わねばならないことのみ。
なので今回、テスト用にアイツ自身に支払わせて試してみた。
等価交換ではない、明らかに不平等な取引によってアレは成される。
その結果誕生したのが、【堕勇者】……本来存在するはずの無い新たな【勇者】だ。
「本来は闇属性に適性を持つ【勇者】が扱う“闇迅”シリーズ。奴はそれを手に入れ、より強大な力を振るうつもりなのだろう」
基本的に“光迅”シリーズは、使用者に対価を求めない……身力値ぐらいは使うけど。
それに加えて“闇迅”シリーズは、思考制限という対価が存在する。
使えば使うほど、適正の無い者は正常な思考ができなくなる。
だがその分、先ほど映像で観たようにその力は強大だ。
「……さて、貴様らは奴とどう接する? 間もなく、調整を終えたら奴は目覚めることになるが。仕組んだ我が言う言葉でも無いのだが、さすがに抱え込んだ闇が大きすぎた」
俺としても、彼女たちの受けた心的ダメージは偽善対象に含んでいいと思った。
なのでこうして、訊くぐらいの機会は与える……そして、彼女たちは選ぶ。
「私たち全員で話し合いました。もし、シャインが──たら、そのときは……お願いします。どうか、────てください!」
あえて伏せたが、あれだけのことがあってもほんの僅かな【希望】があるのだろう。
その光が本物なのか、まやかしなのかを俺に調べてもらう気でいる。
「……承知した。あのような状態だ、それが奴にとっても貴様らにとっても良い結果になるとは思えぬが……すべては、我が招いたことであるからな」
「……意外と、いい人なんですね」
「このように振る舞っていても、貴様らと同じくプレイヤーなのだ。貴様らがこのまま現実へ帰還すれば、悲しむ者もいるだろう。そういった配慮もまた、世間では必要なのだ」
警察沙汰にされても、学生であるモブは困りますので。
そういった部分を必死に隠しながら、そんな解答で誤魔化す俺であった。
少年が目を覚ました。
仮想世界での経験をフィードバックするため、少々時間が掛かってしまったのだ。
その間に少女たちはこの場を去り、玉座周辺には俺とシャインしかいない。
「! ニクス、ニクスはどこだ!?」
「──目覚めて初めての発言がそれとは、あの娘たちも浮かばれぬな」
「そういえば……アイツらはどこだ?」
「一つずつ答えよう。ニクスという娘は、あくまで貴様の思考から生みだした幻想。この場には居ない。娘たちは試練を終えて、すでにこの場から去っている」
少年の意識が、今の在り方が外見に影響を及ぼしている。
いかにも【勇者】っぽかった装備の白い輝きが、すべて昏く染まっていく。
また、容姿すらも……金髪金目のイケメンは、闇色に映えた髪と瞳を手に入れた。
「試練を経た貴様に問おう。貴様は一人の女のために、すべてを捨てた。これまで得たモノすべてと、釣り合うであろうその女……ニクスを見つけた貴様は、何をするのだ?」
「なんでそんなことを……まあいいや。俺のモノなんだから、好き勝手にするんだよ。今の俺なら、監禁だってでき──っ!」
「貴様の答えはその程度か。監禁、所詮は自信の無い初心なガキといったところ……ああ言っておくが、ニクスは俺のパートナー。当然場所は知っているが、貴様程度には不相応だろうよ」
「……知らねぇよ。なら、テメェをぶっ殺す方法性は変わらない。その前に拷問して、ニクスの居場所も吐かせてやる」
少年は剣を抜き、こちらに無得てくる。
先ほどの威圧もモノともしない当たり、職業の補正が凄まじいんだろうな。
少女たちの願いは……無駄だったようだ。
捨てられてもなお、彼女たちの【希望】はとても澄んでいたというのに。
『──もし、シャインがニクスさんに固執するようなのであれば……お願いします、どうか彼を止めてあげてください!』
『それは、誰のためにだ?』
『……ここで素直に、彼女のためとは言えません。ですが、私たちはたしかにシャインに救われたんです……彼を救う機会を、どうか与えてください!』
『……試練を超えてもなお、奴に固執するのであれば好きにしろ。我はもう何もしない、貴様らの自由だ』
もともと、奴の狙いは俺の……よ、嫁だ。
言葉にすると顔が赤くなりそうだが、それ以上に奴の狙いに【憤怒】で顔が赤くなりそうである。
──止めてやるさ、俺の嫁を守るため!
空間魔法“収納空間”より『天魔創糸』を取り出し、指に巻き付ける。
手加減はできないし、するつもりもない。
全力を以って、奴に試練を与えよう!
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