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偽善者と未熟者たち 三十九月目

偽善者と迷宮内氾濫 その04

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 祈念者代表であるナックル、そして自由民代表であるアルザスにポーションを渡した。
 勘繰りをされてしまったものの、どうにか誤魔化せた……と本人的には思う。

 その後、ギリギリまで第二フェイズの氾濫への済ませ……時間に。
 多くの探索者たちが並ぶ門の上に、俺もまた立っていた。

 普段の──万能状態な俺ならば、たとえ子供たちだけであろうとも、無傷で勝利させられるぐらいの支援を施すこともできる……がしかし、今の俺は縛りプレイ状態。

 保有しているスキルはそれなりだが、戦闘において大した役には立てない。
 それを自覚しているからこそ、錬金術師としてポーションを作っていたのだ。


「まあでも、レベルを上げて新しいスキルを集めたいんだよね……そのためには、魔物を倒していかないと」


 縛りプレイにおける高レベル状態のリセット、加えて祈念者的要素を足したシステム。
 上げたレベルを消費することで、取得していないスキルを獲得可能だ。

 今まで鑑定やら幸運といった、正直獲得条件を満たせないスキルをそれで得ている。
 ……俺の適性が無さ過ぎるせいか、眷属たちの設定する価格もかなりシビアだった。

 まあ、それでも一番高かったのは適性皆無だという演技スキル。
 VRモノ定番の鑑定スキルより高いとは、さすがに俺も思っていなかったよ。


「火力が出せない状態で、あんまり攻撃していると寄生とか横取りとか思われそうだからな……仕方ない、アイテムをレンタルして前に出ますか」


 忘れられているもう一つのシステム。
 先ほどまで遺製具を普通に使っていたが、本来であれば縛りの最中にそれは使えない。

 だが用意されたシステム──経験値を代償にすることで、合法的に使うことができる。
 便利であればあるほどお高めな設定……神器など当然使えないし、体が耐えられない。

 それでも今の自分に足りないモノを補うため、使えるアイテムを探っていく。
 ポーションで補助的な面は補えている、今必要なのは強力な──


「…………」

「…………えっと、何かな?」

「…………」

「あのー、ナシェクさん?」


 突然現れた天使の如き美女。
 その正体は模造の天使にして聖具──否、聖武具ナシェケエル。

 魔臣たちの反乱対応から、ずっとお世話になっていたが……途中からは彼らが解き放った魔物たちへの対応を任せており、彼女を武具として使うことが無くなっていた。

 ふむ、ここで考えられる選択肢は二つ。
 一つ、謝って聖武具ナシェクに助力を求める。
 そして、もう一つは──模造天使ナシェケエルとして動いてもらうこと。

 だが、後者それを彼女は望んでいない。
 しかし、俺にはそれをしてもらわなければならない理由があった。


「……悪いけど、別で動いてもらうよ。いちおう、きちんとした理由があるから聞いてくれるかな?」

「……」

「単純な話、戦力が足りない。もちろん、実の所は死傷者を出す気が無いから、蘇生も準備している。だから究極的なことを言えば、最悪全滅でそれを反省として活かすでもいいけど……僕はそれを求めていない」


 それではそもそもとして、こんなことやらなくても良いではないか。
 だがあえてやっているのは、もしもの時に備えてのこと。

 なぁなぁで生きてきてはいるが、俺もまたかなり特殊な出来事に遭って今がある。
 俺の支配する迷宮が、突然何らかの原因で猛威を振るう可能性もあるかもしれない。

 現実世界には『かもしれない○○』なんて想定があったが、俺のそれもそう。
 ありえないだろう自体が、もしも起きたときに……備えておきたいだけだ。


「準備はどれだけしたって、困ることは無いからね。無駄になるなら無駄になるで、それは笑い話にでもすればいい。でも、もし何もしないでみんなが被害を受けることが起きたら……僕は責任を感じる」

「…………」

「だからこれも、一種の『偽善』だね。僕は僕が後で嫌だなぁって思うことを避けるために、みんなを利用しているんだ。だから、今回はナシェクも……ナシェケエルも利用させてほしい」

「…………………………ハァァァ」


 物凄く長い溜めの後、ゆっくりと息を吐き出すナシェク。
 とても人間らしい動きを見せた後、彼女はジト目でこちらを見る。


「思うところは多々ありますが、あまり干渉しないよう契約を結んでいる身。渋々ではありますが、今回は指示を受けましょう」

「そう言ってくれると助かるよ。本当、あんまり言った通りにやってくれる人が居ないのが困ることなんだよ」

「……あの方々ではそうでしょうね」


 ナシェクは何だかんだ、異世界人てんいしゃの先輩であるミコトとの経験が多い。
 そして、彼女の遺産(ということにしてある別物)を知るための手掛かり。

 彼女の功績を、武術や精神性を広めるために利用されていることは分かるが、眷属のたまに見せる『おちゃめ』に比べればまだまだ可愛いものである。

 ……本当、可愛いものだ。
 無理やり服を引き剥がされ、用意された衣装に身を包んだ時など…………おかしいな、目から水が零れてくるや。


「……あの、本当に大丈夫ですか?」

「いろいろあったんだよ……」

「……ダメそうですね」


 それからしばらく、俺は何もしないままナシェクに守られていたそうだ。


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