2,499 / 2,518
偽善者と未熟者たち 三十九月目
偽善者と迷宮内氾濫 その02
しおりを挟む氾濫と同時に起きた反乱を収束させた俺。
一方で、祈念者や自由民の探索者たちに任せた氾濫だったが……まだま問題は山積み。
段階的に魔者のレベルを引き上げていく予定だったのだが、探索者たちの大半が第一段階でいっぱいいっぱいだったのだ。
「一先ず──魔臣、集合!」
『!』
俺の号令に応じ、集まってくれたのは高い知性を持つ魔物──魔臣たち。
今回、迷宮を利用した反乱を起こした彼らだが……収束させた今は協力してくれる。
なお、探索者たちが彼らに挑もうと討伐はほぼ不可能。
それだけのスペックと戦闘経験を、彼らは有しているのだから。
「──はっきり言おう、この氾濫防衛は探索者たちがこの先この都市を守れるかどうかという確認だ。なので、今回はお前たちが直接この騒動に関わることは無い」
「そ、そんな!」
「えー、そんなのつまんねぇぜ」
「こればかりはな……実際、迷宮の氾濫が強制的に引き起こされた時、お前たちがどのような状況下にあるか分からないからな。いつまでもお前たちに頼っていられる、というわけでもないんだ」
迷宮に外部から干渉する術が、絶対に無いとは言い切れない。
そして、迷宮内の存在を暴走させることもまた、不可能では無いだろう。
だからこそ、迷宮が生み出した存在ではない探索者たちが必要になった。
彼らは支配下に無い、俺が自由に扱えないからこそ自由に戦うことができる。
「ただし、彼らはお前たちに遥かに劣っている。まあ、そもそも人と魔物にはスペックの差があるし、お前たちは人と同等の知性とシステムの恩恵があるからな。普通にやって、負けるはずが無いんだよ」
魔臣たちはただの魔物と違い、さまざまなやり方で人以上のスペックを有していた。
魔物もスキルは持っているし、一部の魔物は高い知性を得ている。
だが、職業を与えられる魔物は、基本的に迷宮の魔物か従魔だけ。
種族で擬似的に職業の力を得ているモノならば稀に居るが、職業そのものは不可能だ。
…………まあだからこそ、彼らが固有種になる可能性は絶無なわけだが。
「こほんっ。まあともあれ、そんあわけで直接の支援はアウト。その代わり、みんなには間接的な支援を手伝ってもらうぞ」
「支援、とは具体的にどのようなものを?」
「ローラなら歌だな。一定時間に一曲、ペースを空けてその場で必要な歌を歌ってくれ。他の面々も、直接攻撃無しで支援する方法を用意してあるから、それを実行してほしい」
人魚であるローラには、歌で支援してもらう……普通の人魚とは少し違うので、探索者へのバフでなく魔物たちへのデバフだな。
魔臣たちはできることが多いので、一芸特化の個体でも大抵のことは可能だ。
彼らにはそれぞれ、異なる形で探索者が魔物と戦えるようにしてもらう。
「さーて、忙しくなるぞ──それじゃあ、張り切っていこー!」
『おー!』
変身魔法で姿を再びノゾムのモノへ。
さまざまな経験を積むことで、この弱体化した状態でも扱えるスキルをどんどん増やしていく予定だ。
……どうせ、全力で戦う必要は無い。
第二フェイズ、これもまだ乗り越えられると想定しているレベルだし……うん、余裕は無くて被害者が出ようとな。
◆ □ ◆ □ ◆
まだ時間がある、ということで今できることをやっておくことに。
まずは錬金関係、上級にまで至った錬金術は多くの品を生み出すことができる。
「ハナ、次は『邪毒草』をお願い」
「はい──こちらを」
俺の隣で指示を待っていたハナは、俺が指定した植物をその場に生み出す。
採取スキルでそれを摘み取ると、成分の抽出をし──ポーションにする。
名前から分かるように、邪で毒の草なので加工の難易度はかなり高い。
なので裏技、すでに製作済みの品でのみ行える『簡成』を使用する。
品質が落ちる代わりに、素材さえあれば過程を大幅にカットして製作可能だ。
魔法陣が浮かぶと、邪毒草が浮かび上がり液体が水玉として抽出される。
同時に、準備していた魔力入りの水やら中和用の薬草やらからも水玉が浮かび、邪毒草の液体と混ざっていく。
やがてそこに魔力が注がれ、一つの大きな液体の塊となる。
今回作った『毒耐性ポーションV』は、ほとんどの毒を無効化できる代物だ。
「麻痺、眠り、混乱、魅了、そして毒……それなりに作れた。ハナが居てくれたお陰で、
ね?」
「そ、そんな……メルス様のお力があればこそ、ですよ」
「……まあ、ちょっとズルいことをしている自覚はあるけどね。いちおう作ったことがあるからこそ、こんな風にサクッと作ることができるわけだし」
ハナは自在に植物を生み出せる。
ユラルと似た能力だが、彼女と違いハナはゲームでいうところの『性質:悪』みたいな植物の生成に長けていた。
ただ、どんな毒草も使いよう。
生産神の加護の恩恵にあやかり、さまざまなアイテムを錬金している俺にとっては簡単に扱える。
まあ、縛りの上級錬金では扱えない外法なやり方が必要な植物も生やせるのだけど。
そちらは生産というより儀式が必要なためか、生産神の加護は非対応だ。
普段はともかく、今は扱える植物だけを指定して出してもらっている。
そうして作ったポーションが、探索者のためになるだろう……第二フェイズ的にもな。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる