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偽善者と荒れ狂う喜劇 四月目
04-40 撲滅イベント その18
しおりを挟むSIDE:シャイン
……おかしい、何かが変だ。
真っ白な空間に立つ俺は、一人考える。
今までどうして、それを不思議に思わないでいたのだろうか。
念じるだけで出てくるはずの[メニュー]は出現せず、仕草や直接コマンドを言っても変化は起きない。
なので[ログアウト]も[GMコール]も使えず、[ウィスパー]や[メール]も使えない……これが仕様ならクソゲー認定されること間違いなしだが、原因が絶対にある。
「まるで、思考を制限されていたみたいなんだよな……そんな魔法やスキルは聞いたことがないけど、そもそもあんなチート野郎だって誰にも知られていなかったんだからな」
この現象や今までの違和感、それらすべてがあの【魔王】の仕業なんだろう。
いつの間にか拳は強く握られており、どれだけ怒りを覚えているのか痛みで認識する。
同じくして、冷静さを取り戻す。
怒りに染まっていた考え方も、それによって新たな疑問を生みだした。
「…………気づくことができた? いや、どうして気づけたんだ? たしかに、【勇者】の能力で耐性が付いたって可能性もある。けど、違う……これまでそれを気づかせなかったんだから、知る術があるはずだ!」
たぶん、アイツは今もこちらを観ているはずなんだ。
俺が気づきかけた時点で、初期状態にでも戻していたのだろう。
ならば、なぜこのタイミングで……もう気づいたとしても、手遅れなナニカが現実で起きているから!?
『キャーーーッ!!』
俺の思考を遮るように、どこかで女んお子が助けを求める声がする……それは、何度も聞いたことのあるような声。
「つまり、これから起きるわけか……なら、今回で決着をつけてやる──“光迅脚”!」
覚悟を決め、声が聞こえる場所へ向けて瞬時に駆け抜ける。
これも何度か使っていたはずだ……奴の思い通りになんか、なってたまるか。
◆
『グギャァアアアアアアアアアアッ!!』
俺が向かった先には、巨大な亜竜が居た。
エリアボスとして有名な北の強化亜竜も、そこまで大きくはないはずだ。
そして、そこには一人の少女。
美少女、そう認識しかできない異物。
彼女を見た瞬間、俺はこれまでの違和感が間違いで無かったと知る。
「た、助けてください! ……って、いつもは言っていたけど、覚えているかしら?」
「…………」
「沈黙は肯定として受け取るわね。今回貴方がそれを覚えているのは、予想通り偶然ではない──貴方の言うところの『魔王様』が、そうなされたのよ」
「どうして、それをお前が?」
本当はなんとなく予想がついている。
その考えすら読めているのか、少女はこれまで見せたことのない笑みを浮かべて、俺を見ていた。
「……いちいち分かっていることを訊かない方がいいわよ。さて、解答を聞かせてもらおうかしら?」
「──お前の正体はアイツの配下。そして、ここはアイツが創りだした仮想世界。理由は知らないが、何かを調べようとしている……これでどうだ?」
「御明察。ただ、少しだけ違う点があるとすれば、それは別に貴方のことを調べているわけじゃないってところかしら」
先ほどとはまた異なる笑みを浮かべ、意味深なことを言う少女。
背筋がゾクリとするような、【勇者】として感じたことのないような恐怖を覚える。
「……じゃあ、いったい何を」
「それを考えるのは貴方自身よ。自分の胸に手を当ててみなさい……貴方が考えた通り、次こそが最後の試練となるわ。貴方がどのような選択をするのか──魅せなさい」
「お前は、もう何もしないのか?」
「ええ、最後の試練は特別。だから私は必要ないし、魔物もアレが用意されている」
クエストで一度、北のエリアボスとして一度戦っているが、どちらもかなり苦戦した。
俺以外の全員が死に戻りし、それによって強化された能力値でどうにか倒したほどだ。
だが、今回は単独。
能力値が強化されることもないし、遮蔽物もない以上巨体を相手に攻撃を躱すことも難しいだろう。
とはいえ、それはだいぶ前の話。
これまでにレベルアップを重ね、新しく得た能力も多い──決して、亜竜が相手でも苦戦はしないはずだ。
「こいつを倒せば……あの【魔王】も、出てくるんだろうな」
「ええ、そうでしょうね。ただ、そこまで強い相手かしら? 魔王様は、単独で亜竜を倒したのよ。種族も職業もレベル1、もちろん貴方の言うチートなんかも無しでね」
「ッ……!? おい、ちょっと待て!」
「試練がどうなるのか、見届けさせてもらうわ。少しの間、いっしょにいた間柄よ。それぐらいはサービスしてあげる」
慌てて引き留めたが、少女はこれまでの記憶通りにこの場からスッと消えていく。
残されたのは俺と亜竜、そして……信じられない情報だけだった。
レベル1、それがどれだけ弱いかなんて俺だって覚えている。
それなりに補正がある【勇者】でも、最初は1.75倍ぐらいだった。
レベルを上げれば、戦えるようになる。
種族も職業もスキルも、レベルを上げるだけで何でも強くなるからだ。
しかしレベル1ということは、そういった補正も最低限である。
もし上位種族や職業だったとしても、補正値は低い……そこまで高くはないだろう。
「どうやったらそんなことを……いや、チートを使ってないって話が嘘なんだろうな。そうだ、そうに違いない」
その秘密については、アイツを斬ってから聞けばいいだろう。
そんなことを考えていると──ドタドタと何かが落ちる音がどこかで響いていた。
「なっ──!?」
その音が響いた方を向いてみれば、そこには知っている女性たちの姿が。
レベリ、マリン、ミルク、チャイト、プレイナ……そして──
「あれは……ニクス、なのか?」
非リア充グループとの戦いが始まり、大規模な魔法を放った美女。
しかし【魔王】の試練には落ちたのか、あの場には居なかったはずだ。
あのときは遠目であったか、今であればその容姿をじっと見ることができる。
燃えるような髪や整った端正な顔立ち、艶やかな姿態など……すべてが心を奪う。
『──イ、──シイ』
何かが脳裏を過ぎるが、それは希薄で感じ取ることができない。
しかし、その思いを心のどこかで受け入れていると、なんとなく分かってしまう。
「俺は、ニクスを……」
『ギャオォオオオオオオオ!』
「っ……! 今は、そんなこと考えている暇なんかなさそうだな」
思考を遮るように咆える亜竜。
慌ててそちらに意識を向けてみれば、口内で尋常ではない量の魔力が溜められている。
それは『息吹』と呼ばれる、ドラゴン系の種族がよく使う攻撃方法。
物凄い速度で膨大な魔力が飛ぶため、大抵の奴は回避できないまま死ぬ。
だが、俺には“光迅脚”がある。
すぐに発動させ、彼女たちを救いに行く。
そのための一歩を踏み出そうとして……そのことに気づいた。
「……使えない? くそ、“光迅脚”! どうして使えない、“光迅脚”、“光迅脚”、“光迅脚”! ……なんでだ!!」
まさかと思い他のスキルも試してみるが、結果は予想通り……何も発動しない。
俺自身が【勇者】の能力値で庇えば、一人ぐらいは救えるだろうが……。
「選ばなきゃ、いけないのか……」
俺はいったい、誰を救えばいいんだ!?
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