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偽善者と荒れ狂う喜劇 四月目
04-38 撲滅イベント その16
しおりを挟むSIDE:シャイン
「ここは……いったいどこだ? 【魔王】、それにアイツらは……」
あの男が何らかのスキルで、俺をこの場所に飛ばした。
あれだけイキっていたが、勝てないから時間を稼ごうとしたのだろう。
……妙に覚えていない点があるが、俺が負けるはずがないのだから、間違いない。
先ほどまでいた根暗野郎に相応しい暗ぼったい場所は、気づけば真っ白な空間へ。
いったいどうなっているのか……いや、考えても仕方ない。
負けるはずはないが、アイツは間違いなく何らかのチートを持っている。
最初の召喚魔法からそうだが、魔力チート的なナニカがあるはずだ。
俺の【勇者】としての力が、妙に通用していなかった……気がする。
魔力チートの他にも、まだ何かを隠しているだろう。
ステータスは改竄されていたし、俺の魔王殺しスキルがあっても届かない能力値。
本当に、腹立たしい……俺より上に立とうとするなんて、なんと烏滸がましいことか。
『キャーーーッ!』
どこからともなく、悲鳴が聞こえる。
女性のものだが、どうしてこんな場所でとも思う……まあ、それ以外のヒントが無いのもまた事実。
「行くか──“光迅脚”」
女から情報を手に入れ、見た目が良ければ相応の礼も貰おう。
光速で走れる【勇者】にのみ与えられた力で、一気に声の発生源へ向かうのだった。
◆
『『ギャギャギャギャッ!』』
「そ、そこの御方、た、助けてください!」
「お、おい、頼む……助けてくれ!」
向かった先には、二匹の魔小鬼と一組の男女が居た。
二人は視界の右端と左端に座り込み、そこに魔小鬼が襲い掛かるという構図だ。
魔法を詠唱している暇もなく、間もなく二人には魔小鬼の攻撃が届くだろう。
……若干男の方に早く当たり、殺されてしまうはずだ。
ならば、俺がすべきことは──
「──“光迅剣”!」
『ギャッ!』
まだ発動を維持し続けていた“光迅脚”。
解ける直前だったので、動けたのは一歩分だけ……それでも、やるべきことはできた。
光を纏った剣が、魔小鬼を斬り裂く。
どうやら間に合ったようだ……ふぅ、と一息を吐くと──
「ガハッ……な、なんで」
「悪い、定員オーバーだった。安心しろ、仇は討ってやるよ」
『ギャァッ!』
「くそ、が……」
俺が斬ったのは女性側の魔小鬼。
そのため、男は無慈悲にも魔小鬼によって石斧を当てられて死んでしまう。
嗚呼、なんて可哀そうなことに……でもまあ、女の方は俺がなんとかするよ。
女の方は自分のことで意識がいっぱいだったみたいで、男を観てなかったみたいだし。
──都合がいい、扱いやすそうだ。
「大丈夫ですか、お怪我はありませんか?」
「は、はい……た、助かりました」
「そうですか、ご無事で何よりです」
女は顔を俯かせ、少し震えている。
まだ怯えているのか……チッ、面倒臭いが適当に慰めるか?
なんてことを思っていたら、ポツリと女が呟いた。
「どうして……私を助けたのですか?」
「? それは、どういう意味でしょうか」
「はっきりとは見えていません。ですが、声は聞こえていました。どうして彼を見殺しにして、私の方に来たのですか?」
「それは……」
面倒臭い女だな、地雷って言うんだよこういう奴は。
助けてやったというのに、その行いに違和感を抱くとか頭がイカレてるな。
「私と彼、その違いはなんでしたか? 攻撃が届くまでの差ですか、それとも──性別ですか? 私が女性だから助けて、男性だった彼を見殺しに……そういうことですか?」
「そ、それは……」
反論しようとした、そうではないと。
だが俯いていた彼女の顔を見た途端、その心の主張は消え失せた。
たしかに顔は美人だった。
イベント開始後に見たクースと同じくらいに、顔立ちはいい。
だがそれ以上に特徴的なのは目だ。
どす黒い、すべてを呑み込むような真っ黒な目がこちらを見てくる。
「貴方は今までもそうやって、女性ばかりを助けてきたのでしょう。男性が同じように危険な目に遭っても、そこに女性が関わらなければ傍観だってしたはずです」
「ち、違……。──ッ!?」
「貴方がやっていることは、純粋な行為ではありません。それは偽善にも劣る──ただの性欲です」
言いたいことだけ言って、女は消える。
幽霊のように透明になっていき、そのまま溶けるように。
恐怖よりも怒りを覚える。
俺のことを何も知らない奴が、知ったようなことを言いやがって。
「チッ、今度会ったらぶっ殺し……あっ?」
いつの間にか体は膝を突き、思うように動かなくなっていく。
特に瞼は視界を閉ざし、すべてを闇の中へ引き摺り込もうとする。
「く、そ……これ、も、ま、おうの……ち、から、か……」
抗うことのできない力の前に、【勇者】であるシャインは屈した。
そして、すべては微睡の中へ……。
SIDE OUT
◆ □ ◆ □ ◆
そして、視点は偽善者である俺のものへ。
魔法で作ったモニターが映し出す、彼の活躍を観戦している現状。
無数のアイテムを並べ、椅子に座りながらおつまみを食ったりしている。
さながら映画鑑賞である……タイトルはそうだな──『【勇者】の末路』、かな?
「いやー、そういう選択肢かー。うんうん、自分から破滅の道を突き進むなー」
お察しの通り、彼がやっていることはすべてこの世界で起きていることではない。
俺の創り出した、もしもの世界での出来事である。
それは『竜軍行列』や『陽光一閃』、それに『英雄試練・怪力無双』のように複数の魔法や能力を組み合わせて生みだされた。
「霧、鱗粉、歌、洗脳、幻痛……それらすべてを一つに纏め上げて、具現化させて完成。神気で強化したその名は──『偽想世界』」
非常に魔力の燃費が悪いのだが、そこは偉大なるスー様のお陰で即座に補える。
本来ならメッカの儀式並みに感謝しないといけないんだよな……ありがとう、スー。
《……どういたしまして》
少々嬉しそうに答えてくれるので、俺の方もほっこりする。
だがまあ、客人の前だ……すぐに気を引き締めて、彼女たちと向かい合う。
「さて、彼に課した試練の結果だが……どうやら貴様らのご期待にはそぐえなかったようだな。貴様らが慕っていた男は、所詮肉欲に溺れた猿だったというわけだ」
「そ、そんなことありません! シャインには、彼を助けるだけの時間がありませんでした! 彼は自分にできる最大限をして……それでも、両方を救えなかっただけです」
「どうだかな。選択肢は他にもあっただろうに……奴の能力は光の速度で動くもの。ならば、多少の痛みを我慢することで、攻撃を受けつつもう一方の魔物を倒すこともできるはずだった」
ちなみに俺の場合、スーに魔物を隔離してもらい事情を聴く。
それが偽善対象にできる事情なら、協力したうえでリーンに送っていただろうな。
「貴様らにも一度語ったように、【勇者】の在り方そのものを試練とする。ありとあらゆる者を、己が身を賭して救う……それこそが真なる【勇者】の証明。我はこんな試練、すぐに終わらせると思っていたのだがな」
『…………』
「信じるのはいい、だが妄信は止めよ。奴もありもしない幻想を抱かれるよりは、現実を見たうえでなお信じられる方がマシだろう」
しっかりと言っておかないと、逆恨みをされてしまいそうなので重ねて告げておく。
まあ、これも一種の実験だ……別にリア充君だけが、今回の観察対象ではない。
「次の質問をしようか……さて、いつまで同じ態度でいられるかな?」
誰に対する問いかけなのか、理解できた者はいないだろう。
しかし、それでもたしかに進む時が……いずれその答えを示すはずだ。
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追記
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