上 下
144 / 2,519
偽善者と荒れ狂う喜劇 四月目

04-38 撲滅イベント その16

しおりを挟む


 SIDE:シャイン

「ここは……いったいどこだ? 【魔王】、それにアイツらは……」

 あの男が何らかのスキルで、俺をこの場所に飛ばした。
 あれだけイキっていたが、勝てないから時間を稼ごうとしたのだろう。

 ……妙に覚えていない点があるが、俺が負けるはずがないのだから、間違いない。

 先ほどまでいた根暗野郎に相応しい暗ぼったい場所は、気づけば真っ白な空間へ。
 いったいどうなっているのか……いや、考えても仕方ない。

 負けるはずはないが、アイツは間違いなく何らかのチートを持っている。
 最初の召喚魔法からそうだが、魔力チート的なナニカがあるはずだ。

 俺の【勇者】としての力が、妙に通用していなかった……気がする。
 魔力チートの他にも、まだ何かを隠しているだろう。

 ステータスは改竄されていたし、俺の魔王殺しスキルがあっても届かない能力値。
 本当に、腹立たしい……俺より上に立とうとするなんて、なんと烏滸がましいことか。

『キャーーーッ!』

 どこからともなく、悲鳴が聞こえる。
 女性のものだが、どうしてこんな場所でとも思う……まあ、それ以外のヒントが無いのもまた事実。

「行くか──“光迅脚”」

 女から情報を手に入れ、見た目が良ければ相応の礼も貰おう。
 光速で走れる【勇者】にのみ与えられた力で、一気に声の発生源へ向かうのだった。

          ◆

『『ギャギャギャギャッ!』』

「そ、そこの御方、た、助けてください!」

「お、おい、頼む……助けてくれ!」

 向かった先には、二匹の魔小鬼デミゴブリンと一組の男女が居た。
 二人は視界の右端と左端に座り込み、そこに魔小鬼が襲い掛かるという構図だ。

 魔法を詠唱している暇もなく、間もなく二人には魔小鬼の攻撃が届くだろう。
 ……若干男の方に早く当たり、殺されてしまうはずだ。

 ならば、俺がすべきことは──

「──“光迅剣”!」

『ギャッ!』

 まだ発動を維持し続けていた“光迅脚”。
 解ける直前だったので、動けたのは一歩分だけ……それでも、やるべきことはできた。

 光を纏った剣が、魔小鬼を斬り裂く。
 どうやら間に合ったようだ……ふぅ、と一息を吐くと──

「ガハッ……な、なんで」

「悪い、定員オーバーだった。安心しろ、仇は討ってやるよ」

『ギャァッ!』

「くそ、が……」

 俺が斬ったのは女性側の魔小鬼。
 そのため、男は無慈悲にも魔小鬼によって石斧を当てられて死んでしまう。

 嗚呼、なんて可哀そうなことに……でもまあ、女の方は俺がなんとかするよ。
 女の方は自分のことで意識がいっぱいだったみたいで、男を観てなかったみたいだし。

 ──都合がいい、扱いやすそうだ。

「大丈夫ですか、お怪我はありませんか?」

「は、はい……た、助かりました」

「そうですか、ご無事で何よりです」

 女は顔を俯かせ、少し震えている。
 まだ怯えているのか……チッ、面倒臭いが適当に慰めるか?

 なんてことを思っていたら、ポツリと女が呟いた。

「どうして……私を助けたのですか?」

「? それは、どういう意味でしょうか」

「はっきりとは見えていません。ですが、声は聞こえていました。どうして彼を見殺しにして、私の方に来たのですか?」

「それは……」

 面倒臭い女だな、地雷って言うんだよこういう奴は。
 助けてやったというのに、その行いに違和感を抱くとか頭がイカレてるな。

「私と彼、その違いはなんでしたか? 攻撃が届くまでの差ですか、それとも──性別ですか? 私が女性だから助けて、男性だった彼を見殺しに……そういうことですか?」

「そ、それは……」

 反論しようとした、そうではないと。
 だが俯いていた彼女の顔を見た途端、その心の主張は消え失せた。

 たしかに顔は美人だった。
 イベント開始後に見たクースと同じくらいに、顔立ちはいい。

 だがそれ以上に特徴的なのは目だ。
 どす黒い、すべてを呑み込むような真っ黒な目がこちらを見てくる。

「貴方は今までもそうやって、女性ばかりを助けてきたのでしょう。男性が同じように危険な目に遭っても、そこに女性が関わらなければ傍観だってしたはずです」

「ち、違……。──ッ!?」

「貴方がやっていることは、純粋な行為ではありません。それは偽善にも劣る──ただの性欲です」

 言いたいことだけ言って、女は消える。
 幽霊のように透明になっていき、そのまま溶けるように。

 恐怖よりも怒りを覚える。
 俺のことを何も知らない奴が、知ったようなことを言いやがって。

「チッ、今度会ったらぶっ殺し……あっ?」

 いつの間にか体は膝を突き、思うように動かなくなっていく。
 特に瞼は視界を閉ざし、すべてを闇の中へ引き摺り込もうとする。

「く、そ……これ、も、ま、おうの……ち、から、か……」

 抗うことのできない力の前に、【勇者】であるシャインは屈した。
 そして、すべては微睡の中へ……。

 SIDE OUT

  ◆   □   ◆   □   ◆

 そして、視点は偽善者である俺のものへ。
 魔法で作ったモニターが映し出す、彼の活躍を観戦している現状。

 無数のアイテムを並べ、椅子に座りながらおつまみを食ったりしている。
 さながら映画鑑賞である……タイトルはそうだな──『【勇者】の末路』、かな?

「いやー、そういう選択肢かー。うんうん、自分から破滅の道を突き進むなー」

 お察しの通り、彼がやっていることはすべてこの世界で起きていることではない。
 俺の創り出した、もしもの世界での出来事である。

 それは『竜軍行列』や『陽光一閃』、それに『英雄試練・怪力無双』のように複数の魔法や能力を組み合わせて生みだされた。

「霧、鱗粉、歌、洗脳、幻痛……それらすべてを一つに纏め上げて、具現化させて完成。神気で強化したその名は──『偽想世界』」

 非常に魔力の燃費が悪いのだが、そこは偉大なるスー様のお陰で即座に補える。
 本来ならメッカの儀式並みに感謝しないといけないんだよな……ありがとう、スー。

《……どういたしまして》

 少々嬉しそうに答えてくれるので、俺の方もほっこりする。
 だがまあ、客人の前だ……すぐに気を引き締めて、彼女たちと向かい合う。

「さて、彼に課した試練の結果だが……どうやら貴様らのご期待にはそぐえなかったようだな。貴様らが慕っていた男は、所詮肉欲に溺れた猿だったというわけだ」

「そ、そんなことありません! シャインには、彼を助けるだけの時間がありませんでした! 彼は自分にできる最大限をして……それでも、両方を救えなかっただけです」

「どうだかな。選択肢は他にもあっただろうに……奴の能力は光の速度で動くもの。ならば、多少の痛みを我慢することで、攻撃を受けつつもう一方の魔物を倒すこともできるはずだった」

 ちなみに俺の場合、スーに魔物を隔離してもらい事情を聴く。
 それが偽善対象にできる事情なら、協力したうえでリーンに送っていただろうな。

「貴様らにも一度語ったように、【勇者】の在り方そのものを試練とする。ありとあらゆる者を、己が身を賭して救う……それこそが真なる【勇者】の証明。我はこんな試練、すぐに終わらせると思っていたのだがな」

『…………』

「信じるのはいい、だが妄信は止めよ。奴もありもしない幻想を抱かれるよりは、現実を見たうえでなお信じられる方がマシだろう」

 しっかりと言っておかないと、逆恨みをされてしまいそうなので重ねて告げておく。
 まあ、これも一種の実験だ……別にリア充君だけが、今回の観察対象ではない。

「次の質問をしようか……さて、いつまで同じ態度でいられるかな?」

 誰に対する問いかけなのか、理解できた者はいないだろう。
 しかし、それでもたしかに進む時が……いずれその答えを示すはずだ。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...