上 下
2,497 / 2,519
偽善者と未熟者たち 三十九月目

偽善者と迷宮内反乱 その20

しおりを挟む


 強烈な光とそれを消す闇。
 瞬間的な光量の変化によって、ロカから距離を取ることに成功した。

 だが油断はできない。
 そもそも、逃げている俺の背後には今なお偽りながらも強力な力を秘めた神の槍が追い縋っているのだから。


「いい加減、黙らせるか──“血意転写ブラッドコピー”」


 空間を断つ魔法“空間断絶ティア”。
 そしてそれを纏わせ振るった、ミシェルの力を秘めた杖剣[レヴェラス]。

 予想外の回避方法でダメージはほとんど通らなかったものの、たしかに攻撃は掠った。
 そして、その際に付着した血液を媒介に発動する血魔法。

 その効果はスキルのコピー。
 対象の情報を把握したうえで、選択したスキルを一つだけ使うことができる……使用時間は摂取量と熟練度、スキルレベル依存。

 ロカのスキルは元より把握済み。
 コピーしただけではスキルは使えないが、今回は俺が充分にその力を知っているスキルなので何ら問題にはならない。


「【怠惰】解放──“不可視の手ハンド・オブ・ジュピター”」


 借り受けたのは【怠惰】。
 もっとも、生き延びるために懸命に足掻く俺には似つかわしくないもの……だがそれゆえに、楽をするためにこの力を求めた。

 展開するのは認識不可能な手。
 巨人の掌を思わせるほどに巨大化させ、南十本も生み出したそれらに槍を掴ませる。


「魔法付与──“空間歪曲ディストーション”」


 空間を捻じ曲げる、そんな魔法がすべての手に付与された。
 時魔法で時間を遅らせたかったが……残念ながら、今は未取得状態。

 なので代わりに使ったのは、『時間』の内『間』を意味する空間の魔法。
 一つひとつの手の中で歪んだ空間が、俺と槍との距離をどこまでも拡張。

 それと同時に捩じれた空間を押し付け、強制的に動きを止めるべく押さえつける。
 ……抗うためには、相応の身力を支払い続けなければならない。

 今のロカの魔力は借り物の無限。
 それを消費させ続けていけば、やがて訪れるのは──


「っ……!?」

「来たか」


 突然、動きを止めたロカ。
 体から湧き上がっていた膨大な身力が、少しずつ失われつつあった。

 それは単純な話。
 パッシブ能力である“過剰溜込オーバーチャージ”は切れることなく力を蓄えていようとも、消費した身力を補給する術を失っていた。

 つまりはアクティブ能力の時間切れ。
 今回の場合、“王を讃えよプライズ・オブ・キング”の効果が終了して自然回復速度が一段階分を残し終了してしまっていた。

 また、[グングニル]も手の中で暴れる力が少しずつ弱まっていく。
 自然回復速度が追い付かず、暴力的なまでの火力が出せなくなったのだ。

 結果、俺を追いかけていた身体強化は終わり、投げ続けていた[グングニル]の維持費も尽きる……もう同じことはできない、状況は一気に俺優勢──とはならない。


「まだだ──“湧き立つ衝動イクスエナジー”!」


 ロカが使えるのは<大罪>と<美徳>のスキルの内、二つのみ。
 だが、それを切り替えてしまえば使えるパターンは一気に増える。

 今回使った【憤怒】の“湧き立つ衝動”。
 その効果は戦闘中に消耗した身力に応じ、その自然回復速度を上げることができる……ただし、一定の確率で暴走してしまう。


「……本当にいいんだな?」

「ああ、構わん!」


 だがそれは、諸刃の剣。
 すでに精神を『侵蝕』する【傲慢】の効果は切れず、加えて自ら【憤怒】の『侵蝕』まで受けて始めた。

 なお、起動している【忍耐】は<美徳>なのだが……そちらもそちらで、起動し続けている間にさまざまな判定を受けている──対価もまた当然存在している。


「──“受体反撃セルフカウンター”!」

「なら俺は──“仮命委託デリバリー”」


 それでも【憤怒】の能力を重ねて行使し、俺を追い詰める。
 俺が閉じ込めていた[グングニル]を無理やり取り出し、自らそれを振るっていく。

 反撃しようにも発動した“受体反撃”により、直接抵抗することは難しい。
 だからこそ、【怠惰】の能力の一つを使った──周囲の無機物が突如として動き出す。

 発動した“仮命委託”、その効果は無機物に擬似的な命をもたらすというもの。
 俺と直接繋がっているわけではないので、カウンター効果を受けることは無い。

 加え、【怠惰】の能力だけあり生み出される存在のレベルも尋常ではない。
 普通の魔法やスキルでは辿り着けない、レベル251以上の存在が次々と生まれる。

 ゴーレムやガーゴイルなどが土や石、植物などで構築されてロカへ突っ込んでいく。
 そのすべてが[グングニル]を振るうロカに破壊されていく中、次なる手を打つ。


「──“夢限置感ドリーマー”」


 俺はその能力を発動した瞬間、夢の世界に立っていた。
 現夢世界──『夢幻』が統べる領域ではない、【怠惰】が生み出す小さな空間だ。

 それと同時に、俺の意識はこれまで同様ロカと共に『偽・世界樹』にもある。
 現実の俺と夢の俺、それが両方同時に存在し【矛盾】を起こさない。

 それが“夢限置感”の効果。
 寝ながら起きる、そしてそれを利用してあることができるようにする。


「さぁ、俺も正直時間が無いんだ……一気に終わらせるぞ」

「ああ、掛かってこいや!」

「──“光槍ライトランス”、“闇槍ダークランス”。×100!」

「ッ!?」


 あること、それは夢という時間の流れすら歪な空間における自由行動。
 魔法使いであれば、そこで魔法を蓄えたうえで現実に反映することができる。

 光と闇の槍が夢の中で生成され、俺が瞼を閉じて開くだけでその配置場所が変わった。
 魔力反応もいっさいなく、ただそこに在れと認識しただけで出現した不意打ち。

 ──ロカはそれを回避できないまま、全身で浴びるのだった。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...