上 下
2,497 / 2,518
偽善者と未熟者たち 三十九月目

偽善者と迷宮内反乱 その20

しおりを挟む


 強烈な光とそれを消す闇。
 瞬間的な光量の変化によって、ロカから距離を取ることに成功した。

 だが油断はできない。
 そもそも、逃げている俺の背後には今なお偽りながらも強力な力を秘めた神の槍が追い縋っているのだから。


「いい加減、黙らせるか──“血意転写ブラッドコピー”」


 空間を断つ魔法“空間断絶ティア”。
 そしてそれを纏わせ振るった、ミシェルの力を秘めた杖剣[レヴェラス]。

 予想外の回避方法でダメージはほとんど通らなかったものの、たしかに攻撃は掠った。
 そして、その際に付着した血液を媒介に発動する血魔法。

 その効果はスキルのコピー。
 対象の情報を把握したうえで、選択したスキルを一つだけ使うことができる……使用時間は摂取量と熟練度、スキルレベル依存。

 ロカのスキルは元より把握済み。
 コピーしただけではスキルは使えないが、今回は俺が充分にその力を知っているスキルなので何ら問題にはならない。


「【怠惰】解放──“不可視の手ハンド・オブ・ジュピター”」


 借り受けたのは【怠惰】。
 もっとも、生き延びるために懸命に足掻く俺には似つかわしくないもの……だがそれゆえに、楽をするためにこの力を求めた。

 展開するのは認識不可能な手。
 巨人の掌を思わせるほどに巨大化させ、南十本も生み出したそれらに槍を掴ませる。


「魔法付与──“空間歪曲ディストーション”」


 空間を捻じ曲げる、そんな魔法がすべての手に付与された。
 時魔法で時間を遅らせたかったが……残念ながら、今は未取得状態。

 なので代わりに使ったのは、『時間』の内『間』を意味する空間の魔法。
 一つひとつの手の中で歪んだ空間が、俺と槍との距離をどこまでも拡張。

 それと同時に捩じれた空間を押し付け、強制的に動きを止めるべく押さえつける。
 ……抗うためには、相応の身力を支払い続けなければならない。

 今のロカの魔力は借り物の無限。
 それを消費させ続けていけば、やがて訪れるのは──


「っ……!?」

「来たか」


 突然、動きを止めたロカ。
 体から湧き上がっていた膨大な身力が、少しずつ失われつつあった。

 それは単純な話。
 パッシブ能力である“過剰溜込オーバーチャージ”は切れることなく力を蓄えていようとも、消費した身力を補給する術を失っていた。

 つまりはアクティブ能力の時間切れ。
 今回の場合、“王を讃えよプライズ・オブ・キング”の効果が終了して自然回復速度が一段階分を残し終了してしまっていた。

 また、[グングニル]も手の中で暴れる力が少しずつ弱まっていく。
 自然回復速度が追い付かず、暴力的なまでの火力が出せなくなったのだ。

 結果、俺を追いかけていた身体強化は終わり、投げ続けていた[グングニル]の維持費も尽きる……もう同じことはできない、状況は一気に俺優勢──とはならない。


「まだだ──“湧き立つ衝動イクスエナジー”!」


 ロカが使えるのは<大罪>と<美徳>のスキルの内、二つのみ。
 だが、それを切り替えてしまえば使えるパターンは一気に増える。

 今回使った【憤怒】の“湧き立つ衝動”。
 その効果は戦闘中に消耗した身力に応じ、その自然回復速度を上げることができる……ただし、一定の確率で暴走してしまう。


「……本当にいいんだな?」

「ああ、構わん!」


 だがそれは、諸刃の剣。
 すでに精神を『侵蝕』する【傲慢】の効果は切れず、加えて自ら【憤怒】の『侵蝕』まで受けて始めた。

 なお、起動している【忍耐】は<美徳>なのだが……そちらもそちらで、起動し続けている間にさまざまな判定を受けている──対価もまた当然存在している。


「──“受体反撃セルフカウンター”!」

「なら俺は──“仮命委託デリバリー”」


 それでも【憤怒】の能力を重ねて行使し、俺を追い詰める。
 俺が閉じ込めていた[グングニル]を無理やり取り出し、自らそれを振るっていく。

 反撃しようにも発動した“受体反撃”により、直接抵抗することは難しい。
 だからこそ、【怠惰】の能力の一つを使った──周囲の無機物が突如として動き出す。

 発動した“仮命委託”、その効果は無機物に擬似的な命をもたらすというもの。
 俺と直接繋がっているわけではないので、カウンター効果を受けることは無い。

 加え、【怠惰】の能力だけあり生み出される存在のレベルも尋常ではない。
 普通の魔法やスキルでは辿り着けない、レベル251以上の存在が次々と生まれる。

 ゴーレムやガーゴイルなどが土や石、植物などで構築されてロカへ突っ込んでいく。
 そのすべてが[グングニル]を振るうロカに破壊されていく中、次なる手を打つ。


「──“夢限置感ドリーマー”」


 俺はその能力を発動した瞬間、夢の世界に立っていた。
 現夢世界──『夢幻』が統べる領域ではない、【怠惰】が生み出す小さな空間だ。

 それと同時に、俺の意識はこれまで同様ロカと共に『偽・世界樹』にもある。
 現実の俺と夢の俺、それが両方同時に存在し【矛盾】を起こさない。

 それが“夢限置感”の効果。
 寝ながら起きる、そしてそれを利用してあることができるようにする。


「さぁ、俺も正直時間が無いんだ……一気に終わらせるぞ」

「ああ、掛かってこいや!」

「──“光槍ライトランス”、“闇槍ダークランス”。×100!」

「ッ!?」


 あること、それは夢という時間の流れすら歪な空間における自由行動。
 魔法使いであれば、そこで魔法を蓄えたうえで現実に反映することができる。

 光と闇の槍が夢の中で生成され、俺が瞼を閉じて開くだけでその配置場所が変わった。
 魔力反応もいっさいなく、ただそこに在れと認識しただけで出現した不意打ち。

 ──ロカはそれを回避できないまま、全身で浴びるのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...