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偽善者と未熟者たち 三十九月目

偽善者と迷宮内反乱 その18

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 ロカは<大罪>と<美徳>の『侵蝕』に適合するよう創られた、特別な存在。
 今は【傲慢】と【忍耐】を使い、俺の広げた[ドラグリュウレ]に向き合っている。

 ──“劉展粒羽ドラグリュウレ・焉武”。

 溜め込んだ光を消費し、三人の眷属が持つ竜の力を引き出す能力。
 そして、その能力を短時間な代わりに極限まで再現することができる“劉展粒羽”。

 中でも“劉展粒羽・焉武”は、劉──すなわちシュリュの再現に特化した能力。
 覇者の如き武芸の才能、そしてそれを引き出す劉の異端さをその身に体現する。

 ──“過剰溜込オーバーチャージ”。

 効果は身力値を限界以上に溜められる、ただそれだけな【忍耐】の能力。
 本来であれば、常時起動することで意味を成すのだが──ロカは先ほど使ったばかり。

 一見すれば、俺の方が有利な状況。
 だがロカの瞳はギラギラと、銀色の輝きを俺に見せつけていた。


「──“天人地尊プライドヒーロー”!」


 ロカが次いで宣言したそれは、【傲慢】の能力。
 相手のレベルが自分より劣る時、あらゆる能力に補正が掛かるというもの。

 普段ならともかく、今の俺のレベルはかなり低い状態にある。
 つまり、相応にロカの補正も絶大に掛かっていた。

 それでも、魔導“普遍在りし凡人領域”の効果で能力値自体への補正は掛からない。
 ロカもそれは分かっているのだろう、だからこそ──まだロカのターンは続く。


「──“王を讃えよプライズ・オブ・キング”!」


 これもまた、【傲慢】の能力。
 一定時間の間、自信を対象としたあらゆるバフ能力が重複し、かつマイナスとなる効果については無視することができる。

 おまけに、“王を讃えよ”以外の能力に関する制限時間も無視可能。
 スキルレベルに依存する……が、そちらも限界突破しているならどこまでも伸びる。

 その後、ロカは大量のスキルを起動して自らにバフを施していく。
 能力値の強化をするだけがバフではない、行動の補助にはさまざまな在り様がある。

 攻撃を一度完全に無効、即死攻撃を一度回避、自然回復速度増大、固定ダメージによる追撃など……維持費以外のデメリットは無いのでどんどん増やしていた。


「……なるほど、それで“過剰溜込”か」

「その通り! 最初に使っておけば、それだけである程度溜めておけるからな。そして、これが最後──“神喰狼”!」

「…………神殺し付与の効果か」

「さぁ、こっちの準備はできたぜ。そっちも時間が無いんだろう? さっさとやろうか」


 光を溜め込んだ[ドラグリュウレ]も、ロカの“王を讃えよ”も時間制限がある。
 それが終わってしまえば、魔導展開中は一気に弱体化してしまう。

 だからこそ、俺は“劉展粒羽・焉武”を選択したのだ。
 空けていた片手に剣が収まるイメージをすると、六枚羽の一翼が光に還元される。

 黒い光で編まれた武器、その一つを手に取り──視界に映りだした線をなぞっていく。
 ロカはそれを高速で動く中捉え、回避しようとするが……無駄だ。

 それはシュリュの<武芸覇者>を──覇者へと導く力を模したもの。
 武器を握っている間、攻撃をする際に最適なルートを視覚で捉えることができる。

 ロカも巧みに動き、俺を翻弄していた……それでも、眼が正しく軌道を見抜いていた。
 振り下ろされたその武器は、回避不可能なタイミングで的確に急所に届く。


「うおっ、無効化系が全部消えた!?」

「それだけ火力があるんだよ。さぁ、このまま続けるぞ」

「……いいぜ、盛り上がってきた。それでこそのアンタだよな!」


 高々と吠えるロカ。
 その背中には白と黒の一翼が。
 天魔種、俺の創造したこの新種には必ず翼生成系の種族性質が備わっている。

 ロカはその翼を──なんと変形させ、鋭い刃のように作り変えていた。
 もともと存在しない部位だからこそ、武器としての使い方を目指したのかもしれない。

 俺と同じく翼を用いた戦い方。
 それはかつて、俺が翼闘術スキルの練習をロカと行っていたのも理由に含まれているかのかもな。


「──“空間断絶ティア”」

「っ……やば──」

「──『音速斬ソニックスラッシュシン』」

「くっ……掠ったか!」


 現在、“劉展粒羽・焉武”の武器だけではなく聖邪の力を秘めた剣──[レヴェラス]も同時に振るっていた俺。

 取得に苦労した空間魔法を剣に注ぐと、現状スキルとして使えない武技を『思い出し』擬似的に発動する。

 音速で放たれた斬撃は、意図した身力の操作により射程を拡張。
 つまり宙を飛び、ロカの体を削り取る一撃と化した。

 だが、相手もまた迷宮の守護者に相応しい存在。
 最適解をなぞったはずの斬撃を、ある変化・・・・で最低限の被害に留めていた。


「……人化、できたのか」

「ん? ああ、『どっち』なのか完全に決めてないから中途半端だけどな。ったく、使わされちまったじゃねぇか」


 そう、ロカは攻撃を避けるために体を骨格レベルで捻じ曲げる人化を使ったのだ。
 それは狼頭の人族、優男──と頭を見なければ──思われるような体格をしている。

 今まで俺に隠していた人化、その切り札を使ってきた。
 ……制限時間はまだ先、油断ならない戦いはまだまだ続く。


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