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偽善者と荒れ狂う喜劇 四月目
04-36 撲滅イベント その14
しおりを挟む至る所に出現したアンデッドたち。
壁を創ってハーレム野郎と男組を分けたのだが、出現した数は同じだし、両陣営のほぼトップがどんなものか視ておきたい。
「宿れ──“光迅剣”!」
リア充君の職業はなんと……【勇者】!
俺の知っている【○○の勇者】とは違い、正規版(?)の【勇者】である。
能力の解析はある程度レンが済ませてくれてあるのだが、先ほど使った武技っぽいヤツも【勇者】限定の能力によるものらしい。
「……ふむ、【勇者】か」
俺の就いている【英雄】は、この先大衆を強化できる能力に目覚める。
対して【勇者】は、その対象が少ない代わりに強化の幅が大きいそうだ。
要してしまえば──パーティーという少数で規模、集中して強化された精鋭たち。
その代表者である【勇者】のリア充君は、アンデッド相手に無双していた。
「“光迅術”。光系統の属性スキルを多く保有する【勇者】が獲得するという、もっとも【勇者】らしい能力だ。そも、【勇者】とは光への適性が無ければなれぬ職業だしな」
剣が纏う光には、アンデッドを払う破邪の力が当然籠められており……本人はいっさいダメージを受けないまま、物凄い勢いで俺の下へ迫ってきていた。
剣が触れた途端アンデッドは即浄化、他の属性でも何らかの方法で即消滅らしい。
他にもいろんなことができるらしいが……現状は、剣一本に殺られていることになる。
「そして、一番厄介な能力が“魔王殺し”。【勇者】のレベルに応じて、『魔の王』への特攻が入るようになる……実に厄介だ」
俺は【魔王】ではない。
だが、『魔の王』ではあるのだ。
従えた魔物の王、それが俺を『魔の王』たらしめている。
簡単に言ってしまえば──リョクの主である俺は、自動的に『魔の王』なのだ。
最低でも【勇者】はそんな相手と相対するだけで、能力値が十倍以上に跳ね上がる。
それだけではなく、その十分の一の強化をパーティーにも行えるそうだ。
「おまけに、生命力が減少すればするほど、能力値はさらに強化される……定番の、ピンチになるほどパワーアップする能力か」
あまりに優遇された破格の能力を保有する【勇者】なので、就く条件は高難易度。
それでも就けているのは、その資質があるからか……あるいはまた別の要因か。
「だが、奴らもまた進んでいるな」
圧倒的な個が率いるリア充グループとは異なり、全員が共に動いて少しずつだが堅実的にアンデッドを処理する非リア充グループ。
フィールドを自分たちの有利な状態にしたり、回復が必要になったらすぐに後退するなど、男組のリーダーが上手く立ち回る。
ただ力を見せつけるだけのリア充君とは異なり、協力プレイという感じだ。
なんというコミュ力……あの四人組との一時で学んだが、会話って大切なんだなー。
閑話休題
先に俺の下まで辿り着いたのは、【勇者】ことリア充君のパーティーだった。
猪突猛進な彼なので、堅実的な男組は遅れてしまったわけだな。
「ようやく来たか、自称勇者よ」
「はっ、誰が自称だ。お前こそ、身の丈に合わない魔王なんか辞めちまえ」
「……そうはいかないさ。それに、身の丈に合わぬのは貴様の方であろう? せっかくの【勇者】も、貴様のような勇気と無謀を履き違える蛮人に与えられたのでは泣いているだろうさ」
「ふんっ、減らず口を叩きやがって。お前みたいな調子に乗った奴は、この【勇者】であるシャイン様が倒してやる」
うわー、と出そうになった言葉をどうにか押し留めてリア充君を見る。
本気で言っているのが分かってしまい、思わず目を逸らしたくなってしまう。
だがしかし、そんな痛い台詞を吐いたリア充君に……彼の仲間たちは頬を紅潮!?
なぜそんな反応をするのか……あれか、いわゆる『恋は盲目』ってヤツなのか!?
けどまあ、俺がそんな台詞を言ってもフェニやレミルは変わらないんだろうな……ああいうのは、イケメンに限るってヤツだし。
「……い。……い! ……おい! お前、聞いているのか!?」
「──む? いや、全然だな」
「ふ、ふ、ふざけるな! 人がせっかく、辞世の句でも読ませてやろうと思ったのに! もういい許さん……ぶっ殺す!」
無視された程度でぶち切れたリア充君。
いやまあ、気持ちは分かる……俺も{感情}スキルが無ければ、これまでやってきたアレやコレで一度はそうなっていただろうし。
「喰らえ、魔王──“光迅剣”!」
「はぁ……無駄だ──“死霊壁”」
本来は霊体の攻撃も防げるという魔法なんだが……条件を満たすことで、その性能を上げることができる【死霊魔法】。
その条件は──殺害数。
先ほどの試練で祈念者を九割殺し尽くした結果、大幅な強化が行えた。
……ちなみに、自由民を殺した方がその強化の幅が大きいらしい。
死に戻りをする祈念者だと、その強化に必要なナニカが減るとのこと(byグー)。
「くっ……“光迅脚”」
移動用の能力を使い、リア充君は足に光を纏わせる。
一瞬の内に自分のパーティーが居る場所まで下がると、彼女たちとトークを始めた。
□
「だ、大丈夫ですかシャインさん!? す、すぐに回復します!」
「ああ、ありがとうミルク。マリン、あいつの魔法を視てどう思った? お前の魔法でどうにかできないか?」
「……正直に言うと、難しいかも。視た感じからして、アレはたぶん【死霊】のブラウッドが使う【死霊魔法】と同じモノだと思う。けど、性能が桁違い。ただの光魔法じゃなくて、破邪に特化した光を使える人は……」
「俺だけ、ということか」
「アタシが引き付けている間に、シャインが攻撃すればいいんじゃねぇか?」
「私も精いっぱい援護射撃をします!」
「レベリ、チャイト、ありがとう。けど……落ち着いてくれ。ああ見えても、プレイヤーのほとんどを皆殺しにするだけのナニカがあるはずなんだ。プレイナ、あいつのステータスは分かったか?」
「それがさっぱり。看破しても全部真っ黒に塗り潰されてる。おまけにレベルが上がるくらいだから、相当だよ。結構自信あったのになー、それも無くしちゃうよ」
「大丈夫だ、プレイナ。どうせ、俺より弱いからステータスを隠すことに特化しているだけだろう。俺の力があれば、そんなインチキしていようと一撃で潰せる」
「「「「「シャイン……!」」」」」」
□
などと彼らだけの桃色空間を生みだして、俺に精神攻撃を仕掛けてくる始末だ。
まあ、今の内に倒せる相手は倒しておくべきだろう……見るべきものも見たしな。
「ここに試練は果たされた! 満たせし者には新たな試練を、果たせぬ者には……死を与えよう──“生死傾棘”」
「──かはっ、なん……でだ」
せっかくアンデッドたちと戦っていたところなのだが、生死魔法“生死傾棘”を発動させて男組の皆さんを退場に追い込む。
リジェネか即死か選べる魔法なのだが、圧倒的強さが確率の壁を改変し、六人全員を殺すことに成功する。
「【勇者】が勝ち、貴様らは敗北者となったのだ。……秘薬はマシマシで渡しておく、迷惑料だと思っておけ」
「……ははっ、ずいぶんと気前がいい魔王も居たもんだな」
「それこそが、王の技量というものよ」
何でもありな{感情}スキル、【強欲】の能力でリーダーの[アイテムボックス]に秘薬一ダースを押し込んでおいたし、彼らもきっと許してくれるだろう。
正直、この後は特にやってもらうこともないため、報酬だけ渡して帰ってもらった。
残ったのはそれに気づきもせず、今なおイチャコラする【勇者】(ブチッ)。
──少しぐらい、はっちゃけてもいい気がしてきた。
耐久度無限の神器、『模倣玉』ことギーに武器へ変化してもらう。
ネタ武具として作った漆黒の木刀……アイツ程度なら、これで充分だ。
「さて、新たな試練を始めよう」
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