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偽善者と未熟者たち 三十九月目

偽善者と迷宮内反乱 その15

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 第五の迷宮『不変の採取場』は、本来生息していないはずの魔物だらけだった。
 そのからくりは単純で、反乱した迷宮などからがっつり回収していたのだ。

 さて、そんな魔物の大群に対して、力を貸してくれている魔臣たちが猛攻撃。
 ストレス発散やら熱狂を求めて、外部へ出ようとする魔物たちを尽く滅ぼしている。


「……ひとえに、俺の問題は自分から進んでコミュニケーションを取らないことだな。あまりに酷かったからこそ、今回みたいな問題が起きたわけだし」

『理解しているならば、改善を……いえ、無理でしょうね』

「あの、ナシェクさんや。そういうのは、最後を言っても言わなくても結局傷つくんですよ? 事実だから否定できない分、余計に」

『あの娘のように、積極的に人に関わらないからでしょう。これからはもっと、清く正しい振る舞いを──』


 ここからの流れはいつも同じなので、聞き流しておくことに。
 なお、気温の問題が解消されたため、鎧状態では無く初期状態である腕輪モードだ。

 しばらくすると、俺が話を聞いていないことがバレて説教を受けるまでがワンセット。
 なんだかんだ、溜め息を吐くだけで諦めてくれる辺り……いろいろ経験済みのようだ。


『──ところで、貴方は何もしないので? 支援するのであれば、鎧以外の第一形態は許可しましょう』

「うーん、魔法で支援するなら『杖』を貸してもらいたいけど、ただなぁ……」

『何ですか、まさか不満でも?』

「そういうことじゃなくてだな。たぶん、このままが一番だと思うんだよ」


 塗料シリーズを身に纏い、いちおうナシェクがストライキを起こした時に備えて武器も[アイテムボックス]に収めているが、ここに来てから俺は戦闘行為をしていない。

 魔臣たちのやりたいようにやってもらいたいという気持ちもあったのだが、それと同じくらいこの迷宮のコンセプトに則っておきたいという意思もあった。

 この迷宮は初期も初期、【迷宮主】として造った迷宮の中でもかなり古い方。
 世界から隔離され、素材不足に悩む元ネイロ王国の人々のために造ったものだ。

 慢性的な問題はそれから解決し、今は当時ほど求められているわけでは無いが……初心者が技術を学ぶ場として、『静寂の黄金畑』と並んで使われている。

 そして、そんな初期に配置した管理人。
 知性があった方がいろいろ仕事を任せやすい、と安易な考えで配置されたのが──この迷宮の魔臣だった。


「だからこそ、あえて魔物を迷宮の中に引き込んだうえで倒させている。明確なルール違反だしな──そうだろう、『ウォッツ』?」

「『一つ、暴力行為を認めない。二つ、あらゆる差別を認めない。三つ、環境破壊を認めない。そぐわぬ者に限り、排除を許容する』と、仰られましたので」

「だからそれをさせてから、追い出そうとしたわけだ。じゃあ、俺はどうなる?」

「『二つ、あらゆる差別を認めない』。眷属と我々……魔臣、でしたか? その扱いには差別があるかと……」


 俺の発言もばっちり確認されていたみたいで、現れたこの地の魔臣──『神鉱人形王』のウォッツは武器を構える。


『…………メルス、確認しても?』

「別にいいが……一つだけ──」

『その、小さくありませんか?』

「──『特例事項、この私に小さいという意味を持つ単語を告げた者。そのすべてにルールに関係なく制裁を下す』」

「おっと……悪いな、悪気は無いんだよ。ただ少し、前のご主人様がストレートに意思を伝える人だったみたいでな」


 ナシェクの発言、それを感知したウォッツによる超高速の攻撃。
 武器を持っていたはずの腕が鋭い棘となって、それが腕輪へ伸びてきたのだ。

 それもそのはず、武器を持っていたというのはフェイク。
 ウォッツの本命は、自在に変化する腕による不意打ちだった。

 俺はそれを予測していたので、強化した視力でタイミングを見計らい軌道から外れる。
 ウォッツもそれ以上の追撃はせず、腕を元の状態に戻す。


「ナシェク……」

『すみません……』

「言い切れなかったが、NGワードがあるからそれは絶対に言わないこと。攻撃をしていてもしていなくとも、ルールの不適合者として認定されて攻撃されるから……まあ、手遅れだったようだが」


 先ほども語ったが、ウォッツは初期の迷宮に配置した魔臣であり管理人。
 そのため、いろいろと考えた結果──ミントと同じ極小シリーズから召喚していた。

 今では種族名に記載されなくなったが、かつて記された名は『極小人形ミニマムドール』。
 ミント同様に十センチにも満たなかった小さな魔臣だが、それが大きくなった。

 全身を構築するのは、神器を創るためによく使っていた神鉱石。
 常人には決して壊せない、世界最高峰の硬度を持つ鉱石を自在に操れる。


「ウォッツ、戦闘の意思は? いちおう確認するが、『侵蝕』とかは無いか?」

「ございません。私は私の意思で、挑ませていただきます」

「そっか──なら、それに応えるわけにはいかないな」

「…………はっ?」


 腕輪を庇うように動くだけで、俺は武器を手に取らない。
 それを訝し気に見てくるウォッツ……いやいや、意味はあるんだぞ?


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