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偽善者と未熟者たち 三十九月目
偽善者と迷宮内反乱 その13
しおりを挟む最下層、『噴き荒ぶ灼火洞』の奥地。
マグマの中から現れた知性の高い魔物──魔臣こそ、この地の管理者たるラヴだった。
「ところで、俺がここに来たってことで他の三人みたいに終わりにしてくれる……ってことはないか?」
「何を寝ぼけたことを。おいおい、冷めちまうだろ。こうでもしないと、盛り上がんないからな。さぁ、やろうぜ!」
「やっぱりこうなるか……戦闘狂だな」
「違う、おれは戦闘狂じゃねぇよ。ただただ熱さを、滾るような熱が欲しい──いわば熱狂だ!」
人型のマグマが、無貌の形相でありながらそう叫ぶ。
熱狂、本来の意味とはややズレており、要は熱くなることを信条にしている感じだ。
実際、俺も最初からこんな流れになるだろうなぁと予想はしていた。
だからこそ、彼女たちはここに入れなかった……その証拠に、気温が急上昇していく。
語られた熱狂、それはラヴ自身の体温の向上を意味する。
そしてそれは、同時に迷宮自体の気温をも上げていく。
彼女たちには大変酷な話だ。
まあ、セツもここまでとは思ってなかったのだろう……ラヴと実際に会っていないと、これは分からなかっただろうし。
「一つ。これに答えてくれたら、戦いにも応じるから答えてくれ」
「おうっ、それぐらいならいいぞ。絶対に後で戦ってもらうけどな」
「……この迷宮から外に魔物を出したな。そのうえで、迷宮自体を暑くした。ラヴ自身にリソースを割り振ってはいないだろうが、それでもリソース、足りないだろう? ──どこから持ってきたんだ?」
「…………答えは言わない。ただし、おれを本気にさせたら言ってやるよ」
約束と違うのだが……まあ、ラヴはその性質上、テンションを上げられればいいというある意味俺の同類だしな。
すなわち、人生快楽刹那主義。
その日を適当に、自分が楽しめればいいので細かいことを考えてなど…………うっ、自分にもダメージが。
「なら、本気どころか全力でやってやる」
「……ちょ、ちょっと待ってくれよ。それ、さすがに熱いどころか爆発──」
「その代わり、前々から言ってたアレ。それとこの後俺の代わりに働いてもらうぞ」
「だから待てって──」
返事は聞かない。
どうせこいつのことだ、なんだかんだ満足させればやってくれる……俺と似ているだからこそ、分かっているのだ。
「【憤怒】解放──“湧き立つ衝動”」
真っ赤なオーラが全身から溢れ出す。
それと同時に、腕には虹色に輝く竜鱗で構築された籠手が出現する。
顔は無いものの、想定外……想定以上の俺の本気っぷりに引きつっている気がした。
彼らにもまた、俺は眷属同様の全力サービスをしているだけのこと。
「行くぞ──“神竜逆鱗”!」
「あー、もうどうにでもなれ!」
籠手から竜の力を引き出し、意図して暴走させることで膨大な戦闘力を手に入れる。
その荒れ狂う衝動も、【憤怒】というより強大な衝動が強制的に鎮圧していた。
つまりはノーリスク。
さすがは【憤怒】の魔武具、【憤怒】そのものとの相性が完璧である。
それらを理解しているからこそ、ラヴ──【憤怒】の適合者もまた燃え盛っていた。
二つの【憤怒】──その競争心が、どこまでもマグマを滾らせていく。
◆ □ ◆ □ ◆
──ナシェクから長い長いお説教を受け、俺たちは最深部から出た。
まあ、聖具であるナシェクは本能的に魔に属する<大罪>系統を嫌うからな。
それでもお説教で済ませる辺り、いろいろな経験をミコト先輩と積んできたのだろう。
「旦那様、ご無、事で……何、より」
「ああ、ちょっとばかし揉めたけどな。でもこの通り、何とか分かってもらった」
「…………分かってもらう? 分からせではありませんか!」
「だから分かってもらう、だろう? 何というか、意味違くないか?」
暑さに耐えていたセツが、気温以上に顔を紅潮させて叫ぶ理由。
それは俺の隣に立っている、人型の──女性型のマグマが原因だろう。
「浮気ですか、浮気ですね! 眷属の方々はともかく、まさかこんな予想外な手を!」
「俺、ハーレム推奨派だから……じゃなくてだな。単純な話、ラヴとの契約はする予定ではあったんだ。時期とかいろいろあって、忘れ……こほんっ、後になっていたがな」
ラヴはマグマの人形──などではない。
その正体はマグマの精霊、人形はそんな精霊が外部に進出するためのアバターのようなものだった。
今回、賭けの結果として精霊としての性質も持つアバターを創ってもらったのだ。
そこにラヴの一部が宿り、縛り時の俺のサポートを必要な時にしてもらう。
……女性型を注文した覚えは無いし、何やらいろいろとした結果なのか、体形だけでなくほぼ人と同じ容姿をしているのだが、どうやら魔臣間で共通の認識があるらしい。
「まあまあ、落ち着けってセツ」
「貴方がそれを言いますか、この泥棒猫!」
「猫じゃなくてマグマだ……だいたいよ、お前さんも分かってるんだろう? その態度も全部、甘えたいためのポーズなんだからよ」
「な、なな……!」
俺が聞けたのはここまで。
セツを宥めにラヴが向かったのだが、俺はローラとハナに連れられて離れた場所へ。
二人が視覚と聴覚を遮り、会話を傍受させてくれなかった。
だが結果として、不服そうな顔をしたセツが戻ってきて──
「……旦那様、浮気はほどほどに。あと、これからはもっと私を構ってください」
と、言ってローラとハナを連れて再びラヴの下へ。
浮気と言われても、もう今更な気がするしな……とりあえず、【希望】には応えよう。
そんなこんなで、第四の迷宮もまた無事に鎮静化させたのだった。
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